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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十一章『迷宮大紀行』

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本日の天気は晴れのち血の雨。ところにより……


 跳躍力、強化。

 空気抵抗、弱化。

 自身の視認性、弱化。

 自分にかかる重力、弱化。


 ルカを発射台にして跳んだモモは、凄まじいスピードで上空の第二迷宮へと近付いていきました。『強弱』で様々な要素に干渉した結果、その速度は優に音速の十倍を超えていたでしょう。“発射”から“着弾”まで二秒もかかりません。



『まったく、面倒臭いったらないのです』



 とはいえ、このままミサイルの如く突っ込むわけにはいきません。

 先程見たウルの先制攻撃への反応から、迂闊にダメージを与えると出血量が増えて、そこから『腕』のような新たな敵が増える恐れがあるのです。

 『腕』そのものは現状大した脅威にはならないとはいえ、目にした際の生理的嫌悪感が地上にいる仲間の動きを鈍らせて怪我に繋がるような可能性は否定できません。避けられるなら避けるに越したことはないでしょう。


 移動速度、弱化。

 反応速度、強化。

 空気抵抗、強化。

 自身にかかる重力、強化。


 よって、モモは迷宮に到達する直前に空中で急ブレーキをかけました。

 『強弱』の操作のみならず、常人の三倍以上に及ぶ約五十万本の髪の毛の全てを進行方向に向けて形状を変化させつつ伸長。長さ百メートルを超える髪の毛の一本一本が螺旋を描いたバネ状となり衝撃を分散・吸収。見事、ブロックの一つも割ることなく勢いを殺し切りました。



『おぉう、モモの髪の毛がお見事なチリチリパーマに。まあ、たまには髪型を変えて気分転換というのも……いや、やっぱナシですね。これはちょっと人にはお見せできないのです』



 気の抜けた独り言を呟く間も警戒は怠っていません。

 ここはすでに敵地、いえゴゴの体内も同然。

 いつ、どこから攻撃が飛んできても不思議はないのです。

 自身の視認性や気配、存在感、発する物音など思いつく要素を可能な限り弱めて気付かれにくくしてはいますが、あくまで気休め。ゴゴからの反応がなかったとしても、もうすでに気付かれた上であえて泳がされているくらいの気持ちでいるべきでしょう。


 モモがすべきことは能力の通り具合の確認。

 すでに周囲の壁面に対して『強弱』を使用していますが、手応えについてはまだ何とも言えません。迷宮の内部を移動しながら、『眼』に侵食された部分を含めてより広範囲に能力を使ってみる必要がありそうです。



 そして心情面を考慮してルカ達には伝えていませんでしたが、大事な仕事がもう一つ。モモにはある意味で調査以上に重要な任務がありました。



『これでよし、なのです』



 モモは自分の髪の毛を一本だけ己の首へと巻き付けました。

 これならば、もし四肢を失うほどのダメージを負っても、すぐに自分の首を切断することが可能。それほどの損傷を受ければ本体との接続も自動的に失われます。


 ゴゴを操っている存在が迷宮に対する洗脳のような能力を持っていると仮定すると、一番避けねばならないのはモモやヒナやウルが敵に取り込まれてしまうこと。ゴゴ一人だけでも大変なのに、この上さらに同等の脅威が増えるなど想像したくもありません。


 よってモモの一番大事な仕事は、いざという時に今の化身の身体を即座に破壊して自壊することになるわけです。能力が通るかの検証については最悪失敗しても次がありますが、これだけは何としても遂行しないといけません。ゴゴの自殺を止めるために先んじて自滅しないといけないとは、なんとも皮肉な状況ではありますが。



『やれやれ、まったく面倒臭いったらないのです』



 ボヤいて状況が好転するはずもありませんが、それを承知で愚痴の一つも言いたくなるというものです。モモは迷宮表層にいくつも存在する入口の一つに飛び込むと、バネ状にしたままの髪の毛で飛び跳ねるようにして、なおかつ壁や床を傷付けないよう細心の注意を払いつつ、猛スピードで迷宮内を移動し始めました。






 ◆◆◆






 レンリとウルの役割は先制攻撃及び陽動。


 モモは迷宮への侵入及び調査。

 ルカとルグは送り込む際のサポート役。


 そして残りの一組。

 ヒナとユーシャもそれぞれ役目を与えられていました。



「うーん……暇だぞ?」


『大人しく待ってるのも立派な仕事よ、多分ね』



 とはいえ、ユーシャに関しては今はまだすることがありません。

 鍵の開いていた建物に隠れつつ戦況を眺めるくらいでしょうか。


 ユーシャの存在は今回のゴゴの動機にも大きく関わっています。

 彼女が対ゴゴの切り札ジョーカーともなり得るカードであることは、ユーシャ本人を除いて他の皆は薄々勘付いているのですが、切り札が最大の効果を発揮するには適切な切り時を見極めねばなりません。故に、今はじっと待つのがお仕事というわけです。



『じゃあ、我はそろそろ行ってくるわね。もう武器も十分に集まったことだし』



 一方、ヒナはこれからまた別行動。

 待機しながら密かに集めていた武器の振るいどころです。


 もちろん武器とはいっても剣や槍ではありません。

 街の東側を流れる大きな河。河川でありながら対岸が水平線の向こうに隠れて見えないほどの河幅を誇る大河の水を、ヒナお得意の液体に対する念動力で少しずつ動かして集めていたのです。



『このあたりでいいかしら』



 迷宮達の中でも現状最も機動力に優れるヒナ。

 他の仲間が一緒の時は安全運転を心掛けて速度を落としているのですが、自分一人だけを液体化させて動かす際のトップスピードは最大でマッハ三桁にも届きます。


 全長五十キロの球体の外側をぐるりと迂回。

 空中の第二迷宮よりも更に上、オゾン層を通過して成層圏を通り越した中間圏へ。宇宙空間の一歩手前まで移動するのも彼女にとっては難しいことではありません。


 ヒナの足下には第二迷宮と、広範囲から集めに集めた大量の武器みず

 船舶や水棲生物への影響を鑑みて一滴残らずとはいきませんでしたが、それでも能力が届く範囲で限界ギリギリまで集めた水量は実に百億トンに達します。



『せぇ、のっ……水でもかぶって頭を冷やしなさい!』



 本日の天気は晴れのち血の雨。

 ところにより豪雨となるでしょう。


ちなみに琵琶湖の水量が大体275億トンくらいだそうです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 冷水だばー とりあえず頭冷やそうか [一言] 更新お疲れ様です たぶん第二迷宮半壊と街が水没しますね 数百年後には幻の伝説の学都発見!とか探検すぺしゃる番組で取り上げられる
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