表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/1047

こうどなじょうほうせん


『うむ、だから安心してボコボコにされるといいの』


 ……とは言われたものの、



「安心できるか!」



 実際に戦う二人としてはこれっぽっちも安心できません。

 一時的に戦線離脱していたルグが全力でツッコミを入れました。



「おっ、無事だったかいルー君? 結構飛ばされてたけど」


「だ……大丈夫?」


「ああ、俺もやられたかと思ったんだけど、ギリギリ後ろに跳ぶのが間に合ったみたいだ」



 ゴリラウルのタックルで吹っ飛ばされたように見えたルグですが、派手に飛ばされたように見えたのは、衝撃を逃がす為に咄嗟に後ろに跳んだからのようです。まあ、それを差し引いてもダメージはありますが、まだまだ戦える範囲です。


 白刃取りで奪われた剣も、ご丁寧に地面に刺してありました。

 ルグがそれを回収する間もゴリラウルに動きはありません。脱力の利いた自然体で構えてはいますが、あくまでも防御的な姿勢。



『…………』



 少女ウルと違って寡黙なゴリラウルの考えは読みにくいのですが、先の一合と同様に防御とそこから派生するカウンター技を狙っているのかもしれません。


 そうなると、戦いの局面を進めるにはルグとルカが攻めないといけないのですが、先程の見事な白刃取りを見た後では、なかなか攻めるに攻められません。

 相手が守りの構えを取っている以上は自分達が先手を打たねばならないのですが、並の技では容易く返されてしまうでしょう。



『言っておくけど、そのまま動かなければ全員失格にするのよ?』


「なに、それは困る。二人ともなんとかしてくれたまえ! あ、ウル君お菓子はどうだい? 水筒の中にお茶もあるよ!」


『貰うの! でも、評価には影響しないのよ?』


「…………ははは、もちろん分かってるさ」



 この期に及んで賄賂を試みるたくましさはある意味すさまじいと言えますが、当然ながらレンリの援護も役立ちそうにはありません。


 このまま、もうしばらくは膠着状態が続くかと思われましたが、



「ル、ルグ君……わたしが、どうにかする……から」


「ルカ?」



 意外にも、事態を動かしたのはルカでした。

 未だに武器の扱いや戦いにも不慣れな彼女ですが、



『…………む』



 投石杖スタッフスリングに石をセットしいつでも放てる体勢になると、泰然自若のゴリラウルにも僅かな動揺が見られました。

 戦いらしい戦いは苦手でも、ルカの攻撃力はピカイチ。並の攻撃魔法など及びもつかない破壊力があります。

 つい十数分前にも、狼ウルの身体を至近距離からの投石で爆散させる戦果を挙げていますし、形は違えど当たりさえすればゴリラウルもひとたまりもないでしょう。


 ……そう、当たりさえすれば。



『…………』


「ち、近い……!?」



 至近からの投石を封じるのは大して難しくもありません。

 ゆったりした動きでほんの少し歩くだけ。

 ほんの数歩だけ距離を詰めれば、それだけで当てるのは困難になってしまうのです。1m先の的に向けて石やボールを全力で投擲する様を想像すれば分かりやすいかもしれません。

 特に投石紐スリングよりも予備動作が大きくなる投石杖では、手を伸ばせば届く相手に石を当てるのはまず不可能と言っていいでしょう。




 しかし、レンリが手を加えた投石杖は紐部分を分解して投石紐にできたり、あるいは頑丈さを突き詰めた杖部分で打撃にも使用できるような工夫がしてあります。

 実際、ルカも半分パニックに陥りかけての破れかぶれでしたが、急に近付いてきたゴリラウルの胴を杖で殴ろうとしました。



「え……? あ……きゃ!?」



 ですが、素人同然の殴打など、いくら威力があろうとも冷静に見ていれば回避は難しくもありません。

避ける動作と接近が一つになったゴリラウルの低空タックルによって、ルカは簡単に地面に転がされてしまいました。

 回避を優先したために勢いが乗り切らなかったのか、タックルの速さがそれほどでもなく、幸い転倒自体によるダメージはありませんでしたが、これは非常にまずい状態です。


 ですが、この場合は状況がルカに味方しました。

 これが格闘技の試合であれば、ゴリラウルはそのまま関節を極めるなりマウントポジションからの打撃に以降するなりしたのかもしれませんが、

 


「ちっ、外した! 大丈夫?」


「う……うん、ありがと……」



 一対二の状況で組み技に繋げるのは愚策。

 ゴリラウルは背後から首に迫るルグの刃を見もせずにブリッジでかわすと、そのまま後転の動きに繋げて起き上がり、再び間合いを開けました。そして、再び待ちの構えに入ります。



「こ、こいつ、強い……!」


『…………』



 ゴリラでありながら腕力に頼るだけの野蛮な戦いではなく、洗練された格闘技術と的確な状況判断能力を有するゴリラウル。傍から見たらひたすらシュールな光景だったでしょうが、紛れもない強敵でありました。







 ◆◆◆







 一方その頃。

 レンリと少女ウルは、戦いの現場から少し離れた木陰でお茶とお菓子を口にしながら観戦していました。今はレンリの鞄に入っていたアーモンドの焼き菓子を二人揃ってモグモグと食べています。


 一見平和的な光景ですが、レンリには何やら気になることがある様子。



「ねぇねぇ、ウル君?」


『なぁに、お姉さん? 貰ったお菓子なら返さないけど……』


「いや、そうじゃなくてさ……あのゴリラ君、ちょっと強すぎない? 聞いてた話と違うんだけど」



 一言で表すなら「強さの設定を間違えていないか?」という疑問を持ち始めていたのです。

 レンリもそこまで格闘技術に詳しいわけではありませんが、ゴリラウルの技は素人目に見ても現在のルグやルカと同じ水準とは思えません。



『ううん、そんなことないのよ? あのゴリラは今は、あのチビっこいお兄さんとオドオドしたお姉さんと、ついでにお姉さんの造った武器を合わせただけの強さしかないの。もちろん簡単には勝てないけど、普通ならもうちょっと善戦はできるはずなのね』



 ですが、少女ウルはその疑問をきっぱりと否定しました。強さの縛りに関するルールは彼女達にとって絶対であり、その点での手違いはあり得ないようですが。



『あ、でもね』


「でも?」


『強さが同じって言っても、それはあくまで“総合的に”同じって意味なの。ピッタリ同じ力とか速さを持ってるわけじゃないのね。だから、長所短所の駆け引き次第では必ずしも互角じゃなくなっちゃうかもしれないの』



 戦力的に同格とはいえ、体力やスピード、技術力など全部の能力が単純に相手と等しくなるわけではなさそうです。

 まあ、相手が一人ならまだしも複数人の場合は調整が困難になりますし、筋力やスタミナはまだしも、技術などは単純に足し引きで考えられるものではありません。


 だからこそ、“総合的に”大体同じくらいの強さなのでしょう。

 


「ほほう……あ、お茶のおかわり要るかい?」


『ありがとう、遠慮なくいただくの! ……ふぅ、甘くて美味しいの。でねでね、あのゴリラの我が、技に特化してるなら逆に弱くなってる部分も…………はっ!?』



 少女ウルはバッと手で口を押さえましたが、一度出た言葉は戻ってきません。

 そしてレンリにとっては、その僅かなヒントだけで充分でした。


 素人目にもはっきりと分かるほどに見事な技を持っている。

 すなわちその部分に一点特化しているということは逆に言えば……、



「なるほどね。極端に技術面に特化している分、総合的に見れば他の部分に偏り、つまり弱点が出ているはずってわけか」


『ちょ、ちょっと待って!? い、今のナシ、黙ってて! あんまり誰かに肩入れすると主神あるじ様に“めっ”てされちゃうの! だから、ね?』


「あっはっは、分かった分かった。私に黙ってて欲しいんだね?」


『う、うん。分かって貰えればいいのよ』



 レンリはニッコリと笑って少女ウルを一旦安心させてから……、



「おーい、ルー君、ルカ君! そいつの弱点を探すんだ!」


『あーっ、お姉さん酷いの!?』



 戦いにおいては、敵の嫌がることをやるのが鉄則です。

 今回の場合、傍目には子供に意地悪をしていじめているようにしか見えませんでしたが。



今回の前半でも結構ヒントを出してるので、すでに弱点の予想が付いてる方もいらっしゃるのではないでしょうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ