表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十一章『迷宮大紀行』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

712/1053

迷宮ロケットガールズ



「よし、名案を閃いたぞ。ウル君、おんぶだ! キミが私を背負って走ればより早く移動できるって寸法さ! ていうか、早くも疲れてきたからあんまり走りたくないんだよね」


『却下なの。ていうか、走り出して十秒でそれ言うのは体力なさすぎなの』


「そういえば今日は徹夜明けから話しの流れで遠出して、いつもよりだいぶ体力使ったからね。だから、ねえ、おーんーぶー!」


『はいはい、ホントにバテそうだったら我が担いで運んであげるから、まだ余裕のあるうちからサボろうとするんじゃないの!』


 一時撤退を決めたレンリとウルは、街の南側に向けて大通りを走っていました。

 今は誰も動いている人間はいないでしょうが、学都の南側には劇場や騎士団本部、駅舎などの大きくて頑丈な建物がいくつかあります。そこらの民家を一時的な籠城先とするよりは、気休め程度ですがマシでしょう。


 今のゴゴが具体的にどの程度の戦闘能力を有しているかというと未知の部分が多すぎてほとんど分からないのですが、先程の話しぶりからすると籠城先の建物諸共に粉砕するような強硬手段に訴えることはない。少なくとも今すぐ強引な手でどうこうする気はない、なかったらいいなぁ……というような雰囲気があったような気がそこはかとなくしなくなくもありません。


 そもそもゴゴが皆を全滅させたいのなら、上空に浮かんでいる本体の迷宮を今すぐ地上に落とせば、それだけで簡単に決着が付くはずなのです。衝撃で迷宮にもダメージが入るとしても、自殺を望んでいる相手にとってはむしろ好都合のはず。


 そうしないのは住民達をわざわざ剣に変えて日常の幻覚を見せるような手間をかけていることからも分かるように、彼女としても無関係の人々や街そのものを壊すことは望んでいないのでしょう。あるいは今のゴゴの中に残っている本来の彼女の人格が、過激な手段に出ることを抑え込んでいるのかもしれません。

 まあ、いざとなったら犠牲もやむなしと方針転換する可能性もありますし、現在進行形で元々のゴゴの人格が喰われつつあるとすれば時間の経過に伴って、そうした自主的な縛りが弱まってくることも考えられます。過信は禁物と考えるべきでしょう。



 さて、そんな状況で街中を駆けているレンリとウルですが、相変わらず周囲の道や建物にはゴゴが生やした青白い腕がわんさか生えています。迷宮の傷口からより多くの血液が降り注いだと思しき街の北側に比べれば幾分マシなはずですが、まあ多少の差など大した気休めにはなりません。

 


「うわ、なんか剣拾って投げてきたんだけど!? くそぅ、必殺ウル君シールド!」


『こらっ、我を突き飛ばして盾にするのは酷いと思うの!? お姉さんこそ普段あんなに剣が好きって言ってるんだから、前に出て思う存分キャッチするなり何なりすればいいの!』


「はぁ~? そんな反射神経やら動体視力やらが私にあるわけないだろう。取り損ねてザックリ刺さるのがオチと見たね!」


『こ、この年長者、情けないことを力強く言い切りやがったの!』



 地面に生えている『腕』の戦闘能力はそれほどでもありません。

 基本的には生えている位置から動かないようですし、たまたま手の届く範囲に住民が変じた剣が落ちていたら、それを力任せに振り回すか投げるかするくらい。剣術とも言えないような雑な取り回しからして、ゴゴが一つ一つをいちいち操作しているわけではなく、それぞれの『腕』に簡易的な思考力が備わっているといったあたりでしょうか。

 狙いが外れた剣が石壁や樹木にザックリ刺さる様子からして腕力はそれなりにあるようですが、ウルならば体表に竜鱗の数枚も生やせば無傷で弾ける程度です。



「そうそう私も初めて知ったんだけど、いくら私でも剣なら何でも良いってわけじゃないみたい。人体のパーツがウゾウゾ動いてる剣とか流石に好奇心より気持ち悪さが勝るっぽいよ」


『まあ、この状況でいつもみたいに剣に頬擦りしたり舐め回したりされるよりはいいというか、生身の人間がグニャった剣でそれやったら我としても今後の付き合い方を見直したくなってたと思うの』


「おや、あそこの剣は人間じゃなくて犬が変形したやつかな? 生えてるのも柄の尻尾くらいだし変わった房飾りか何かだと思えば割と普通の剣っぽいね。アレならワンチャンいけるかもしれないよ。ワンちゃんだけにね!」


『くっ、不覚にもちょっとだけ上手いと思ってしまったの!』



 なので、当面のところレンリとウルの二人に関しては心配無用。

 よくよく観察してみると『腕』が剣を振る速度と精度が徐々に上がっていたり、無数の『腕』の中に地面を這いずって移動することを覚えた個体が現れ出したり、『腕』同士が共食いをしてより長く力強い『腕』へと成長しつつあったりと不安要素がなくもないのですが。


 それらが本格的な脅威になるのは、もう少しだけ先のことになりました。






 ◆◆◆





 さて、レンリ達と別行動中のルグ達は街の東側、商会の倉庫などが多く立ち並ぶ区画に身を潜めていました。恐らくは倉庫を管理する人間が扉を施錠する前に剣になってしまったのでしょう。都合よく入口が開いている建物がいくつかあったのです。


 大量の荷物が積まれた倉庫内はかくれんぼに最適。

 屋内にいる限りは気味の悪い『腕』を気にする必要もありません。



「声の感じからして結構離れてるはずだけど、あいつら滅茶苦茶騒がしいな。今は他の人の声とか生活音が全然ないから、普段より声が通りやすいってのもあるんだろうけど……まあ、これも一応作戦通りか」


『陽動のための演技……いや、どう考えても完全に素なのです』


「だよなぁ。あいつら適材適所すぎるわ」



 レンリとウルの役割は、ゴゴの注意を引き付けるための陽動でした。

 まあルグやモモの言う通り、当の二人はわざわざ演技をするまでもなく素のテンションでギャーギャー騒いでいるだけなのですが、結果的に役目を果たせるのなら問題はありません。いえ、正確には問題がないと思いたい、といったところですが。



『今のゴゴお姉ちゃんの知覚能力がどのくらいか分からないですからね。まあ迂闊に攻撃を加えるのは危険だってことが事前に分かっただけでも儲けものなのです』



 今のゴゴのスペックが大幅に上がっているのは明らか。

 しかし、どんな能力がどの程度上がっているかについては、まだほとんど分かっていません。もしかすると、こうして倉庫内に潜んで小声で交わしている会話の内容まで把握している可能性すらあります。

 その場合は注意を引き付けるための陽動作戦など全く意味がなくなってしまうのですが、そこまで疑い出したら何もできなくなってしまいます。今はゴゴの能力がそこまでではない可能性、もしくは倒されるためにあえて見て見ぬフリをしてくれる可能性に賭けて元々の作戦を実行するしかないのです。



『じゃあ、そろそろ行くのです』


「モモちゃん……ほ、ほんとに……やるの?」


『そりゃあ、やるのですよ。あ、ここで手加減とかされるとスピードが足りなくてかえって危ないので、ルカお姉さんには思いっきりやって欲しいのです』


「で、打ち上げたら位置がモロばれになるから俺達は即移動な。ここに来るまでに隠れられそうな場所の目星は付けてるから、そっちは心配しなくていいぞ」



 この作戦の要はモモとルカ。

 主目的は調査、プラス可能であればゴゴへの強化と弱体化でしょうか。

 モモの『強弱』を用いて、ゴゴに憑りついている『眼』の影響力や自殺願望を弱め、思考を操作される前の元々のゴゴの人格や生きたいという意思を強める。例の『創世』や『腕』などの厄介な能力も出来るものなら封じておきたいところです。


 とはいえ、恐らくはモモ以上の神の力を手にしたゴゴに、どこまで『強弱』の影響が通るのかは不明。もし能力が完全に通ればその時点での勝利もあり得ますが、それを前提に動くのはいくらなんでも楽観が過ぎるというもの。


 故に、あくまで主目的は調査なわけです。

 能力の通り具合を計り、今後の戦略を組み立てる上での指針とする。

 ゴゴに『強弱』を使うためには、モモ自身が上空数キロの高みに浮く迷宮まで移動して能力の射程距離に収める必要があるわけですが、ルカの協力があればそれも難しいことではありません。



「向き……これで、いいかな?」


『ん~……もうちょい右に頼むのです。いきなり黒いのに直接触れるのは避けたいので。そうそう、それくらい。着陸の微調整はこっちでやるので大丈夫です』



 ルカが前傾姿勢になって両手を組むと、モモがその手の平に片足をかけました。

 曲芸などで時折見られる技ですが、こうして一人をジャンプ台として利用することで二人分の力が合わさり、本来は届かない高さまで跳べるようになるのです。

 単に届くだけなら跳躍力を強化したモモ単独でも行けるかもしれませんが、それではスピードが足りずに空中で撃墜されてしまう危険があります。しかしモモのスペックにルカのパワーが加われば、倉庫の天井を貫いた上でなお何千メートルも超高速で跳び上がることができるでしょう。上空に迷宮が無ければ、そのまま宇宙空間まで飛んでいってしまうかもしれません。



『じゃあ、ちょっと行ってくるのです』



 タイミングを合わせてスリー、ツー、ワン……ゼロ!

 倉庫の天井をブチ抜いた轟音を一瞬で遥か眼下に置き去りにして、モモは一直線に上空の第二迷宮へとカッ跳んでいきました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 黒レンリがいい感じ(笑) ウルはレンリを盾にしてもいい〉おもに食事の支払い関係 〉あのお姉さんが全額払うの! [気になる点] レンリも護身用の武器持たないと 特にスペツナズナイフとか? […
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ