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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十一章『迷宮大紀行』

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今日は剣の日①


 掻けるだけの恥は掻ききった。

 一通り話し終えた時点でのゴゴの心情はそんなところでしょうか。



『やれやれですね』



 さぞ落ち込んでいるかと思いきや、ゴゴの表情は意外にも晴れ晴れとしています。勢いでヤケになっている面もなくはないにせよ、これでもう一人で秘密を抱え込まずとも良くなったという解放感も少なからずあるのでしょう。


 まさに案ずるより産むが易し。

 付け加えるなら、ゴゴが失望されたり嫌われたりといった反応がなかったのも幸いでした。話を聞いていた面々の常識や倫理観が、少なからずユニークな方向に振り切れていたおかげもあるでしょうか。

 ちょっと血液を無断で拝借して人間を一人造り上げて、その生き方を自分の都合で左右するといった程度のことで、いちいち罪悪感を覚えるような良い子ばかりではないのです。

 それはそれで倫理観がふわふわしすぎて別の心配が出てきそうな気がしなくもありませんが、とりあえず今回のゴゴの件にのみ絞って考えれば彼女の罪悪感を多少なりとも軽減する助けになったはず。何事も物は言いようです。



『じゃあ、そういうことですので』


「ああ、うん。まあ色々考えてはみるとするよ」



 無論、肝心の問題については何一つ解決していません。

 単にゴゴが半分ヤケになって開き直っただけでしかありません。

 しいて言えば、恥を承知で告白したことでゴゴ一人で抱え込まずとも良くなり、皆の協力を望めることを指して進展と言えなくはない程度。

 今のところは解決の糸口すら見えないのが実情です。

 この場でちょっと考えて思いつく程度のアイデアで解決できるような問題なら、そもそもゴゴも最初から悩んだりしていませんから当然と言えば当然ですが。場合によっては更に多くの協力者を募って、より大々的に解決を模索する必要もあるかもしれません。


 まあ、しかし。 

 あまり時間の猶予がないとも聞かされていますが、流石に一分一秒を惜しむほどの状況ではなし。無闇に焦っても視野が狭まってかえって解決が遠のくばかり。何か他のことをしている間に妙案が浮かばないとも限りません。



「じゃあ、今日はこれでお開き……かな? なんだか締まらないけど」



 というわけで、本日のところはレンリの号令で解散する運びとなりました。

 事態が大きく進展するのは、ここからほんの数日後。ゴゴが諸々の問題を一気に解決する案を思いついた……否、思い付いてしまってからのことになります。






 ◆◆◆






 それからの数日間。正確には二日と半日ほどは平穏に過ぎていきました。


 レンリは主にシモンに頼まれていた剣の仕上げ作業。

 ルグとルカはロクに休みも取らずに熱中するレンリに飲食物を用意したり、合間に交代でユーシャと街を歩いたりといったところ。

 迷宮達のほとんどはいつものように思い思いに過ごしていましたが、モモだけは意外にもレンリの作業の手伝いを買って出ていました。


 しばらく前にモモの覚醒を手伝った件についての報酬の話をしていましたが、あまり長くレンリを待たせ過ぎると知らないうちに変な利息が付きかねません。早目に支払ってしまうが吉ということで、モモのほうからの申し出があったのです。



『剣そのものを強化してもモモから離れると効果が切れちゃうのですけど、こういうやり方ならずっと効果が残るのですよ』



 以前モモが自分でも言っていたように『強弱』の能力で直接的に剣を強化することには、今回のようなケースではほとんど意味がありません。モモから一定以上の距離を離れたら効果が切れてしまいます。


 が、それで諦めるのはあまりに早計。

 ここでモモの発想力が光りました。

 結論から言ってしまうと、今回モモは剣そのものではなく剣に魔法を刻み込むレンリを強化することで、間接的に性能アップに貢献しようというのです。


 言葉の上では同じ『強化』でも、一般的な魔法による身体強化などとは融通の利きやすさが段違い。具体的な強化対象としては、魔力の操作精度、より効果的かつ効率的な術式を思いつく発想力、作業を続けるための集中力や気力体力、作業速度、などなど。また疲労や眠気を弱めているので徹夜作業でも効率はほとんど落ちません。



「あはははっ、素晴らしいよモモ君! 術式のアイデアが湯水の如く湧いてくる。ふふふふふ、キ、キ、キ、ひぃっひっひっひ、私は天才だーッ!」


『ええと、モモの能力にアッパー系のイケないお薬みたいな副作用とか特にないはずなのですけど、何か間違いましたかね? え、これが素? こわ……』



 ついでに、これについては『強弱』は作用していないのですが、作業が面白いように進みすぎたせいか、レンリのテンションが天井知らずに上がって奇声じみた笑い声が昼夜問わず続いていたりもしました。

 この時のレンリは、この先の人生全部を費やして届くかどうかという高度な技術力を、若さ由来の思考の柔軟性や疲れ知らずの体力でもって好き放題に振るえているのです。それはもう笑いが止まらないほど楽しいに決まっています。


 新たな魔法のアイデアを次から次へとポンポン思いつくせいで事前に用意してあった案を捨てることになり、その新案もまたボツになり、その案もまた同じように……と、そんな繰り返しが片手の指で数えられないほどあったでしょうか。

 幾度となく一から術の設計をやり直すことになりましたが、直しが一つ入るたびに段違いに改良されているのだから少々の時間のロスなど些細なことです。設計図を描き直したり実際に刀身に刻印を刻み込む作業も大幅に早くなっているので、時間的なロスもさほどではありません。



 そうして二徹明けで迎えた三日目の朝。

 


「やった、できた! ああ、最高に楽しかった!」


『お疲れなのです。では、これでモモとの貸し借りはゼロということで』



 とうとうシモンの新しい剣が完成しました。魔法を刻む前からすでに名剣の風格がありましたが、こうして完成品を見てみると桁違いに存在感が増したように感じられます。

 見た目はただ一振りの剣なのに、たとえば樹齢何千年だかの古木や歴史ある城や聖堂を前にしたような、静的な威圧感とでも言うべき気配が漂っています。以前、加工前の剣を『まあまあ』と評した辛口のモモですら、『これはよいものなのです』とのお墨付きをもらえました。


 徹夜明けのレンリに朝食のパンやスープを届けにきたルカも、剣の目利きについては素人ながら、思わず見入って目を離せなくなるほどの仕上がり……なのはいいとして。



「レンリちゃん……ずっと、寝てない、けど……大丈夫?」


「ははは、いつもより元気なくらいさ! それよりルカ君、ちょっと頼めるかな?」


「う、うん……なぁに?」



 完成品をシモンに納める前に、性能面の不備がないかのチェックは必要でしょう。見た目こそ完璧ですが、込められた魔法が狙い通りに働くかについては、実際に使ってみなければ分かりません。そこでレンリはちょうど訪れたルカに手伝いを頼むことにしたわけなのですが……。



「え……だ、大丈夫……折れたり、とか?」


「もちろんだとも。大丈夫だから思いっきりやっちゃってくれたまえ。モモ君はルカ君がやりやすいように髪の毛で持っててもらえるかい?」


「じゃ、じゃあ…………えいっ」



 モモが髪で吊るすようにして縦に構えた剣の刀身を、ルカが両の拳で挟み込むようにして殴りつけ、途端、隕石が墜落したかのような轟音が鳴り響いて街中の空気をビリビリと震わせたのでした。





 ◆◆◆





 と、この日の始まりはこんな具合に。

 この物語が始まって以来、恐らく過去最悪かつ最大の、ついでに最強のトラブルを迎える一日は、こうして近所迷惑甚だしい金属音と共に幕を開けました。




◆前回の最後のほうにあった「翌日」を「数日後」に修正してます。消化しておくイベントを入れるのと裏で同時進行してた十・五章とのタイムスケジュール合わせとか。

◆あと本作に「いいね」できるように設定を変更しました。まだ新機能の仕様をよく把握してないけど、作品単位じゃなくてお気に入りの話だけに絞って評価できる感じ?

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― 新着の感想 ―
[一言] 何でしょう剣の形したコスモスでも爆誕させたんでしょうか、悪夢だ
[良い点] レンリがヤバいヒロインに(^-^; 蛇腹剣とか色々作りそう [気になる点] 騎士さん!こっちです(笑)となりそう [一言] 更新お疲れ様です ヤバい系ヒロイン爆誕です(笑)
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