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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十一章『迷宮大紀行』

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かくして真相は闇の中に


『ふふふ、その通り。わたくしこそが本当の真犯人だったのです!』


「本当の真犯人……って、何だか『頭痛が痛い』みたいだね」


 女神こそが今回の事件の真犯人。

 レンリの指摘を女神はあっさりと肯定しました。



「まず犯人とは言ってもその意味合いには解釈の余地が……って、よく考えたらコレ説明する必要あるかな? もうお互い分かってる話だし」


『うーん、わたくし的にはどちらでもいいんですけど、どうせ他の方が来るまで待つ必要はありますし。それまでの暇潰しってことでいかがです? 他にお喋りのネタがあればそっちでもいいですけど』


「うん、じゃあ、それで。まあ暇潰しくらいにはなるだろうさ」



 前提として、この事件はすでに終わっています。

 今から真犯人である女神を捕まえたり、大立ち回りを演じたりなどという要素が入る余地はありません。女神としてはレンリ以外の皆に真相がバレたところで、大した問題があるわけでもないのです。


 だから、この謎解きには待ち時間を潰すための雑談以上の価値はなし。

 その前提を踏まえた上で、レンリは事件の真相を語り始めました。



「さて、それじゃあ動機からいこうか。これは簡単だね、この世界のあちこちと、あとは魔界もだっけ。バラバラに散らばってる破壊神君の欠片をキレイに掃除して後顧の憂いを断ちたかった」


『ええ。だって邪魔臭いじゃないですか』



 いつ復活しないとも限らない巨大害虫があちこちに眠っている。

 しかも、その害虫はごく小さな破片一つからでも復活する可能性があるのです。そんな状況はどう考えても好ましいものではありません。

 


「一応聞いておくけど、『奇跡』で探して先んじて処分するとかはダメだったの?」


『やろうと思えばできなくもなかったんでしょうけど……ああ、いえ、やっぱりダメですね。あっちも神の性質があるせいか奇跡で干渉するコストが何かと重くなりがちなんですよ。一つや二つならともかく何千何万となると現実味に欠けますね。そのせいで信仰を使い果たして疫病や天災に対してノーガードになるっていうのは論外ですし』


「だからこそ、破壊神君が自発的にコストを支払って一箇所に集まってくれる状況は絶好の機会だったわけだ。しいて言うなら、コスト重めなのを覚悟で『奇跡』を使ったとすればあのタイミングかな。他の世界への逃亡とかじゃなくて、自分の破片を集めて復活するようにって思考を誘導するとか」



 万が一のリスクを考えれば処分しておきたい。

 しかし代償の大きさを考えれば無闇に動くわけにもいかない。

 今回の事件は女神が自分の信仰をほとんど使わず、この世界の大掃除ができる絶好の機会だったというわけです。



「元々あっちは復活を目指してたみたいだし、それがなくても直前まで死にかけで余裕のない状況だったし。そのあたりの思考の不自然さを自分で自覚するってのは相当に難しいだろう。私もネム君に似たようなのやられたことあるけど、ああいうのって本当に厄介なんだよね」


『うふふ、子供というのは自然と親に似てくるのかもしれませんね』


「うんうん。洗脳の手口の話じゃなかったら良い話に聞こえたかもね」



 この口ぶりからするにレンリの推測は当たっていたようです。

 そして、その点についてはもう少し補足が必要でしょう。



「あの、逃げた先の地面に埋まってた破片。アレって本当は『奇跡』でもなんでもないだろう? あらかじめシャベルか何かで埋めておいたのかな」


『ええ、近くのお店にあったのを少しお借りして。なにぶんこの細腕なもので、石畳を剥がすのが大変でした』



 ユーシャによって強制的にゴゴから分離させられた破壊神。

 死にかけの状態で這いずって逃げた先に、たまたま破片が埋まっていて力を回復することができた……なんて、そんな偶然があるはずありません。その破片は皆の目の前に出てくる直前に女神が埋めておいたものだったのです。



「今回の事件が見えた段階であらかじめ確保しておいた手頃な大きさの破片を、これまた未来を見て確定済みの逃走ルートに埋めておいた、と。その予知能力、ちょっと反則すぎない?」


『いえいえ、それほどでも……まあ、ありますけど。でも、そこまで便利なばかりでもないんですよ? 常時発動ともなると御多分に漏れずにコスト面が気になってきますし。特に今回くらいの精度で鮮明に見ようとすると』


「今回なんて埋める場所が一歩分でもズレてたらアウトだったかもだしね。ふむ、そのうち何かの報酬として未来予知の力を個人的に貰おうかとも考えてたけど、そういうことなら候補から外しておこうかな。下手をすると能力があるのにコストを支払えずに発動できないってオチもありそうだ」


『そんなこと考えてたんですか……いやまあ、できますけどね? 任意の超能力を生やしたりとかも。でも人間の方がそんなの持ってても能力に振り回されて人生台無しにするだけでしょうし、オススメはしませんけど。なるべく、そのまま心変わりしないようにお願いします』



 と、真相は言った通り。

 破壊神が最後の最後に全盛期の姿を取り戻したのは、必死の願いが呼び込んだ『奇跡』などではありません。それすら含めて悪辣な罠の一部でしかなかったのです。



「いやまあ、私もあの時はああ言ったけどね? いくら心の力が強さに繋がるっていったって限度があるよ。現実的なコスト面の負担が気持ちで軽くなったりしたら苦労はしないさ」


『ですよねぇ。ムムムと念じれば自分に都合の良い奇跡が起きるだなんて、そんな上手い話があるはずないじゃないですか。まず先立つモノがなきゃお話にもなりません』


「ははっ、神様がそれ言っちゃう?」


『わたくしはいいんですよ。神様なので』



 なんとも世知辛い話ですが事実なので仕方ありません。



「あとは、そうだねゴゴ君のことか。あの子にキツい役割を押し付ける形になったのは、迷宮と聖剣としての二重の覚醒を促すため。それとあえて身内を犠牲者ポジションに当てはめることで魔王さんを動かすためだった、というのは流石に穿ち過ぎかな?」


『結果的にそうなってしまったのは否定しませんけど。あと、予知で無事に済むのが分かっていたからこそ未然に止めなかったわけですけど……でも、そのあたりを差し引いてもそこは正直痛いところですね。あの子には悪いことをしました』



 女神としても無闇にゴゴや迷宮達を苦しめたかったわけではありません。悩みも苦しみもなく結果だけを得られていれば最上だったのですが、単に今回はそこまで都合の良い『未来』が存在し得なかったのです。 

 それに魔王を動かして決着をつけるためにはゴゴか、あるいは他の誰かに犠牲者役を担ってもらう必要がありました。もし誰も傷付いていなかったら、魔王は恐らく破壊神を倒すことなく穏便に済ませようと動いたでしょう。それで圧倒的な力量差を背景に説得するなどして破壊神が大人しくなったり、この世界から退散したとしても、それでは到底安心できません。

 たまたま魔王が何かの用事で地球に出向くなどして、ほんの数時間この世界を留守にしている間に本性を表して暴れられたら、それだけでアウトなのです。たとえ本当に改心する可能性があったとしても同じこと。そんな危険な賭けに出られるはずがありません。将来の禍根を完全に断つためには、身内が痛めつけられた姿を見せつけて、彼らしくない強硬的な反応を引き出す必要があったのです。



「まあ、それは仕方ない。仕方なかったとは思うけど。だから私もわざわざ皆に言ったりはしないんだけど」



 終わってみれば今回の事件はメリットばかり。誰一人として失われず、世界中に埋まっていた厄ネタが綺麗に取り除かれ、ゴゴも迷宮として、そして聖剣として成長することができたようです。

 その代償としてゴゴが危険に晒され、他の迷宮達も怒ったり悲しんだりする羽目になりましたが、それらも全ては未来予知で安全が保証された上での計画。だからこそ女神も事件の発生を見過ごしたわけですし、レンリもこうして真相を秘めておくつもりでいるわけですが……しかし、それでも。



「なるべく、あの子達を泣かせるような真似はしないでおくれよ。いくら迷宮だの神の幼体だのと言ったって、あの子達がまだ小さい子供であることに変わりはないんだからさ」


『…………、前向きに善処します』


「その間が気になるけど……まあ、いいさ。次に何か仕掛けるつもりなら私に一声かけてくれたまえ。悪知恵なら売るほどあるからさ、共犯として多少なりともマシな絵が描けるようにしてあげるとも」


『え、ええ、機会があればご一緒しましょう。それにしてもレンリさん、貴女……実はめちゃくちゃ優しいですよね?』


「はぁぁ!? そ、そんなはずがないだろう! 今の何をどう聞いたらそうなるのさ……って、ほら、他の皆来たよ! だから、もう、この話終わりっ!」



 と、照れ隠しがてらに強引に話を打ち切られてしまいました。


 暇潰しのお喋りはこれにてお終い。

 以降、彼女達がこの件について誰かに話すことはありません。

 こうして事件の真相は永久に闇へと葬り去られたのでありました。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ツンデレレンリ ツンデレ要素があれば腹黒レンリも相殺できるかも? [気になる点] 女神には一度女神様に反省をうながすダンスかモリヤステップという恥ずかしいダンスを世界同時放送してもらおう。…
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