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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十一章『迷宮大紀行』

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破壊神のあとしまつ


 そして、一夜明けた翌日の夕方。

 一見元通りになった街中でレンリは待ち合わせをしていました。

 今日はこれから昨日の皆で集まっての祝勝会。

 それが楽しみだったのと……あとは、まあちょっとした別件のために今日は珍しく一番手で集合場所に到着。その手には待ち時間を潰すために買ったばかりの、昨日から今朝方にかけての事件について報じた新聞がありました。 



“怪奇!? 集団夢遊病事件の謎”



 夢遊病。

 真相を知らない住人達からは、そのように捉えられていたようです。

 まったくの的外れではあるのですが無理もないでしょう。


 剣になった人々をウルの催眠ガスで眠らせながら、夜明けまでに街の『復元』は完了しました。あくまで表面上は、という前置きが付きますが。

 主に働いたのは『復元』を行使し続けたネムということになるのでしょうが、他の皆も決して楽をしていたばかりではありません。元々の街との差異チェックやら隙あらば暴走しがちなネムの監視・監督、次から次へと発生するトラブルの対処で夜明けまで一睡もできなかったのです。


 より具体的には、ネムが勢い余って土中に埋まっていたティラノサウルスの化石を大量復活させてしまったり、これまた勢い余って街中の建物がサイケデリックな色彩の前衛芸術的なシロモノになってしまったり、またまた勢い余って街の地下に眠っていた超古代文明の遺構を一部発見したり、魔王が差し入れた夜食を皆で食べたりなど。よくもまあ一晩で一段落するところまで持っていけたものです。



「うん、私達はよくやったよね。戦うより大変だった……」



 ちなみに壊れる前の家具建物とミリメートル単位で諸々の寸法が変わっていたりだとか、入口の存在しない地下室や隠し部屋の類が住人の知らぬ間に増えている可能性はまだありますが、とりあえず見た目だけは取り繕えたので問題はありません。というより、これ以上どうしようもないので問題ないということにして飲み込みました。

 多少の違和感は持たれても、そこから真相に辿り着ける人間など流石にいるはずもなし。

 よっぽど記憶力に自信のある人間でもなければ自分の記憶違いを疑うはず。加えてしばらくの間、モモが住人達の違和感を『弱化』させつつ街中を練り歩くなどしていれば、やがて自然と忘れられていくことでしょう。



 ですが、それで万事解決とはいきません。

 建物やら道路やらについては辛うじて誤魔化せた(ということにした)ものの、地面に転がっていた住人に関してはそうはいきませんでした。一人一人叩き起こして住所を聞き出して運ぶというのも流石に無理があるでしょう。

 一応、女神が貯め込んでいる信仰をいくらか使えば、万能の『奇跡』で全ての住人をそれぞれの住処に空間転移させることも不可能ではなかったはずなのですが、



『イヤですよ!? 貯めるのすごい大変なんですから! い~や~で~す~ぅ!』



 などと駄々をこねる女神が、省エネ、コスト削減という世知辛い理由で却下。

 レンリも女神の頬っぺたを引っ張ったり脇の下をくすぐったり夜食を横取りするなどして説得きょうはくを試みたのですが、結局折れてはくれませんでした。もっとも未来視で人命に関わるような危機的な混乱は起きないと、あらかじめ分かっていたからなのでしょうが。



 そうして『復元』された街のあちこちで人々が目を覚ましたのが夜明け直後。

 剣になっていた時からずっと日常生活を送っている夢を見ていたらしい彼ら彼女らの主観からしてみれば、いつも通りに寝床に入って朝起きたら路上に寝ていたことになるわけです。

 ごく一部の酔っ払い常習者にしてみれば日常の一幕ですが、それ以外の大多数はそれはもう驚きました。とても驚いて……しかし、それ以外に何が起きるでもありません。しばらく驚いて、そして釈然としない気持ちを抱えつつも帰宅して普段の生活へと戻っていったようです。

 レンリが読んでいる夕刊でも未知の病気や精神魔法の可能性について論じつつも、結局は原因不明とされています。多くの人々はきっとそのまま真相を知らずに、やがては今日のことを忘れていくのでしょう。






 ◆◆◆






 と、一通りの記事に目を通し終えたところで待ち人がやってきたようです。

 いえ、正しくは待ち神と言うべきなのかもしれませんが。



『あら、レンリさん、ごきげんよう』


「やあ、もしかすると今日はもう来ないかと思ってたよ」


『ふふ、まさか。ところで他の皆さんはまだみたいですね。もしかして、わたくし時間を間違えちゃいました?』


「いいや、合っているとも。というか、もう見えているんだろう? 私も腹の探り合いは嫌いじゃないんだけどさ、今日のところは回りくどいのはナシでいこうよ。いつ他の皆が来るかも分からないし、話を聞かれて変な風に拗れないように、さっさと用件を済ませておかないとね」



 他の皆に伝えた集合時間は、まだ三十分以上は先になります。

 レンリが女神一人だけを先に呼び出した理由は、ちょっとした確認のため。

 他の皆に聞かれないよう、二人だけで話しておきたいことがあったのです。



「ねえ、神様。真犯人は貴女だったんだろう?」


『ええ、正解です。よくできました。ぱちぱちぱち』



◆あと二話か三話くらいで今章は終わりです。

◆『迷宮レストラン』の漫画版一巻は来月発売予定。

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― 新着の感想 ―
[良い点] またアンタか女神様 多分レンリのヘッドロックとか喰らっていそう [気になる点] まぁ、シモンも列車報破壊告とか町一部損壊に人が剣になった。邪神復活とか胃が破壊されそうなややこしいくて信じて…
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