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仲直り。そして、


 わざわざウルを迷宮の外にまで連れ出した甲斐もあって、無事に第二迷宮への立ち入り資格を獲得したレンリでしたが、



『うわーん、わーんっ』



 流石に脅し方が悪辣すぎたのか、街のど真ん中で泣かれてしまっていました。

 ウル本人に気にする余裕はなさそうですが、大きな泣き声で悪目立ちすること甚だしく、道行く人々からも無遠慮な視線を向けられています。 


 事情を知らない者がこの光景を見たら、まるでレンリが小さな子供をいじめて泣かせたように見えることでしょう。この場合「まるで」ではないのが余計問題なのですが。



「レン、流石にさっきのはないだろう」


「うん……ウルちゃん、かわいそう……だよ?」


「む……ん、確かにちょっとやりすぎたかもしれない」



 更に仲間の二人にまで非難され、いくらマイペースが服を着て歩いているレンリといえど、流石に居心地の悪さを感じているようです。



『わーん、わーんっ』


「あの、ウル君……まあ、その、なんだ。私もちょっとやり過ぎたよ。だから……」



 どうにか泣き止ませるべく話しかけてみましたが、



「あの……ウル、ちゃん……?」


『……わーんっ』



 ウルはルカの背に隠れてしまいました。

 これでは顔を合わせることもできません。




 そのまましばらく、三人は泣く子をどうすることもできず途方に暮れていたのですが、



「これこれ。道の真ん中を塞いでいては迷惑になろう……む? 誰かと思えばレンリ嬢達ではないか。ちょうど良かった。ギルドまで行く手間が省けたな」



 その時、偶然にも部下を引き連れたシモンが通りかかりました。いつぞやの講習の監督をしていた十人隊長のイマ女史も同行しています。



「あ、シモンさん。これはお見苦しいところを……ええと、ちょうどいいというのは?」


「まあ、それは後で構わぬ。今はそれよりも先にすべきことがあろう」



 そう言うと、シモンはルカの背に隠れたままのウルに近付きました。



「む、この気配はたしか……? そなたは……いや、誰であろうと関係ないな」



 彼は何も聞かずとも気配だけでウルの正体に勘付いたようですが、



「ほれ、これで涙を拭うがいい。せっかくの美人が台無しだぞ?」


『……え?』



 そんなのは瑣末な事とばかりに、ウルの目線の高さに合わせてしゃがみ、ポケットから取り出したハンカチを差し出しました。泣くのに必死でほとんど周りが見えていなかったウルは、この段階でやっとシモンの存在に気付いたようです。



『えっと……あの、ありがとうございます、なの』


「うむ、どういたしまして」



 受け取ったハンカチで目元を拭うと、ウルは幾分落ち着きを取り戻した様子。

 そんな彼女にシモンは親しげに語りかけます。


 

「ふむ、迷宮の中でたまに姿は見かけるが、こうしてそなたと話すのは久しいな」


『え? あ……! もしかしてお兄さんって、リ』


「うむ、その不肖の弟子だ」



 シモンはウルの台詞を途中で遮るようにして言葉を被せました。

 幸い、その違和感に気付いた者はこの場にはいないようですが。



『やっぱり! お名前は確か……シモン、さん?』


「うむ、いかにも。そちらは姿は前と違うが、気配と魔力の感じからするにウル殿かな?」


『はい、ですなの!』



 どうやら二人は旧知の間柄だったようです。

 第二迷宮以降に進んでいる探索者は全員ウルの試練を受けているはずなので、面識があるのは当然と言えば当然ですが、明らかにそれとは異なる雰囲気でした。



「それにしても、ウル殿。今日は随分と可愛らしい姿なのだな。いつもの獣姿も勇ましくて良いが、その姿も似合っておるぞ」


『そんな、可愛いだなんて照れちゃうのっ。あと我を呼ぶのに“殿”は要らないです、なの。ウルでいいのよ?』


「そうか。では、改めてウルよ、久しぶりだな。こうして話せて嬉しく思うぞ」


『あの、その……シモンさん、わ、我も嬉しいです!』



 この状況。別にシモンに幼女趣味ロリコンの気があるわけではなく、彼としては素で接しているだけなのですが、まるで彼がウルを口説いているかの如き対応。

 彼自身が治安維持組織の長でなければ完全に職質案件です。



「はっはっは、やっと笑ってくれたな。うむ、そなたは泣いているより笑った顔のほうが愛らしいな」


『そ、そう? えへへ……』



 以前、出会ったばかりのレンリも同じような種類の接し方をされていましたし、シモンの部下達も苦笑しながら半分諦めたように上司を見守っています。きっと普段から無自覚で似たような行動を繰り返しているのでしょう。



「それはそうと、どうしてレンリ嬢達とウルが一緒に街にいるのだ?」


『む……』


「う……」



 シモンの質問を受けて、ウルとレンリが揃って目を逸らしました。

 最初に約束を反故にしようとしたのはウルですが、その判断に至る過程とその後の対応に関してはレンリにも非があります。

 事態がここまで悪化したのは単なる意地の張り合いのような面も大きく、一度頭が冷えれば非常に大人気なくみっともない醜態だったと双方共に感じているようです。





「仕方ないな。えっと、最初から説明すると長くなるんですけど」


「ふむ、聞かせてくれ」



 口を閉ざした二人に代わってルグが説明すると、



「なるほど、そういう事だったか」



 ようやくシモンも事情を把握したようです。

 そして、落とし所を考える為か数秒ほど思案した後。



「レンリ嬢」


「は、はい……」


「戦場においては合理と卑怯は表裏一体。勝利を求めるが故に敵や、時には味方すらも騙すことがあろう。よって、試練の場でのそれは否定せぬ。だが、戦いから離れた場で油断した相手をたばかろうとしたのは感心せぬな」



 シモンは先にレンリにそう伝え、



「ウル」


『はい、なの……』


「管理者としての役目、実に大変なものであろう。日夜その重責を果たすそなたには、俺個人としても公人としても敬意を表する。だが、経緯はどうあれ、重要な判断に私情を交えるのは良くなかったな。今回の事は感情の波が大きい人の姿故だとは思うが、それならば一層公正であることを心がけられよ」



 次いでウルにも思ったことを告げました。






「あの、ウル君」


『えっと、お姉さん』


 そして、レンリとウルは揃って落ち込んだ様子を見せていましたが、



「騙すような真似をして悪かったよ。ごめんなさい」


『こっちもムキになってたの。ごめんなさい』



 双方頭を下げ、握手をして仲直り。

 この一件に関しては無事丸く収まったようです。







 ◆◆◆







 ですが、この直後。

 和やかな雰囲気は一変します。



「そういえば、シモンさん。私達に何か用事があったんじゃ?」


「おお、そうだ。すっかり忘れていた。ほら、以前似顔絵作りに協力してもらった列車強盗、覚えておるか?」



 勿論、忘れるはずがありません。



「ええ」


「まあ、そりゃ」


「…………」



 ルカだけは表向き事件を知らないことになっていますが、三人ともあの事件のことはよく覚えています。既に事件から三ヶ月近くが経ち、新聞や街の噂では、犯人一味はもうとっくに学都アカデミア近辺からは離れてしまったのだろうと囁かれていましたが……、



「それが、つい先程の話なのだが……あの事件の犯人を自称する男が急に一人だけで自首してきてな」


「「自首!?」」



 レンリとルグは声をハモらせて大いに驚いていました。ですが、この二人の受けたショックですら、ルカの受けた衝撃に比べれば実にささやかなものでしょう。



「まあ、悪戯の可能性もあるからな。事件の際に犯人と面識があるそなたらに面通しの協力を頼みたいと……おや、ルカ嬢、何やら顔色が優れぬが?」



 あまりのショックでか、ただでさえ白い肌を青白くしたルカは、



「お兄……ちゃ、ん……?」


「ちょっ、ルカ君!?」



 口の中でポツリと呟くと、その場で気を失ってしまったのです。



今回で一章は終わりです!

思ったより長くなってしまいましたが、ここまでお読み頂きありがとうございます。バトル物は書き慣れていないのですが良い勉強をさせてもらいました。


二章は迷宮内ではなく街が中心の話になると思います。

新章は六月中には始められると思いますので、どうか引き続きご贔屓に。

感想、ポイント、レビューなど頂けると嬉しいです。

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