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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十二章『迷界大祭』

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お祭り本番:いろいろ


 色々と想定外の展開はあったものの、ルグとライムはどちらも武術大会の予選を通過しました。これで正午の本戦開始までの二時間くらいは自由時間として使えます。



「やっぱり、エンタメ的には普通の人にも見えるくらいのスピードで動いたほうが良いんじゃないかな。それくらいの縛りがあっても勝てないことはないだろう?」


「ん。善処する」



 エンタメ的な試合での観客受けについてレンリからの助言を貰ったライムは、本戦ではもう幾らか手加減してくれそうです。これなら見えない速度で攻撃を喰らって、何が起きたかも分からないうちに失神KOという展開だけは避けられることでしょう。まだ本戦でライムと当たるかは分かりませんが、これでルグも一安心です。



「さあ、時間が押してるから効率よく回らないとね」



 選手によっては本戦までの待ち時間に精神集中や軽いトレーニングなどするのかもしれませんが、ライムもルグもそこまで大会を重視しているわけではありません。

 それに何より今日は楽しいお祭りの日。せっかく空き時間ができたのだから、色々なお店や出し物を楽しみたいと思うのが人情というもの。



「そういえば、大会には出てなかったけどシモン君は?」


「仕事」



 まあ職業柄、今日は一日中警備の指揮で忙しくしている仲間もいましたが、そちらも後でライムが食べ物など買い込んで、騎士団の面々に差し入れを持っていくつもりのようです。存分にとはいかずとも、お祭りの雰囲気くらいは楽しめることでしょう。



「で、どこから回るかだけど。ウル君はどこが良いと思う?」


『ふっふっふ、人呼んで学都一のお祭り娘とは我のこと! オススメスポットをズバッと教えてあげるのよ』


「うんうん、分かりやすく浮かれてるねぇ。ウル君のそういうとこ良いと思うよ」



 レンリ達にはお祭りを最大限楽しむための秘策がありました。



『あっ、肉串ならそこの屋台より一つ奥の通りのお店がいいのよ? 値段は同じくらいだけど、あっちの方がお肉の切り方が大きいし、タレの味に深みがあったの。両方食べて比べたから間違いないのよ』



 まあ秘策というか、今も数十人数百人の自分を出して街のあちこちで同時にお祭りを楽しみまくっているウルに店屋や商品の感想を尋ねたり、出し物の待ち時間など聞くだけなのですが。この調子でいけば遠からず、街中の全ての店や商品をコンプリートすることもできるでしょう。かなりの力業ではありますが、情報の信頼性については間違いありません。

 ちなみに武術大会の観客席には今も複数人のウル達が残っており、試合をリアルタイムで観戦しつつレンリ達用の座席をそのままキープしていたりします。イベント事を楽しむことに関してのウルの本気度合いが窺えました。



『えっとね、まず我がオススメするのは……』



 そうして現在位置や待ち時間を考慮し、ウルが導き出した目的地は――。





 ◆◆◆





 本日は市内のあちこちの飲食店で大食いや早食いのイベントを開催していました。

 超大盛りのチャレンジメニューを時間内に完食できたら無料になったり、他の参加者より早く食べ切れば賞品や賞金が貰えたり。その中で開催時間の都合が合いそうなイベントを訪ねてみたのですが……、



『子豚の丸焼きをものの十秒で!?』


「うん、いいね。サッと手軽に食べられて良かったよ」


『我からオススメしておいてなんだけど、大食い大会を「サッと手軽に」扱いして三軒ハシゴするのは人間としてちょっとどうかと思うのよ?』



 この通り、結果については言うまでもないでしょう。

 観戦中にもずっと何かしら食べていたはずなのですが、レンリの胃袋に物理法則は通用しないようです。三軒合わせて三十分もかからず総ナメにしていました。



『えっと、食べ物ばっかりっていうのも芸がないし、次は――』


「えっ、私またちょっと小腹が空いてきたんだけど? そうだ、これは特に他意があるわけじゃなくてちょっとした好奇心で聞くんだけど、ウル君は野菜や果物に変身できたりはするのかい?」


『我を食べる気なの!? なろうと思えばなれるけど……そ、そんなことよりさっさと次に行くの!』



 レンリの気を逸らさなければウルの頭に齧りつきかねません。

 ウルは強引に話題を切って、次の目的地に一行を案内しました。






 ◆◆◆






 一行が次に訪れたのは腕相撲大会の会場です。

 飛び入り参加歓迎で、三人、五人、十人、とより多く連続で勝ち抜くほどに貰える賞金が増えるルールで随分と盛り上がっていました。とはいえ、最初は仲間の誰かが出場するつもりもなく軽く見物だけしていく予定だったのですが……。



「若き王者が帰ってきたッ」


「どこへ行っていたンだッ、チャンピオンッッ」


「俺達は君を待っていたッッッ」


「え……えっと、あの……わたし?」



 見物に来たルカの姿に、運営スタッフや見物客の何人かが気付いたことで風向きが変わってきました。ルカ本人は自覚がほとんどないのですが、彼女の名前は周辺地域の腕相撲界隈ではとても有名になっているのです。

 ちなみにライムも同じく人前で腕相撲の強さを披露して有名になったことがあるのですが、というか元はと言えば彼女こそが初代チャンピオンなのですが、ルカとどちらが真に強いかについては議論百出。中にはルカこそが真のチャンピオンだと主張するファンも少なくなく、未だに答えの出ない問いとしてしばしば論争が起きているとかいないとか。



「あ、あのぅ……人違いじゃ……?」


「人違いなものですか! あ、私ここの興行主です。どうも、よろしく。さあさ、伝説のルカさんから挑戦料なんて取れません。どうぞ、集まった連中を軽くひねってやって下さい!」


「わたし……で、伝説……なの……」



 ルカとしてはあまり目立つ場所に出たくはないのですが、こうも熱意を込めて語られては断ることもできません。ルカの大ファンだという興行主に背中をグイと押されて、気付けば会場の真ん中まで出てきてしまいました。



「あの子があの伝説のルカさんか」


「ああ、彼女の試合の余波だけで天が裂け地が割れたという」


「か弱そうな見た目でナメてかかった奴の腕を千本はへし折ってきたとか」


「そ、そんなこと……してない、です……っ」



 ルカの知らぬ間にめちゃくちゃ伝説が誇張されていました。

 慌てて誤った情報を正そうとするも悲しいかな、ルカの声が小さくて会場内の騒音でかき消されてしまいます。頼みの綱のレンリやウルは、むしろその噂を聞いてゲラゲラ笑って面白がるばかり。ライムはいつもの無表情で思考が読めませんし、愛するルグはこの状況から助け出せる手立てがないことを悟ってか申し訳なさそうに手を合わせています。最早、戦いから逃れることはできそうにありません。



「あぅぅ……」



 こうなったら一刻も早く試合を終わらせて、少しでも早くこの場を立ち去るしかありません。ルカがそうやって消極的な覚悟を決めたあたりで対戦者が現れました。



「ブヘヘヘヘ、俺様は学都腕相撲界の三傑衆が一人ザッコス様よ! おいおい、本当にこんなガキが強いのかよ」


「え、えい……っ」


「ぐわーっ!?」



 まずは一人撃破。

 しかし対戦者として名乗りを上げたのは一人だけではありません。



「ふっ、ザッコスなど三傑衆でも一番の小物。三傑の面汚しよぐわーっ」


「馬鹿ね、油断するからこうなるのよ。三傑衆の紅一点のアタイがぐわーっ」


「ほう、奴らを鎧袖一触とは面白い。どうやら三傑衆最後の一人であるこのワシの出番のようだぐわーっ」


「えいっ、えいっ、えいっ……ふぅ……あれ、四人?」



 次から次へと現れる挑戦者を千切っては投げ、千切っては投げ。

 汗すらかかない圧倒的勝利でたちまち四連勝。

 これでようやく終わりかと、ルカも安心しかけたのですが……。



「ククク、どうやら前座は終わりのようだな。次は高貴なる私が貴族流の腕相撲の流儀というものをこのお嬢さんに教えぐわーっ」


「HAHAHA! この国のアームレスリング低レベルデースぐわーっ」


「フハハハ、相手にとって不足なし! 世界を腕相撲で支配することを目指す我ら裏暗黒腕相撲会十二天の世界支配の第一歩として貴様を血祭りにぐわーっ」



 後から後から珍妙な性格と格好をした挑戦者が出てきます。

 一人一人は長くとも三秒以内に負かしているので肉体的な疲労は大したことないのですが、こうも数が多いと気疲れのほうが馬鹿になりません。うっかり相手の腕を折ったりしないよう、手加減をするのもなかなか大変なのです。が、しかし。



「……えいっ、えいっ、えいっ……ふぅ、次の人……あれ、終わり?」



 トータル三十人ほど倒したあたりで、ようやく本当に対戦者が尽きました。

 ルカがきょろきょろと周囲を見渡すも、新たに名乗りを上げる者は誰もいません。しいて言えばライムが興味を持ってはいたのですが、武術大会の本戦前に腕を傷めるリスクを考慮して今回は自重することにしたようです。



「えっと……じゃあ、あの……し、失礼しましたっ」


「ああっ、ルカさんお待ちください。賞金をお忘れですよ。いやぁ、久しぶりに勝負を拝見しましたが相変わらずお強い! 伝説にまた新たな一ページが加わりましたな。そのうちまた大会を開くので、その時は是非また参加してください」


「あはは……はぁ……」



 ルカとしては苦笑で誤魔化すしかありません。会場中から雨あられと投げかけられる歓声を背に受けつつ、ルカは逃げるような心地で会場を後にするのでした。






 ◆◆◆






「ふむ、正午までに回れるのはあと一箇所くらいかな?」



 屋台巡りに大食い大会のハシゴに腕相撲大会。一部不本意に参加させられたモノもありましたが、限られた時間内にしてはなかなか頑張ったほうでしょう。



「ウル君や、残り時間で行けそうな面白い所は何かないかい?」


『うーん、そうね。この場所でこの時間からだったら……』



 ちなみに、この時点での街全体での一番人気は博物館の宝石展で、二番人気は動物園の珍獣見物。本日は入場料無料の大盤振る舞いとあってか、どちらも数時間待ちの大行列ができていました。レンリ達としては、コネを使って先に見ておいて大正解といったところでしょう。



『えっとね、笛の音で蛇を操る芸人とか、絵本の古本市とか、あとは小っちゃい子向けの紙芝居屋さんとかかしら?』


「時間が限られてるから仕方ないけど、どうもパッとしないね。他にはないのかい?」


『うーん、あとは……あっ!』



 正午までの残り少ない限られた時間で、なおかつ競技場に戻るまでの移動時間を考えるとどうしても選択肢が限られてしまいます。いっそ寄り道せず早めに会場入りしておくのも一つの手ではありましたが、



『やあ、レンリさん。皆さんと、あとそちらの姉さんもこんにちは』


「やあ、ゴゴ君。他の皆もこんにちは。そっちは姉妹水入らずでお祭り見物してたんだね」



 そこでバッタリ迷宮達に出会いました。

 どうやら彼女らは、ウル含め、第一から第五までの姉妹で仲睦まじくお祭りを満喫していたようです。どの子も両手に屋台の食べ物や飲み物を抱え、服や髪にはどこかの店で買ったと思しきお揃いのアクセサリなど着けていました。全力でイベントを楽しんでいる様子が窺えます。



「私達はもうちょっとしたらそこの競技場に戻るけど、良かったら一緒にどうだい?」


『ええ、いいですよ。でも、その前に少し』



 ゴゴが指差したのは通りの隅っこにある大きなテント。何かしらの出し物なのでしょうが、テントの中が薄暗くて外から様子が窺えないせいか周囲の店に比べると客入りは芳しくなさそうです。



「なになに、『降霊術の館』……ああ、はいはいソッチ系のやつね。まあなんていうか、そういうの好きな人には需要あるんじゃない? ちょっと私の趣味からは外れるけど」



 いくら空いていてすぐ入れそうだからといっても、入れればなんでもいいというわけではありません。レンリもそう思って一度は興味を失いかけたのですが、



「って、『降霊』? そういえば、今日はヨミ君の姿が見えないね」


『ええ、ご推察の通りかと。どうも迷惑をかけたお詫びがどうとかで、ヨミが伯爵さんに頼んでここの空き地にお店を出させてもらったらしくて』



 この『降霊術の館』は種も仕掛けもない本物。一体何を思ってのことかはまだ不明ですが、ヨミが仲間の幽霊達と出したモノだったのです。



最近なんだか筆が乗っている気がします

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― 新着の感想 ―
[良い点] ちょうどいい感じの三下(笑) ルカを倒したくばルグか怖い怪談を話せるレンリを連れて来なければ! [一言] 更新お疲れ様です ルカの噂がトンデモ話に( ̄▽ ̄;) そのうち災害クラスの噂になっ…
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