表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十一章『迷宮大紀行』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

732/1054

百万年前の破壊神(後編)

前後編の後編です。

読み飛ばしにご注意ください。


 お喋りの最中もレンリ達はまだ生きている破壊神を警戒しているつもりでした。

 しかし無意識のうちにほんの一瞬視線を切ったり、ほんの数秒意識を会話に強く向けてしまったり、あるいは事後処理や翌日からの生活のことを考えてしまったり。ごく些細な気の緩みがなかったとは言えません。これまでの戦いによる心身の疲労による影響なども少なからずあったことでしょう。


 そんな各人、各迷宮の油断したタイミングが運悪くたまたまピタリと重なり、誰一人として死にかけの破壊神に注意を向けていない時間が『奇跡』的に生まれてしまうことも、絶対にあり得ないとまでは言えません。


 どうせ、そんな一瞬で何かが出来るはずもない。ましてや先程までゴゴを取り込んでいた時以上の、百万年前の全盛期に迫る力を取り戻すことなど、



『ああ、ああ、うれしい、うれしい』



 あった。

 あるはずのない『奇跡』が起きてしまった。


 原因は単純。

 先程まで破壊神が這っていた地面が浅く掘り起こされて、黒い石が露出していました。

 いえ、もう曖昧な言葉で濁す必要もないでしょう。


 今回の事件を引き起こしたのは、あくまで破壊神の欠片のひとつ。

 この世界のあちこちには、まだ他に無数の欠片が散らばっているはず。

 極端な話ですが、何百、何千、あるいはそれ以上の数の破片の一つ一つが、それぞれ別々のタイミングで今回のような真似をしでかす可能性だってあるのです。


 まさか、その欠片のひとつが偶然にもこの場所に、瀕死の破壊神が地面を這っていた先に、それも残り少ない力でも掘り起こせる程度の浅い位置に埋まっていたなんて。そんなのは『奇跡』としか言いようがありません。

 それにネムが暴走して街中の道路に敷かれた石畳を砂粒にしていなければ、たとえそこにあると分かっていても石板を砕いて接触するなど到底不可能だったことでしょう。すべての出来事が歯車のように噛み合って、この結果へと繋がっていました。



『うれしい、なつかしい、うれしい』



 その力の増大ぶりは明らかにゴゴを取り込んでいた時以上。なにしろ元は同じ自分同士だけあって、エネルギーの吸収効率もお互いの相性の良さもケタ違いということなのでしょう。


 破壊神は数秒前までの崩れかけの姿から再び球形に。

 ですが復活はまだまだ途中。

 魔力も神力も更に爆発的に大きくなっているようです。



『さがす、己、あつめる、どこ、あつまれ』



 暴風の如く魔力が迸る空間が、ピシッ、と音を立ててひび割れていきます。

 鈍器でガラス窓を殴りつけたような硬い音が一つ鳴るごとに空間の穴が一つ増え、二つ増え、更に三つ……数え切れないほど穴だらけになるのに時間は要しませんでした。


 空間の穴の先には山や平地や海や森、人が暮らす街や村など、この世界の様々な光景が映し出されています。それら無数の空間の穴から飛び出してきたのは見覚えのある黒い石。言うまでもなくかつての破壊神の破片です。それが穴と同じ数だけ飛び出してきて、自然と球体へと引き寄せられ一体化していくのです。

 空間の穴の先の風景を見る限りではこの世界だけに留まらず魔界にまで影響が及んでいるようです。女神曰く、この世界と魔界は元々一つだった世界を二つに割ったもの。魔界にも破壊神の欠片は少なからず眠っていたということなのでしょう。



「なるほどね。この破壊神君も神と言えば神なわけだし、十分なリソースさえあればこっちの神様みたいに『奇跡』を起こして道理を無視したような願いを叶えられるってわけか。今回はたまたまそこに埋まってた自分の一部をエネルギー源にして、散らばった自分探し&自分集めのために使ったってところかな?」



 ……などとレンリはマイペースに分析していましたが、状況は最悪。

 破片の一つ一つを吸収するたびに増大していくエネルギー量は、この場にいる迷宮達やシモンやライム、ユーシャなど、戦えるメンバー全員の力を合わせたところで相手の一割にも遠く及ばないほどでしょう。それこそ心の持ちようで覆せるような実力差ではありません。今の時点での彼ら彼女らではまだ勝てません。


 そうして見ている間に破壊神の完全復活の準備は整ったようです。

 空間に開いた無数の穴もいつの間にか全て閉じています。

 黒い球体は、ふわり、と浮かぶとそのまま空高く昇っていきました。後から思えば、地上では孵化するのに狭すぎたということなのでしょう。


 そうして宇宙空間に達するほどの高みに達した球体は、まさにタマゴの殻から生き物が孵るようにして内側から破られ、そして中から出てきたのは球体のサイズに見合わぬ超巨体。百万年ぶりに本来の姿と力を取り戻した破壊神が姿を現しました。



「ねえ、神様? そういえばまだ詳しく聞いてなかったけど、っていうか見たまんまなんだろうけど、まあ一応ね。あの破壊神君の元々の姿ってどんなだったのかな?」


『そうですねぇ。特徴を順に挙げていくと……数え切れないくらいの肢と節があって、この惑星を丸かじりできそうなくらい大きいアゴがあって、これまたこの星を何周もできて力任せに絞め潰せそうなくらい長くて太い……大きいムカデですね』


「へえ、よくあんなの相手に相討ちまで持っていけたものだね」


『いえいえ、それほどでもありますが。ちなみに、さっきまで皆さんが苦戦してたのは、あの複眼の沢山ある目のうちの一つですね』



 世界を喰らう神の蟲。

 漆黒の巨体で空を覆い、星々をもその背に隠す大ムカデ。

 百万年前の姿を取り戻した破壊の神は、しかし、完全に元通りというわけではありません。新たに得た心は元の姿となっても未だ健在。自身に恐怖と屈辱を与えた小さき者共への恨みを晴らすべく、レンリ達の姿を宇宙空間の高みから複眼ではっきりと捉えていた。いえ、睨み付けていました。








 が、慌ててはいけません。



「さて、それじゃあ勝ち筋その2。いってみようか」


 

 焦りは相手の思う壺。

 野球は九回裏ツーアウト満塁から。

 ピンチの時ほど肩の力を抜いてリラックスするのが大事です。

 実際、これだけの戦力差があってもレンリとその仲間達は、誰一人として諦めや絶望に陥ってはいませんでした。無論、それは諦めなければ道が開けるに違いないなどという根拠のない精神論による現実逃避ではなく、確固たる勝算に基づく安心感によるものです。


 それに勝ち筋が一つしかないなどとは、最初から誰も言っていません。

 ちなみに、勝ち筋その1は先程の聖剣の被支配性を利用したもの。

 本来であればそれで終わっていたのでしょうが、まあ相手が『奇跡』のような悪運に恵まれてしまったのだから仕方がありません。



「それじゃあ、ウル君。よろしくね」


『わかったの。ふむふむ……今、ちょうど閉めるところだったから大丈夫だって』


「それは重畳。こっちの都合で早めに店じまいなんてさせたら悪いもんね」



 宇宙空間の高みから見下ろす破壊神にしてみれば、レンリ達の振る舞いは理解を超える落ち着きぶりでしょう。恐怖のあまり気が触れてしまった、という風でもなし。

 せっかく全盛期の、いえそれ以上の力を取り戻したというのに、微塵の畏怖も感じられない。これでは喰い殺す前になるべく怯えさせて復讐を果たすこともできません。


 あえて殺傷力を抑えた攻撃で威嚇などしてみるべきか。

 そうすれば、本来そうあるべきように自分を恐れるかもしれない。


 こうした迷いが出てくるのは、心を獲得したことの負の影響でしょうか。

 百万年前の、心のない破壊機構だった頃の破壊神であれば、獲物がどう思おうが関係なく最短最速で効率的に獲物に喰らいついていたはず。今回もそうしていれば最後に僅かなりともこの世界に傷跡くらいは残せていたかもしれませんが……いずれにせよ、結果に大した違いはなかったことでしょう。何故ならば――――。

 


「やあ、こんばんは。良い夜だね」



 魔王が来ました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 破壊神の悪あがき次回去らば破壊神シリアルに消える欲望 魔王さん登場なら野望も見事に霧散してしまう [気になる点] 確実に消滅させるならブラックホールか異空間に閉じ込めるのがいいですね […
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ