目指せ完成! スゴクツヨイソード(名称未定)
そして数日後。
レンリ達は住み慣れた学都へと戻っていました。
「こっちもまだ暑いけど、砂漠から帰った後だと随分過ごしやすく感じるものだね」
「うん……砂で、洗濯……大変」
次なる「おかわり」が発掘されるまで砂漠の村に居座り続けるのは流石に退屈ですし、暑くて砂っぽい気候は慣れない身にはあまり快適とは感じられません。
村人にプレッシャーをかけすぎて彼ら本来の仕事や生活に支障を出したり、健康を害するほど頑張られても困ります。今後はたまに様子を確認しに行きつつ、適度な距離感で接するほうがお互いのためになることでしょう。
「それで、レン。その荷物は何なんだ?」
「これかい? ふふふ、聞いて驚きたまえ」
ルグとルカも本日はレンリの部屋に集まっています。
体質的に疲労の溜まりようもない迷宮達はともかく、遠出の後で普段より疲労が溜まっている人間には適切な休息が必要です。それに加えて、不在中に届いていた大事な荷物を確認する必要がありました。
レンリが包み紙を破いて取り出したるは、長さ一メートルと二十から三十センチ、縦横二十センチ強ほどの細長い木箱。ちょうど剣が一振り収まりそうなサイズです。汚れ一つない箱には美麗な紋様が刻み込まれており、これだけでもちょっとした美術品として通用しそうです。
「シモン君から注文を受けていたやつさ。前に実家に論文を送り付けた時についでに手配を頼んでおいたのだよ……っと、ルー君。危ないから私が良いって言うまで箱に触れないほうがいいよ? まあ、ちょっと触るくらいなら大丈夫だと思うけど念の為」
「危ないって、何かあるのか?」
「うん。この箱の模様ね、これ、うちの家が貴重品を送る時の防犯対策というか、ぶっちゃけ呪いの一種なんだけど。術を解除しないまま強引に箱を開けようとしたり壊そうとするとね……丸一月くらい自分を犬だと思い込んで四つ足で走り回ったり、素っ裸で路上に出て所構わず吠えまくったり粗相をしたり、ついでに何でそうなるのか分からないけど何故か尻が四つに割れたり。まあ命に関わるようなものじゃないけど社会的には死ぬかもね?」
「怖すぎるわ!? そんなの気軽に置いとくんじゃない!」
ルグは箱に伸ばしかけた手を全力で引っ込めました。
ついでに隣で説明を聞いていたルカも彼の背に隠れました。そりゃそうです。ルカの魔力関係への抵抗力なら呪いそのものを弾けるかもしれませんが、わざわざ試したいとは思わないでしょう。
「ええと解除の呪文は、と……よし。これでもう開けても大丈夫だよ」
そんな友人達の怯えっぷりなど意にも介さず、レンリは恐怖の封印を解除するとあっさり箱を開けてしまいました。中には鞘に納められた直剣が一振り。それと説明書きと思しき紙が添えられています。
レンリは説明書きに目を通すと、すらり、と剣を抜いてみました。
ミスリルらしい白銀色の刀身に浮かぶ赤や金の淡い色合い。剣の目利きに関しては素人のルカが見ても思わず見惚れるほどの美しさ。間違いなく超一流の職人の手によるものです。
「わ……綺麗な、剣……だね」
「だろう? ふふふ、流石は父様! 私の論文を随分と高く買ってくれたようだね。まさか秘蔵のオリハルコンまで出してくれるとは期待以上だったよ」
説明書きによると、剣の素材はミスリル銀と鋼鉄の合金が主で、そこに硬度に優れるアダマンタイト、少量ながらも希少なオリハルコンまで加えた超豪華仕様。ミスリルと鋼鉄はともかく、他に関してはお金を積めばそれだけで買えるという品ですらありません。大貴族の権力とコネがあってようやく手が届くかどうかといったところ。
金属以外にも千年以上生きた竜のハツだの、不死鳥の手羽先だの、クラーケンのイカ墨だのと、貴重な材料を錬金術を用いて色々融合させているようです。仮にこの剣に値を付けるとすれば、素材の価値だけでも王都の一等地に新築の豪邸が土地ごと買えるくらいにはなるでしょう。
元々の注文者であるシモンから予算に糸目は付けないと言われているおかげでもありますが、これだけの材料と職人の都合を付けられたのはレンリが送った概念魔法の論文にそれだけの価値が認められたという理由もあるはずです。
「よし、これなら後は私が仕上げをすれば完成さ。シモン君達が帰ってくるまでには間に合うかな?」
現時点でも十分に名剣と言える仕上がりになっていますが、それでもまだまだ未完成。仕上げにレンリが魔法を刻み込めば、今のシモンが全力で振っても折れたり消滅したりしないどころか、使い手の力を実力以上に引き出す大名剣として完成することでしょう。
「じゃあ、大仕事の前に気合と栄養を入れるために何か食べに……おや?」
そうと決まればまずは腹ごしらえ。普段以上に気合の入ったレンリの食事で、果たして何軒の飲食店が食材を食い尽くされるのかを考えると少々恐ろしいものがありますが……その前に。
『ごめんくださいな、なのです』
玄関先から聞こえてきたのは、つい数日前に覚醒を果たしたモモの声。
どうやら、何か用事があって訪ねてきたようです。




