子供! ~姿なき元凶、仕組まれた罠~
そして翌日。
レンリの部屋に泊まった皆は、朝早くから訪ねてきたルグとルカと合流。
昨夜はもう遅かったこともあり軽い挨拶程度しかできませんでしたが、今日はユーシャとゴゴの歓迎会ということで、朝から一日遊び歩くことになりました。
「――――それでな、店長が仕込みを放って子供達の写真ばっかり撮ってたから、アリス先輩とリサ先輩に叱られてカメラを取り上げられちゃったんだ!」
「その店長って魔王さんのことだよな? 母、強ぇ……」
「ふふ……毎日、楽しそう……だね」
とはいえ、今日のメインイベントはむしろ歩いている間のお喋りでしょう。
ユーシャは迷宮都市でずいぶんと豊かな経験をしてきたようです。
ほとんど休まず喋り続けているのに、なおかつ人前で喋ってもいい話題に限定しているのに、一向にネタが尽きる様子がありません。
ほとんど聞き役に徹しているルグ達にしても、なんだかんだと久しぶりの会話を楽しんでいるように見受けられます。
「ま、気が済むまで話聞くって約束したしな」
とは言うものの、単に昨夜の約束を守っているだけというわけでもなさそうです。
少なくとも、不快なのを我慢しているという風ではありません。
『うんうん、仲良しなのは良いことなの』
「ああ、なかなかの親子ぶりじゃあないか。ゴゴ君もそう思うだろう?」
一方、親子三人以外のメンバー。レンリ、ウル、ゴゴは前を歩くユーシャ達の少し後ろで、会話の内容に耳を傾けながら三人の様子を見守っていました。
レンリにしては珍しいことですが、両親と話していたいであろうユーシャに気を遣った形です。それ以外にも、会話に気を取られて隣を歩くゴゴへの監視が疎かにならないようにという理由も一応ありますが、
『……心配しなくても逃げたりしませんよ。どうせ逃げられませんし』
そもそも、この様子ならゴゴが逃げる心配はほとんど無用。
今の成長段階のゴゴでは、自分の迷宮外では見た目通りの子供並みの身体能力しかありません。頭の良い彼女が無謀と分かっている行動に出る可能性はまずないでしょう。
昨日の誘拐じみたトランク詰めも相当に堪えていたようです。下手に逃亡を企てて失敗したら、今度はレンリから何をされるか分かったものではありません。内心で何を考えているにせよ、今は大人しく付き合うのが賢明というものです。
◆◆◆
「お母さん、さっきの動物のやつすごかったな!」
「うん、色んな動物さん……可愛かった、ね」
市内にある広めの公園にて。
たまたま近くを通りかかった一行は、公園を一つ丸ごと貸し切って公演をしていた曲芸団の好演を幸運にも目にすることができました。
玉乗りやナイフ投げも好評でしたが、一番人気はなんと言っても動物芸。
綺麗な羽根のトリが調教師の指示通りに飛び回ったり、サルが綱渡りの綱の上で華麗な三連宙返りを決めたり、後ろ足だけで二足歩行する犬が器用にダンスを踊ったりと、技が一つ決まるたびに大盛り上がり。
どこかから借りてきたと思しき椅子やベンチなど並べて即席の客席としてあったのですが、大きな拍手と歓声に興味を惹かれた人々が後からどんどんと押し寄せて、演目の最後のほうには立ち見どころか公園内の木や建物の屋根に上って観ようとする者が出るほどの大盛況でした。
「いつの間にか、人……いっぱい……」
「ああ、いつの間にか公園の周りに屋台とか行商も集まってるみたいだ。ルカ、人混みで気分悪くなったりしたら我慢しないで言えよ」
「う、うん……大丈夫……平気」
いつの間にか公園の内外には見物客目当ての物売りなどが集まっていたようで、演目が終わってからもなかなか混雑が解消されません。
そんな多くの人で賑わう中で。
「そうだ、思い出したぞ。今なら良さそうだ! お父さん、ちょっといいか? 聞いて欲しいことがあるんだ」
「え、よく分からないけど今じゃないとダメか?」
「うん。周りにいっぱい人がいる時に言うほうが面白いって言ってたからな」
周囲の混雑を前にして、何かを思い出した風のユーシャがそんなことを言い出しました。ただ話を聞くだけならと、ルグも深く考えることなく彼女の言葉に耳を傾けることにしたのですが……これが失敗。
後悔先に立たずとはよく言ったもの。
誰に何を吹き込まれたのかを先に確認しておくべきでした。
ユーシャはルグに真っ直ぐ向き合うと以下のような言葉を口にしたのです。
「ええと、たしか下っ腹に手を当ててさすりながら……? 認知してくれ、子供!」
「いきなり何言ってんの、お前っ!?」
「ん、聞こえなかったか? 認知してくれ、お父さん! 子供!」
ユーシャの大きな声を聞いて周囲にどよめきが走りました。
人々の視線が集まった先には、下っ腹をさするユーシャと急な展開に思考が追いつかずに凍り付くルグの姿が。先の台詞を聞いて、かつ二人の関係について事前知識のない人々は、いったいどういう関係を想像したでしょうか?
遺伝上の父親である彼に子供として受け入れて欲しい。
だからこその熱烈な「子供!」アピールです。
ユーシャ自身としては、それ以外に他意はないつもりでありましたが。
「ひそひそ……あらやだ、聞きました奥様……」
「ひそひそ……ヤることヤっておいて……無責任……」
「ひそひそ……おね……しょ……た……」
ルグに向けられる視線が時間が経つにつれて冷たくなっていくように感じられたのは、きっと気のせいではないでしょう。逃げ道すら見つからないほどの人混みとなれば尚更です。
「え……ルグ、くん……?」
「い、いや、ルカ違うぞ!? こら、レンは腹抱えて爆笑してるんじゃない! ていうか、お前らはちゃんと事情知ってるだろうがっ!」
「はっはっは、あっちにいる時にコスモスが教えてくれたんだ! 次にお父さんに会った時に言ってみたらいいって。お腹をさする意味はよく分からなかったけど、レンリがなんかすごく笑ってるし、これはウケてるってことでいいんだな? だったら良し、だ!」
「何も良くねぇよ!? ていうか、元凶そこか!」
どうやら純真なユーシャに妙なことを唆した悪魔がいたようです。
しかし元凶が判明したとして、ルグとユーシャの関係性を無関係の一般人に伝えて誤解を解くわけにもいきません。ルグは人混みが消えて公園を脱出するまで、周囲からの突き刺すような視線を耐え忍ぶしかありませんでした。
◆ユーシャの言う「先輩」というのは、アリスがウェイトレスとしての先輩、リサが勇者としての先輩という意味でそれぞれ別です。
◆時系列的には、この辺で十・五章でシモン達が迷宮都市に移動したあたりになります。




