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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十一章『迷宮大紀行』

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聖剣と迷宮のひみつ


 ゴゴが一人で抱え込んでいた問題。

 その半分、聖剣としての悩みについては、ひとまずよしとしましょう。

 そちらは言わば、ゴゴが一人で勝手に責任を感じているだけの内心の問題。ゴゴが自責の念にかられてよそよそしくなる程度のことで実害はありません。


 が、厄介なのは残りの半分。

 ゴゴの迷宮としての側面に由来する悩みです。

 そちらに関しては内心の問題では済まず明確な害が発生する、可能性がある、かもしれないのです。多分、きっと、もしかしたら。まあ諸事情あって現状では曖昧な物言いにならざるを得ないのですけれど。



『ええと、ちょっと込み入った話になってくるんですけど……そうですね、まずは聖剣と勇者との関係についてのおさらいから入りましょうか』



 ゴゴは手頃な木の棒で地面に図など描きながら説明の続きにかかります。

 悩みを打ち明けるにしては奇妙ですが、前半分についての説明を終えたことで調子が出てきたとでも申しましょうか。本来のお喋り好きの性格が無意識に顔を覗かせているのかもしれません。



『勇者と聖剣は一心同体。いえ、思考の共有はあっても人格は別々なので二心かもですけど。ここでの「同体」というのが具体的にどういう状態かというとですね――――』



 勇者と聖剣は一心同体。

 それは比喩表現などではありません。文字通り両者の魂が完全に一体化して、離れたくとも離れられない状態になっているのです。


 この世界における勇者とは、聖剣と融合可能な相性の良い魂の持ち主。

 先代勇者であるリサの魂は天然物。ユーシャの場合は生まれた時点でそのように調節された養殖物であるという違いはあれど、その本質は変わりません。


 ちなみにどうして二つの魂を一個に融合させるのかというと、単純にそうしたほうがメリットが多いから。完全な一心同体が成ったのであれば、たとえば聖剣を遥か彼方にまで投げ飛ばしても紛失などあり得ません。

 瞬時に新しい聖剣を手元に呼び出せますし、遠く離れた聖剣を消すのも自在。一つと言わず、百でも千でも勇者の想像力が及ぶ限りの数の聖剣を同時に操ることも不可能ではありません。


 その気になれば変形能力と組み合わせて、何千何万という数の軍勢を聖剣と同じ強度の武器防具で完全武装させることだって出来るでしょう。勇者以外が聖剣を手にしても自在に変形させたりはできないので、単にやたら切れ味が鋭くて異常に頑丈な武具といった程度の性能に収まるでしょうけれど。


 他にも完全な一心同体であれば思考の共有によって勇者と聖剣との連携が格段に早くなりますし、勇者の知識にない複雑な構造の銃火器などでも、聖剣側が構造を把握していれば完璧に再現可能。

 リサは多分やらないでしょうが、その気になれば海を埋め尽くすほどの戦艦や空母の大艦隊を一瞬で展開して、その全てを一人で操ることだって不可能ではありません。

 


 完全な一心同体であればそんなことだって可能なのです。

 不完全な、勇者と聖剣の関係ではともかくとして。

 不完全な、ユーシャとゴゴの関係ではともかくとして。


 ここまでの説明でレンリ達にも更に詳しい事情が見えてきました。



「なるほどね。それを踏まえながらさっきのゴゴ君の反応を思い返すと、ちょっと事情が見えてきたかも。二人の結び付きがまだ不完全なのは、ゴゴ君が一方的に拒絶してるからじゃないのかな? 普通に触られるだけなら良くても、ゴゴ君を剣として扱うと結び付きが強まってしまう、とか。だからゴゴ君はあんな慌てて飛び退いたんだ……というのが私の推測なんだけど。ゴゴ君、採点を頼めるかい?」


『流石ですね、レンリさん。百点満点で八十、いえ九十点を進呈しましょう。我の動機に関しての言及があれば文句なしの百点満点でしたけど』


「ふむふむ、動機ね。それって私が知ってる情報だけで答えを出せるやつかい? 問題がそもそも解けるようになってないんじゃフェアじゃないと思うけど」


『完全にフェアかどうかは微妙な線ですけど、はっきりアンフェアと言えるほどのズルはないと思いますよ。あえて言うならヒントはさっきの一心同体とあとは……神造迷宮そのもの、ですかね。どうします、レンリさん? もし分からなくても我がちゃんと親切丁寧に答えを教えてあげますけど?』


「ふふふ、そうまで言われたら意地でも自分で答えを出したくなってきたよ」



 なんだか話の流れでなぞなぞ対決みたいになってきました。

 答えが分からなくてもゴゴが正解を教えてくれるとは言うものの、その気遣いを素直に受け取るのはプライドが許さないのでしょう。レンリはモモやヒナと一緒になって、ああでもないこうでもないと頭を捻りだしました。

 ちなみにユーシャはもう小難しい話に飽きて、ルグやルカやウルと一緒に木の棒で地面に絵を描いて遊んでいます。問題の当事者にしては緊張感がなさすぎますが、なにしろ情緒面がまだほとんどお子様なので仕方ありません。



 ゴゴとしては今更秘密を隠すつもりはありません。

 少なくとも、今言った範囲内の情報においては。なのでレンリ達が独力で謎を解いても、解けずに答えを教えるのでも、どちらだろうと構わないのです。

 その上であえて相手に解かせるような方法を取っているのは、まあ率直に言えば意趣返しを兼ねた嫌がらせでしょうか。これでレンリ達が解けなかったら多少は溜飲も下がるというものです。が、しかし。



「迷宮、迷宮とは、つまり……あ、はいはいはい! 分かったよ、多分!」


『うーん、多分、モモも分かったのです』


『え、二人とも? ちょっ、待って待って、我まだ分からないから答え言わないで!?』


『えー、ここで無駄に時間をかけてもなんですし、残念ながらヒナはタイムアップということで。また次の機会があれば頑張りましょうね』


『えー、ゴゴお姉ちゃん、意地悪っ』



 どうやらレンリとモモは自力で答えに辿り着いたようです。

 なぞなぞ好きではあるけれど、別に解くのが得意というわけではないヒナだけはタイムアップで無慈悲な失格判定を喰らっていましたが、そこはまあどうでもいいでしょう。肝心の答えについてですが……。



「神造迷宮とは、神を造るための迷宮、だったかい? あとはゴゴ君の性質を合わせて考えれば、この程度はね」


『ふふ、ちょっと調子に乗ってヒントをサービスしすぎましたか』


『え、なに? つまり、どういうこと?』


「ははは、ヒナ君は可愛いね。つまりだね」

 


 神造迷宮とは、神が造った迷宮。

 神造迷宮とは、神を造るための迷宮。

 全ての迷宮は、いずれ新たな神に成り得る幼体であるわけです。

 


『それ自体は、我だけならそれでも別に良かったんですけどね』



 問題は、七つの迷宮のうちゴゴだけが持つ特性にありました。

 迷宮でありながら聖剣でもある。

 聖剣である彼女がユーシャと一心同体になるということは、迷宮としての彼女も当然同じく一心同体に、一つの生命体になるわけで。


 さて、ここで問題です。

 魂レベルで勇者と融合したゴゴが神様になった場合、ユーシャの存在はどうなってしまうのでしょうか。

 ゴゴ側の影響に引っ張られて一緒に神様になってしまうのか。

 それとも影響はあくまで限定的なものに収まって人間のままでいられるのか。

 人体に無理矢理大きな力を流し込んだことで、全く別の生命に変質してしまう可能性や、命に関わるような拒絶反応を起こすリスクだって絶対にないとは言い切れません。



『まあ、要するに現状では何も分からないわけなんですが』



 実際にどうなるかはゴゴにも一切分かりません。

 全ては杞憂に過ぎず、結局何事もなく終わることもあり得るでしょう。


 とはいえ、悪いほうに転んだ時のことを考えると安易に試してみるわけにもいきません。ユーシャを造り出して間もない頃のゴゴならともかく、一緒に過ごして情が湧いてしまった今となっては到底無理な話です。



『……まったく女神様あるじさまの秘密主義にも困ったものです』



 そもそも元はと言えば、実際にウルとヒナが覚醒する段階まで迷宮達が神の幼体であるということを、本人達にすら隠していた女神の責任も多々あるのですが。ゴゴが神造迷宮の目的を知ったのも既にユーシャを生み出した後でした。もっと早くから知っていたら色々と対応も変わっていたことでしょう。

 新たな神を造り出すなんて大仕事、前例がないだけに失敗した時に恥を掻かないようにと、ある程度の成果が見込めるまでは秘密主義に徹していたのでしょう。こうして振り返るとゴゴの慎重な性格は創造主譲りなのかもしれません。



『原因はどうあれ、聖剣がわざと勇者を拒絶してるわけですからね。先輩には……ああ、リサ様の聖剣のことです……そのあたり一目瞭然だったみたいで散々叱られちゃいました』



 しかし、慎重にリスクを避けて現状維持というのもまた悪手。

 たとえば極端な話、今ここに世界を滅ぼしかねないような怪物や悪人が現れたとして、ゴゴが拒絶していたせいでユーシャが本来の勇者としての力を発揮できずに誰かが大怪我をしたり死んだりする可能性だってゼロではないのです。



『さっきレンリさんも言ってましたね。あくまで漠然とした、我も最近やっと自覚したくらいの感覚的な話ですけど、あの子が我を武器として振るうたびに結びつきが強くなっていくみたいなんです。もうあと三回か五回か、どんなに遅くとも十回はかからないでしょうね。それで我とあの子は完全に融合して、それでもう二度と離れられなくなります。今でも、もうだいぶギリギリですね』



 そして現状維持すらも実のところ容易ではありません。

 つい先程魔物が出た時は、たまたま近くに闘争心を持て余した他の迷宮や冒険者がいたから良いようなものの、そんな幸運がいつもあるとは限りません。ユーシャとゴゴしかいない時に戦う力が必要な場面であれば、きっと躊躇うような余裕はないでしょう。

 もしユーシャに迷宮や神への覚醒に関するリスクを全て説明したとしても、それで我が身可愛さに彼女が逃げ出すようなこともあり得ません。そのことはユーシャをそういう風に造ったゴゴが誰よりもよく知っています。

 そうして何度か戦う機会を得れば、二人は本来の勇者と聖剣らしい関係となって、ゴゴの神化に伴うリスクをまったく予想できないまま受け止めざるを得ないことになってしまうのです。


 これらの悩みを解決するためにはいったい何が要るのでしょうか?



『あの子と融合した状態で我が覚醒しても安全だという保証。あるいは我とあの子との繋がりを切り離せる。そんな都合の良い手段があればいいんですけど……残念ながら今のところさっぱりでして』



 ゴゴもこう言っていますが、それが出来れば最初からこんな苦労はしていません。そんな都合の良い手段などそうそうあるわけが――――。






 ◆◆◆






 ――――ですが、数日後。

 ゴゴは手にしたモノを見て言いました。



『あ、これならイケるかもしれません』


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― 新着の感想 ―
[良い点] いつの間にか子育てそうだん [気になる点] 反抗期が来ないだけましか ゴゴが反抗期ならもう少し様子を見てからです [一言] 更新お疲れ様です 先代の聖剣なら説教永そうですね
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