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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十一章『迷宮大紀行』

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犯人(キミ)の名は。


 心を真似て、心を学ぶ。

 それがレンリの推測した敵の目的でした。



「さて、何から話したものだろうね?」



 しかし、これだけではかえって謎が深まるばかり。

 いったい誰が、何のために。

 最低限、その程度は分からなければお話にもなりません。

 そもそも心を云々という話からして明確な物的証拠など何もなし。単なる状況証拠から導いた予想でしかないのです。



「ふむ。ゴゴ君を真似ているキミが親切に答え合わせを披露してくれたら、この後の手間が省けたんだけど、流石にそこまで乗ってきてはくれないか。それとも実は『目的を言い当てられたことに動揺して言葉も出ない』演技だったりするのかい?」


『さあ? ご想像にお任せしますよ。どうぞ続けて下さい』



 先程ウルの自爆攻撃を喰らった時はさしもの敵もいくらか動揺している様子が見られましたが、すでに落ち着きを取り戻しているようです。この調子ではレンリの挑発に乗って自分から真相をベラベラ明かすようなことはないでしょう。



「言われずともね。さて、こういう時は変に省略するよりも、最初から順を追って説明していくのが結局は近道かな。疑問点があれば随時質問を受け付けるとも」



 とはいえ、レンリとてそんなラッキーパンチは狙っていません。

 狙うのは事件の核心を射抜く言葉の一撃。物理的なダメージを与える攻撃でこそありませんが、限りなく不死身かつ無尽蔵に近い敵にとっては武器や魔法より効果的なことでしょう。



「じゃあ最初から。私がこの事件の最初に『何を』考えたのか、いや、容疑者として『誰を』真っ先に疑ったのかについて話すとしようか」



 レンリは今回の事件が起きるのとほぼ同時に、とある人物を黒幕として疑っていました。いえ、人物という表現は正確ではないかもしれません。なぜなら、それは……。



「それは……えっ、お姉さん何言ってるの!?』



 レンリが、ではなくレンリの姿になって彼女の言葉を伝えているウルが動揺して言葉に詰まってしまいました。ウルには、そして迷宮達の他何人かにとっては、レンリが示した容疑者の名前はそれほど衝撃的なものだったのです。



『こほん……っと。やあ、ウル君が失礼したね。なんて、ウル君越しに伝えるのも妙な話だけれどさ。では改めて、私が疑ったのは――――神造迷宮を創った者。つまり、この世界の神様だよ」






 ◆◆◆






「さて、根拠について話していこうか。まず今回の発端は誰がどう考えても私達が持ち帰ったあの化石だろう。皆、それについてはいいかな?」


 流石にその点については誰も異存はないでしょう。

 黒くて丸い異様な雰囲気の化石。

 あれが元凶だったのはどう考えても明らかです。



「最近、私達が集めていた黒い化石とそっくりだったろう? つまり、神様の化石と」



 神様の化石が元凶。

 だから女神が犯人、とはなりません。

 それはいくらなんでも短絡が過ぎるというものです。



「おっと、結論を焦るものじゃあないよ諸君。それだけでは流石に根拠薄弱というものだろう。そもそも化石が犯人だったとして、それが今の神様の意思によるものとは限らない。かつての肉体が今の神様の制御外で独自に暴走を始めた、なんて考え方もできる」



 この仮説のポイントは化石が今の女神の意思と関係あるのか否か。

 ここは極めて重要な問題です。女神から独立したかつての肉体に勝手に独自の意思が芽生えて動き出した。普通の古生物であればあり得ませんが、元が神様であればそういうこともあるのかもしれません。少なくとも否定できる材料はありません。



「その場合、我々の知るあの神様は元凶ではなく原因と言うべきかな。まあ、そうだとしたら幾らか気が楽だろう? かつての肉体の管理不備ってミスはあっても悪意なんかはないわけだし」



 もし化石が今の女神の意思から独立した存在として勝手に暴走しているだけなら、迷宮達にとってはレンリの言う通り多少なりとも事態を受け入れやすくなるでしょう。本当にそうであったらの話ですが。



「で、今のが良いほうのパターンね。次に悪いほうは、言うまでもなく化石が今の神様の意思に従って動いてるってパターンだね。これは不味い。かなり不味い」



 自分達の創造主が自分達を害そうとしていた場合。そのパターンだと迷宮達の心情面でのダメージも少なくないでしょうが、そのケースだと更に色々なモノを疑わねばなりません。



「こっちのパターンだと突発的犯行であるか計画的犯行であるかが重要だ。たまたま私達が例の化石に接触した状況を場当たり的に利用しただけならともかく、以前から仕込まれていたとすれば仕掛けがこれだけってことはないだろう。たとえば、迷宮諸君の機能の一部または全部を強制的に停止させられるとか。自分の意思だと思い込ませた上でそれとなく行動を誘導できるようにするとか。この通りだとすると、そもそも化石発掘を提案してきたモモ君の判断も怪しく思えてくるね」



 今回の事件で早々に外部の助けを呼べなかったのもそのためです。

 レンリの懸念が万が一にも当たっていれば、ウルやヒナが迷宮都市にいる自分を通じて援軍を呼ぼうとした時点で強制的に機能停止に追い込まれかねません。物理的に空を飛ぶなどしても同じことです。

 容疑者が容疑者だけに普通に戦っていてもいざとなれば同様の手段を取られる危険性は考えられましたが、敵が即座に最終手段に及ばぬよう抵抗しつつも過度に刺激しないことを優先していました。



「だって私がキミ達みたいな迷宮を創れるとしたら絶対そういう機能入れるもん。別に創った時点で危害を加えるつもりはなくても、いざという時の安全策とかロマンとか。あっ、私なら自爆機能も盛り込むかな。ウル君がさっきやったみたいなやつの大規模版を全員に」



 どうやら発想の根拠は「自分ならこうする」という考えにあったようです。

 あまりにもあんまりなレンリのアイデアに味方全員引いています。



「あと補足の根拠として、ほら、あの神様ってたしか例の奇跡パワーで未来を見れるとか言ってたでしょ? あんまり遠すぎたり細かすぎる未来は見るためのコストが重くなるからそう頻繁に確認できるものじゃないらしいけど、流石にこれだけ大規模な異常事態をうっかりで見逃すとは思えない」



 先程の話にも繋がってきますが、そもそもこの件はゴゴに発掘した化石を渡したことが発端でまず間違いありません。ならば異変の発生を察知した段階で迷宮達に一言忠告すれば、それだけで未然に防げたはずなのです。



「私も詳しくは聞いてないけど、未来予知って言っても絶対に変えられない未来を見るタイプじゃなくて、不味いことが起こりそうなら事前に変えて別の未来に切り替えられるやつらしいからね。そうしなかったこと自体が容疑が深まる一因となったわけだ」



 まあ、これもまた状況証拠ではありますが。

 しかし状況証拠とていくつも重なれば説得力を無視できません。

 実際、レンリも途中までは女神犯人説を主軸として推理を進めていたのです。



「それが引っくり返ったのは、さっきの情報交換でのモモ君とヒナ君のおかげだとも。いや、本当に危ないところだったよ。あれがなければ今もずっと勘違いしたままだったかも」



 ところが、その前提が一気に引っくり返ることがありました。

 上空の迷宮に突入して戦っていたモモ達の証言です。


 ヒナは自身の手足にも等しい水を偽ゴゴの身体に開いた穴から体内に入れて触れたことで。

 モモはより直接的に、騙し討ちを喰らって敵由来の黒液を自分の体内に入れられたことで。

 そしてそのいずれとも同じことをハッキリ感じ取っていたのです。



「そうであって欲しいとか、そういう願望によるバイアスにも注意して聞いてみたけどね。どうやら、そういう偏りもなさそうだったし。いや本当に驚いた。さて、モモ君。おさらいがてらに、もう一度聞かせてくれるかい?」


『はいなのです。あの黒いのは間違いなく神に由来する何かです。モモも”なりかけ”になったからですかね、そこは絶対に間違いないと断言できるのです。でも』



 敵の正体は神に属するもの。

 感覚的なものゆえ明確な証拠を出して第三者に証明することこそ叶いませんが、まだ未熟ながら覚醒して神の幼体となったモモやヒナには間違えようもなく明らかなものであったようです。そして確信したことは、もう一つ。



『神ではあるけど、モモ達を創った女神様(あるじさま)とは似ても似つかない別人、どこの馬の骨かも分からない別神なのです』



 神は神でも別の神。

 モモ達が感じ取ったのはそのことでした。

 レンリがその後にすかさず言葉を続けます。



「さて、ここに来て新しい容疑者が浮かび上がってきたわけだ。そうなると前提から考え直さないといけないね。とはいえ、神様なんてそう沢山いるわけがない」



 そう沢山も何も、この世界で知られている神は一柱だけ。

 無論、迷宮達や聖剣を創った女神のことです。

 世界中の神殿や文献を当たったところで、他の神の実在を証明することなどできないでしょう。精々が実在しない「ぼくのかんがえたさいきょうのかみさま」を独自に崇めるマイナー宗教が出てくる程度。

 明確に神が実在しており人間社会に度々影響を及ぼしてきたこの世界の宗教観は、たとえば地球のそれと比較しても極端に一つの宗教が強いものとなっているのです。



「ところが、実はその他の神っていうのに心当たりがあっちゃったりするんだよね。まあ前に昔話を聞いた時はさらっと流された部分だから私も忘れかけてたけど。ズバリ! この事件の犯人、キミの正体は――――」



 レンリに変身したウルが、ビシッ、と敵に指を突き付けました。








『正体は、百万年前にこの世界を滅ぼした破壊神、ですね』



 が、その正体を口にしたのはレンリでもウルでもありません。

 レンリにもこのタイミングでの彼女の登場は予想外だったのでしょう。

 見せ場を横取りされたショックでキメ顔のまま硬直しています。



『ふふ、お久しぶりです。その節はどうも……というのも妙な間柄ではありますけど。なにしろ、お互い殺し殺された仲ですものね?』


『なっ……きさ、ま!? 貴様はっ!』



 敵も思わずゴゴの真似も忘れるほど驚いているようです。

 女神が、正確には人間の神子に憑依した女神がそこにいました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 女神様参上! ふっ・・・勝ったな・・・ [気になる点] ゴゴはいずこに・・・ まさか、もう喰われていたりして(;'∀') いや、これで自宅に居たら笑えます。 [一言] 更新お疲れ様です。 …
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