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ここは村の近くの化石発掘現場。ウルとヒナが感じ取った気配の正体を確認すべく、一行は先程までルグが作業していた大穴を訪れていました。
『くんくん……多分こっちのほうだと思うの』
『ええ、気配が近いわね。もう、すぐそこよ』
作業場の周囲には支柱となる何本もの木杭が打ち立てられ、その上にゴザのような目の粗い布を渡して簡易的な日除けとしているようです。恐らくは暑さを凌ぐための工夫でしょう。
人々が地面を掘り進める手付きも単なる力任せではありません。
地面の中から出てきた物に傷を付けない慎重な手捌き。流石、以前から度々本職の考古学者の作業を手伝っていたというだけはありました。
『うーん……『強弱』で感覚を強化してもモモにはまだ全然感じ取れないのです。このあたり、素の感知能力の差ですかね?』
同じ迷宮でも覚醒しているか否かの差によるものでしょうか。発掘現場のすぐ近くまで来ても、モモには『神の残骸』らしき気配を感じ取れないようです。
「能力差もあるだろうけど、モモ君は前の事件の時に直接アレを見たわけじゃないから、プラス経験の差もありそうかな。まあ、それならキミが例の化石を食べて成長すれば、きっと分かるようになるんじゃないかな?」
『早く楽隠居できるよう、モモ的にもそう願いたいものなのです。あ、多分アレじゃないのです?』
モモが指差した先の地面には布が敷かれ、その上に本日の成果物らしき化石がいくつか並べられていました。先程ルグが休憩に戻ってくる前よりも更に数が増えているようです。
その数、実に五つ。
白っぽい物、黒っぽい物。
尖っている物、丸っこい物。
大きさは一番大きい物で子供の握り拳くらいでしょうか。
ぱっと見ではこの中のどれが目当てのブツかは分かりません。
「ええと、じゃあどうしようか? とりあえず、この中に当たりがあるかを確認して――――」
ですが、見分けに関しての心配は無用。
レンリが提案するまでもなく簡単に分かりました。なぜならば。
『あれ? その化石、なんかちょっと動いてないです?』
「え、本当かい? モモ君、私にもよく見せて」
『我も! 我も見たいの!』
「こらこら、ウル君、順番だよ順番! こういうのはまず年長者が先と相場が決まっているのだよ。ねえ、ルカ君達もそう思うだろう?」
「え、あの、わたしは……べつに……あれ?」
きっと迷宮達が近くに来たことがキッカケだったのでしょう。
一番大きな黒くて丸っこい化石が、誰も触れていないのに微かに揺れたかと思われた……次の瞬間。突如、黒い化石の真ん中から鋭いトゲのような物が伸びてきて、無防備に観察していたモモを刺し貫こうとしたのです。
◆◆◆
まあ、幸い誰も怪我をせずに済みましたが。
「び、びっくり、した……モモちゃん、大丈夫?」
『あ、はい。おかげさまで。ルカさんこそ、思いっきり手を刺されたように見えましたけど大丈夫なのです?』
「う、うん、平気……わたし、頑丈だから」
推定『神の残骸』から伸びてきた黒いトゲは、モモに刺さるより前にルカの手で止められました。血も出ていませんし、特に痛いとも感じていない様子。流石の頑丈さです。
パワーはともかくスピードや反射神経は特別優れているわけではないルカが止められたのは、トゲが伸びてくる速さが彼女の目でも見える程度だったのと、たまたま庇い易い立ち位置だった幸運によるものでしょうか。
『あ、そういえば思い出したの。我も前に学都でこんな感じのトゲに刺されて、身体の中身を吸われて、それで化石があの大きいのになったのよ』
今回で二例目ともなれば様々な性質も見えてきます。
前の事件でもウルが別の化石に刺されたことから考えると、『神の残骸』は近くにいる迷宮の化身を攻撃して力を奪おうとする性質があるのでしょう。
以前に女神が口にしていた推測が確かならば、新しい時代の神たる迷宮達は、ある意味では現在の世界秩序を脅かしかねない存在。旧き神であり、なおかつ女神自身の制御から外れている肉体の成れの果てが、世界を守るために自律的に行動している……のかもしれません。
もしもルカが止めていなかったら、今頃モモは身体の中身を吸い尽くされて、代わりにここら一帯を前に学都を襲ったのと同じ巨大な怪物が押し潰していたかもしれません。
「なるほど、ルカ君のファインプレーだったようだね。とりあえず、他の人だと危なそうだからそのまま持っててもらえるかい?」
「う、うん……がんばる……ちょっと、くすぐったいけど」
現在、『神の残骸』はルカが両手で抑え込んでいます。
先程伸びたトゲはルカに止められた時に粉々に砕けてしまいましたが、実は今も新たなトゲをモモやウルやヒナの方向に向けて何十本と生やしているのです。ルカだからくすぐったいだけで済んでいますが、他の人間が持ったら今頃両手が穴だらけだったに違いありません。
『なんだかウニみたいね。黒っぽいし、丸いし』
『うん、我にもウニに見えてきたの』
『これはかなりウニなのです』
ルカがちょっとだけ手を開いて中を見せると、黒くて丸い形に黒曜石のような光沢のあるトゲがびっしり生えています。迷宮達が口々に言うように見た目はほとんどウニ。流石に割ってみても中に柔らかい可食部があったりはしないでしょうが、食い意地の張った人間や迷宮が見たら、そこはかとなく食欲を刺激されそうな形です。元々、迷宮達に食べさせるつもりで探していたのだから、美味しそうになる分には、まあ構わないのですけれど、
『で、コレってどうやって食べればいいのです?』
そのまま口に放り込んでも、このイキの良さだと頬やお腹の内側から串刺しにされかねません。刺されて穴だらけになるだけなら迷宮達にとっては大したダメージではありませんが、モノがモノだけに下手をしたら逆に吸収されて力を奪われる危険すらあります。
さて、ならば一体どうするか?
「えっと……お料理、してみる……とか?」
ここでもルカが名案を出す活躍をしてくれました。
『神の残骸』とは、かつて生きていた女神の肉体の成れの果て。
カラカラのカチカチに固まってるくせに少々イキが良すぎはしますが、まあ広義の乾物みたいなものでしょう。そのままでは食べにくいのなら、迷宮達が食べやすいよう手を加えてしまえばいいのです。
と、いうわけで。
レッツ・クッキング!




