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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十二章『迷界大祭』

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お祭り本番:ヨミの店


『閑古鳥。大合唱。やあやあ、どうもいらっしゃい。商売事というのは実際やってみると案外難しいものだね』


 よっぽど暇だったのでしょう。

 レンリ達が『降霊術の館』に入ると、ヨミが気だるげな様子で出迎えてくれました。幽霊がどうだかは分かりませんが、少なくとも生きているお客さんは他に誰一人いません。特に応対している様子もなく閑古鳥云々と言っているあたり、レンリ達に見えない幽霊のお客がいるわけでもなさそうです。



「やあ、ヨミ君。なんというか……怪しげだね。この水晶玉とか、よく分からない動物の頭蓋骨とかは何に使うんだい?」


『回答。小道具。そのあたりの道具は雰囲気作りのために急遽揃えた置物だから、特に何に使うってことはないよ。その水晶玉も水晶じゃなくて安物のガラス玉だし、骨は粘土を捏ねてそれっぽい形を作っただけだしね。でも、薄暗いテントの中で見るとなんだかそれっぽく見えてこないかな?』



 真っ黒い布を張ったテントの中は、数本のロウソクしか光源がありません。

 そこらの店に行けばもっと明るいランプや魔力を用いた照明器具も手に入るのですが、あえて薄暗い状態を保つことで内装の安っぽさに気付かれにくくする狙いがあったようです。



「あ、本当だ。近くでよく見たらえらく作りが安っぽい……まあオカルト系の出し物の演出ってことならそれもアリかもだけど、内装の雰囲気作りに凝るより前にまずお客さんが入るようにしないと意味なくない?」


『是。正論。耳が痛いね。それはそうなのだけど、でもほら、ウチは代々小細工なしの腕一本で勝負しているからね。頑固一徹のこだわり派なので』


「代々も何も開業初日だし、思い切り小細工に走りまくってるだろうに。いくら幽霊をどうこうする能力が本物でも、それだけで放っておいてもお客さんが入るなんてナイーヴな考えは捨てることをオススメするよ。ていうか、そもそも何でヨミ君が出店なんてやってるんだい?」



 まず、その点に疑問がありました。

 ヨミがわざわざ商売をやってお金を稼ぐ必要などないのです。

 『日輪遊園』の事業にこそ噛んでいませんが、奈落城の住人が欲する食材や道具類に関しては、彼らの中の芸術家、歴史に名を残すほどの天才達の新作がなかなか良い値段で売れるのです。街の美術商への説明がややこしいため本人達のネームバリューは使えないのですが、それでも城で消費する物品を賄うくらいは余裕でできています。仮にそれでお金が足りなくとも、迷宮の姉達に言って遊園地の事業に参入させてもらうほうがよっぽど簡単でしょう。



「そういえば、さっきゴゴ君がお詫びがどうとか言ってたね。それって、例の宝石泥棒の?」


『是。謝意。我にその気はなかったとはいえ、結果的に我の能力で伯爵君に迷惑をかけてしまったからね。この店はそのお詫びのようなものなんだよ』


「それがどうも分からないんだよね。いやまあ、あの信心深い伯爵さんなら、キミらに頼られればそれだけで光栄だとか言って感激しそうだけど。でも、それが本当にお詫びになるかっていうと微妙じゃない?」



 レンリの疑問ももっともでしょう。


 宝石の件でヨミが迷惑をかけた。

 これは分かります。


 それについてのお詫びをしたいと思った。

 これも、まあいいとして。


 しかし、どうしてそれがオカルト系のお店に結び付くのか。

 それも怪しげで安っぽさ丸出しの流行らないお店なのか。

 そこがどうにも分かりません。



「ま、いいか」



 が、別に害があるわけでもなし。

 詳しい意図は分からずとも、ヨミがお店屋さんごっこをすることに満足しているのなら、わざわざそれを止める理由もありません。他の仲間や迷宮達もレンリと同意見のようです。



「もう時間もちょうど良さそうだし、私達はもう行くとするよ。一応聞くけど、ヨミ君も店を閉めて一緒に来るかい? 今日しかない珍しい食べ物や面白い出し物もいっぱいあるよ。ここ以外は」


『否。不動。せっかくだけど気持ちだけもらっておくとするよ』



 ちなみに現在のヨミが出せる化身の最大数は二体。ネムの最大一体よりはマシなものの、自分を増やすのは得意ではありません。その唯一の別のヨミも今はちょっとした用事で出かけているため、増やした自分に店番を任せて遊びに行くという手は使えないのです。



「ふぅん、だったら別にいいんだけど。実は一度言い出した手前、単に引っ込みがつかなくなってるだけだったりしない?」


『……否。本当。そんなことはないよ。マジでマジで。迷宮、嘘ツカナイネ』



 返答までに少しの間があったことには皆も気付いていましたが、あえてその点に触れない情けがレンリ達にもありました。あとヨミと雑談をしている間にそこそこの時間が経っていたようで、ぼちぼち移動しないと武術大会の本戦に遅刻してしまいそうです。


 こうしてこの時の(・・・・)レンリ達は特に何をするでもなく、ただただ雑談で時間を潰しただけでヨミの店を後にするのでした。




◆◆◆◆◆◆




《オマケ・ルカ》


挿絵(By みてみん)



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― 新着の感想 ―
[良い点] こうれい術屋 幽霊使役してるので間違ってない。 [気になる点] ハロウィーンも雇われそう。 迷宮をお化け屋敷にして、ゾンビには走って貰いましょう。 [一言] 更新お疲れ様です レンリが大人…
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