迷探偵ヨミの事件簿と《読者への挑戦状》
半日ほどの捜査を終えた後のことです。
劇場艇から街に戻る途中の草原で、周囲から人影が消えた頃。
『真相。解明。謎は、全て解けた』
シモンや姉達を前に、ヨミは薄い胸を張って自信満々に言いました。
「なにっ!? 本当か、ヨミ!」
『訂正。過言。ごめん、ちょっと盛った。全部は分かってない』
が、シモンの反応を前に早速訂正しました。
どうやらカッコいい台詞を言ってみたかったがために、大袈裟に話を盛ったようで。
とはいえ、一部だけとはいえ進展があるというのは嘘ではありません。
「それで、ラックの奴がどこに行ったのか分かるか?」
『否。不明。それは分からないね。推理の材料が足りないよ』
まだ多くの謎は謎のまま。
まず、ラックがどこにいるのかは分かりません。
「では、ルビーがどこにあるのかは分かるか?」
『否。不明。何となく当たりは付いてる……かな? どこか遠くに運ばれて売り捌かれたりはしないというか、したくてもできないだろうからその点は大丈夫だと思うけど。二重の意味で』
盗まれたルビーがどこにあるのか。
これについては、大まかな見当は付いているものの詳細までは分かりません。
「それも分からんのか。じゃあ、犯人の名前はどうだ?」
『否。不明。さあ? 捕まえてから本人に聞いてみようか』
とんだ名探偵もいたものです。
むしろ、いったい何なら分かるのか。
単にリアルな探偵ゴッコがしたいだけではないのか。シモンの脳裏にそんな疑いがよぎりましたが、それでも一応は協力をお願いしている立場です。彼は根気強くヨミに尋ねてみました。
「ううむ……ヨミよ、そなた何なら分かるのだ?」
『手段。と。共犯。どうやって厳しい警備の中から盗み出したのかと、あとは犯人に手を貸した共犯者の名前くらいだね。やれやれ、本当は何もかも解き明かしてから華麗に謎解きを披露したかったのだけど』
「共犯? それは初めて出た話だな」
共犯者。
ここへ来て急に新たな存在が話に上がりました。
例えば博物館に出入りする職員や警備員を買収するなどすれば、誰にも露見せず展示物を盗み出せる可能性はあります……が、ヨミが言っているのは、どうやらそういう話でもないようで。
『解明。改。謎は、ちょっと解けた』
「『ちょっと』では、いまいち締まらんなぁ」
『肯定。同意。これでは名探偵というより迷探偵がいいとこだね。我ながら格好が悪い話だけど、まあ迷宮入りにはしないから安心してね。迷宮だけど』
名探偵ならぬ迷探偵。迷宮探偵ではありますが、だからといって事件を迷宮入りで終わらせるつもりはありません。共犯者の正体さえ明らかにすれば、後は芋づる式に他の謎もほとんど解けるはず。多分、きっと、恐らく解ける。解けたらいいなぁとヨミも思っています。
『正体。指摘。宝石泥棒に手を貸した、否、結果的に貸すことになってしまった共犯者は……』
ヨミは今度こそ本当に自信を持って「共犯者」をビシッと指差しました。
◆◆◆
《読者への挑戦状》
さて、賢明なる読者諸氏におかれましては、既にこの事件の真相が全てお分かりだとは思い……ません。迷探偵ヨミの言う通り、ほとんどの謎を論理的に解き明かすための手がかりは未だ揃っておりませんので。全て分かっていると思うなら、残念ながらそれは勘違いかと思われます。
故に、この場で問うのはただ一つ。
ヨミの言う「共犯者」の正体が誰であるかという一点のみ。
それさえ明らかになれば、残りの謎など些細なもの。街中の幽霊を総動員した人海戦術で、さしたる時間もかからず犯人と、人間の頭くらい大きなルビーの在処を突き止めることもできるでしょう。
たまにミステリ作品で見かける《読者への挑戦状》を前々からやってみたいと思ってたのでやってみました。難易度はたぶん易しめ。前の話をいちいち読み返すのが面倒なら、今回の描写だけでもほぼほぼ絞り込めると思います。




