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挟み撃ち


「弱点か……まあ、十中八九スピードだろうな」


 ゴリラウルには弱点が存在する……はず。

 レンリが幼女をいじめて入手した情報を元に、ルグはそのように予想しました。


 先程の白刃取りからの反撃のタックル。

 そしてルカの攻撃をかわしてからの一連の攻防。

 その間、ゴリラウルは一切走っていません。それ以外の動作も無駄のない滑らかな動きではありますが、スピード自体は非常に緩慢です。

 恐らくは、速く動かないのではなく動けない。

 管理者としての能力制限によって、技の代わりに速さを捨てている状態なのでしょう。自分からは動かず待ちの構えに徹しているのも、その予想の裏付けとなります。

 


「って、言われてもなあ……」



 とはいえ、それが分かったからといってもゴリラウルが強敵なのには変わりません。

 白刃取りを決められた時も、ルカの打撃を避けた時も、ゴリラウルの動作そのものは二人の動きよりも遅かったのです。

 それなのに攻撃が当たらなかったということは、かなり高精度の見切りによって、どのタイミングでどの攻撃が来るかということを読まれていると考えられます。


 しかし、このまま手をこまねいていても状況は変わりません。



「ルカ、今度は一緒に挟み撃ちで。フェイント混ぜながらとにかく手数重視でいくぞ」



 ルグは(通用するかは不確定ですが)そのような作戦を考えました。

 一対一の攻防では動きを見切られても、それが一気に二人相手。更には一撃の威力より手数を重視する攻撃にまで対応しきれるかは分かりません。

 ゴリラウルの限界を測る意味では合理的な戦法だと言えますが、



「え……? ルグ君、あの、フェイント……って?」


「あ、そこからかー……えっと、攻撃するフリをして相手を騙すみたいな感じかな。言葉だけじゃ説明しにくいんだけど……右から行くと見せかけて実は左から、みたいな?」


「な……なるほ、ど?」



 最近は軍の訓練に混ざって武器を振っているとはいえ、ルカには武芸の知識や経験などほとんどありません。

 持ち前の怪力だけでも並の相手には勝てるでしょうが、逆に言えば並ではない強敵に通用するかというと怪しいもの。せっかくの力も使いこなせなければ宝の持ち腐れです。



「まあ、急にやれって言われても無理か……じゃあ、俺が正面から引き付けるから、隙ができたらあいつの後ろから思いっ切りブン殴ってやってくれ」


「う、うん……がんばる」



 ルグは右手に試作聖剣、左に角剣を持ちゴリラウルに向き合いました。

 狼ウルの時にはこの構えからの投擲が上手く決まりましたが、何度も同じ手が通用するほど甘い相手ではないでしょう。

 そして、ルグには二刀流の技術などありませんが、



「待たせて悪い。いくぞ!」


『…………』



 当たっても充分な威力が出ないのは承知の上。

 とにかく手数を増やすことだけに注力して、両手の剣で連続攻撃を仕掛けました。


 


 体勢を崩すような大振りは控えて小さく、そして速く。

 どちらかというと斬撃ではなく刺突中心の連続攻撃。両手持ちで剣を振るよりも腕への負担はかかりますが、そこは魔力による身体強化でカバーしています。


 ルグは徒手空拳のゴリラウルに対するリーチ差の優位を活かし、間合いギリギリからチクチクと攻撃を重ねていきました。これならば、少なくとも大きい反撃を喰らうことはありません。

 更には攻撃を途中で止めたり、突然リズムを遅くしたり、視線や踏み込みによるフェイントも織り交ぜていますが、



「くそっ、やっぱりな……!」


『…………』



 しかし、何十発放とうとも、ゴリラウルへの有効打はありません。

 高速で放たれる剣の軌道を見切って僅かな動きで回避したり、避けきれない攻撃は剣の腹を手で払って逸らしています。恐るべき技の冴えでした。


 速度では勝っているのにほぼ当たらない。

 フェイントの数々にもほとんど惑わされない。

 攻撃の九割以上は無効化され、残る一割弱も体表を浅く掠める程度。このウルはあくまでゴリラの形を模しているだけですから、痛みや出血で動きが鈍ったりすることも期待できません。



「……はっ……はっ……!」



 そして、それだけのダメージの代償にルグは大きく消耗していました。絶え間のない無酸素運動というだけでもキツいのに、身体強化による魔力の消耗も加わっているのです。


 術者としての腕が良ければ同じ魔力でも高い効果を発揮できるのですが、ようやく身体強化を発動できるようになったルグでは気休め程度の効力しか望めません。

 ルグの魔力量はレンリの十分の一以下。

 強化効率に関してはルカの百分の一以下。

 少ない魔力を腕力の強化に集中して無理矢理腕を動かしてはいますが、それも直に限界が来るでしょう。そうなったら敗北は確定です。



 実際、一対一の戦いであればそのような結果に終わっていたことでしょう。


 今現在の作戦は、ルグが正面からゴリラウルの注意を引き付け、その隙に背後から近付いたルカが全力で殴るというもの。

 ゴリラウルもルカが忍び寄っていることには気付いていましたが、



「え……えいっ……!」


『…………む』



 僅かに反応が遅れたところに、凶悪極まる一撃が叩き込まれました。



魔力量はレンリを100とするとルグは6~8、ルカは400くらい。

ただし、魔力量イコール強さではありません。

この三人が一対一の試合形式で勝負をすると、恐らくルグの勝率が一番高くなるはずです。

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