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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十一章『迷宮大紀行』

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まあまあの話、まあまあではない話


『ごめんくださいな、なのです』


 そう言って訪ねてきたモモの様子は以前と明らかに違いました。

 具体的に何が違うのかというと、この間までは身体に巻き付けていた長すぎる髪を解き、その髪の毛を足の代わりに操って歩いています。迷宮として覚醒したことで能力が大幅に強化され、自身の迷宮外でも力を発揮できるようになったおかげでしょう。



『おかげさまで楽チンなのです。気分的に』



 それでフリーになった手足がプラプラと不安定に揺れていたりとか、細い首に全体重がかかっているのが首吊りのようで見ていて不安になったりはしますが、ともあれモモ本人は快適そうです。元々、疲労などとは無縁の体質ではありますが、自分の足で歩くよりも気分的に楽なのだとか。

 まあ最悪、首が折れようがモゲようが問題ない身ですし、本人が良いと言っているのだから、事情を知らない人が見て不安になる点にさえ目を瞑れば何も問題はありません。


 さて、そんな宙吊り幼女がどんな理由で訪ねてきたのでしょうか。



『どうもどうも、この間はお世話になったのです。そのお礼をと思いまして。ぺこり』


「おやおや、モモ君、意外と律儀だね」


『いえいえ、それほどでもないのです。さあ、それではお礼として欲しい物をなんでも言うが良いのです。一生かかっても使い切れないほどの富だろうが世界を支配する権力だろうが、どんなお願いでも聞いてあげるのです』


「律儀にも程があるね!」


『いえいえ、それほどでもないのです。願いを聞くとは言いましたが叶えるとは言ってないですし』


「本当にそれほどでもなかった!?」



 と、そんな茶番はさておいて。

 どうやらモモはレンリ達に先日のお礼を伝えにきたようです。



『具体的な報酬の内容については後で詰めるとしまして、それとは別に、とりあえずモモの第四迷宮に関してはクリア扱いということにしておいたので。これでもうお姉さん達は自由にネムねーちゃんの第五迷宮に出入りできるようになっているのです』


「あ、うん。それは助かるけど、いいの?」


『そのくらいなら裁量の範囲内だと思うのです。まあ多分? ギリで? それでもあえて通常コースの試練を受けたいと言うのなら、モモ的にはゴチになるのはやぶさかではないですけど、世の中、使えるコネは使っておいたほうが良いと思うのですよ?』


「そこには同意するけど……何だか盛り上がりに欠けるなぁ。ていうか、後でヒナ君が知ったら怒られそうな気がするなぁ」



 ……というわけで、レンリ達はコネによる裏口合格で、知らないうちに第四の迷宮と突破したことになっていたのでありました。それはそれとして後でモモ共々にヒナに怒られはしましたが。







 ◆◆◆







『ははぁ、剣を作るのです?』


「私は元々そっちが本業みたいなものだしね。ほら、これ」


 ところ変わって近所にある料理店。

 モモを加えた一行は料理が来るまでの間、話に花を咲かせていました。

 話題は、先程モモが来るまで見ていたシモンの新しい剣についてです。非常に高価な品ということもあり、念の為ここまで持ってきています。



『ほほう、これは……甘々の剣なのです』


「甘々?」


『言い間違えました。まあまあの剣なのです』



 ですが、モモの評価はなかなか辛口。

 レンリが術を刻み込む前の未完成品である点を差し引くのは仕方ないにせよ、それでも既に並みの武具を大きく上回る名剣と言える水準には達しているはず。それを「まあまあ」と評すのにはモモなりの理由がありました。



「この剣をまあまあとはなかなか手厳しいじゃないか。モモ君は剣にも詳しいのかい?」


『いえ、特にそういうわけではないのですけど。むしろ大して詳しくないからこそというか。ほら、モモ的には武器の比較対象ってゴゴお姉ちゃんかリサ様の聖剣になっちゃうので』


「ああ、なるほどね。そのあたりと比べられちゃうと確かにまあまあ止まりかも」


『まあまあ、気を落とさないで欲しいのです。この剣も、まあまあなりに結構良いほうのまあまあだと思うのですよ?』


「取って付けたようなフォローありがとう。まあまあって一気に聞きすぎて意味がよく分からなくなってきたよ。おっと、料理が運ばれてきたみたいだ。適当に頼んだけど、たしか羊とか牛の料理だったかな」


『つまり鳴き声で表すと、めえめえ、とか、もおもお、なのですね』


「今なんで鳴き声で表したの?」



 特に意味のない雑談が続きます。

 どうやらモモは普段より饒舌になっている様子。

 迷宮を辞めて楽隠居するという野望に近付いたのと、先日のパワーアップの影響で若干気分がハイになっているのでしょうか。食事をしながらも会話が止まる気配はありません。



「そうだ。それなら、この剣をモモ君の能力で強化してもらうっていうのはどうかな? キミの『強弱』ならできなくもないだろう?」


『うーん、それくらいはまあ当然できますけど。普通の人間のヒトが魔法でやるより百億万倍くらい楽勝で強くできますけど。でも、あんまりオススメはしないのですよ? というか意味がないのです。モモの強化は時間経過で勝手に解けちゃうので。今のモモでは、ですけど』


「ふーん、じゃあ仕方ないか。剣のオプションとしてモモ君にずっと付いて回ってもらうわけにもいかないし……いや、キミ達なら一人くらい付属品扱いで剣の近くに常駐してもらうのも拒否なし寄りの許容ありだったりは……?」


拒否なし寄りの論外なし一択なのですよ。そんな雑な扱いは御免被るのです。迷宮の人権をなんだと思っているのですか』


「え、迷宮にそんなのあるわけ……ははっ!」


『うふふ、全然誤魔化せてないのですよ?』



 お互い普段は意識的に抑えている言葉の毒を遠慮なく出せる相手だからか、レンリとモモの会話は妙に盛り上がっています。ある意味、似た者同士なのかもしれません。

 ちなみに、このノリについて行けそうにないルカとルグは早々に会話に割って入ることを諦めて、テーブルの反対側の席で平和的にイチャついています。



『まあ剣の件については代替案が出せないこともないのです。それについては後で詳しく話すとして……あ、ところで剣といえば気になることがありまして。さっきもちょっと話題に出ましたけど、お姉さん達は最近ゴゴお姉ちゃんと会ったことあるのです?』


「ゴゴ君かい? いや、それが近頃は全然。迷宮に行っても出て来てくれないし、気になってはいるんだけどね」


『あー……じゃあ、やっぱりモモの勘違いじゃないっぽいのです。もしかすると人間のヒト達には普通に会ってるかもと思ってたのですけど』



 剣というキーワードから、モモがやや強引に話題を切り替えました。

 どうやら彼女はゴゴの近況について何か懸念があるようですが。



『驚かないで聞いて欲しいのですよ。どうやら、ゴゴお姉ちゃんは……引きこもりになってしまったのです! 社会の闇とか、将来への不安とか、思春期特有の繊細さとか、なんか大体そういう感じの難しいアレコレを感じるのです……!』


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― 新着の感想 ―
[良い点] これが裏口入学か… [気になる点] レンリにトラウマ級の仕返しが出来るのはコスモスだけだ [一言] 更新お疲れ様です やはり今日もレンリは黒かった
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