サクサク解決、三つの問題
バジリスクに(自業自得で)襲われて村中の大人達が石化。
それに加えて、崖崩れでよその村に助けを求めることもできなくなった。
村の子供達の置かれていた奇妙な状況については大体把握できました。たまたまレンリ達が訪れなければ、遠からずこの村の住人は一人残らず悲惨な最期を迎えていたことでしょう。
そして根本の問題が解決していない以上、その危機は未だ続いています。
ならば、ここでレンリの言うべきことは一つだけ。
「じゃあ、私達そろそろ帰るから後は頑張ってね!」
「いやいやいや待って待って待って!?」
爽やかな笑みを浮かべて帰り支度を始めました。村の子供達はもちろん、もう完全に彼らを助けるつもりでいた仲間達もそれを慌てて引き留めます。
「はっはっは、場を和ませるための軽いジョークさ」
「重いよ!? 死ぬほど重いよ!」
が、流石にそれは単なる冗談。
せっかく一度は助けた子供達を、放っておけばまた遠からず飢え死にしそうになるであろうと知りながら見捨てるつもりはありません。まあ酔っぱらった大人達の所業を聞いて、助ける気が少なからず削がれたのは事実ですが。
「ところで、キミ達。誤解があるようだから教えておこうか。さっき死んだとか何とか言ってたけど……」
元は自業自得だとしても、これだけの数の子供が一斉に親を失うというのは見ていて痛ましいものがあります。叶うのならば、事態の原因を作った“張本人達”にキチンと責任を取らせるのが筋というものでしょう。
「この石になった人達、多分まだ生きてるよ?」
◆◆◆
現状、この村の問題は大きく分けて三点。
①村の大人達が石化してしまったこと。
②他の集落に通じる道が崖崩れで塞がれてしまったこと。
③恐らくは人間に対して非常に攻撃的になっているであろうバジリスクが、村の周辺を今もうろついていること。
これらをどうにかしないことには、そもそもの目的であった化石発掘に取り掛かれそうもありません。なのでレンリ達は皆で手分けして簡単にできそうなことから順に片付けていくことにしました。
「じゃあ、ヒナ君。そのメモに書いてある薬草とか道具とかよろしくね。そんなに珍しい物じゃないから、ちょっと大きめの街の店なら置いてあると思うよ」
『ええ、いいわよ。我、なんだか今日はお遣いばっかりねえ』
まず石化の治療についてですが、これは簡単。
というのも、レンリが治療薬の調合法を知っていたのです。
仲間はおろか最近は本人すらも忘れがちですが、彼女はこれでも魔法使いの名家で幼い頃から様々な魔法分野の英才教育を受けてきたエリートお嬢様。魔法薬学についても一通りの知識は押さえています。必要な薬草類や調合に用いる道具に関しても、またもやヒナにお遣いを頼んだので入手に問題はないでしょう。
「まあ私も魔物毒の専門家ってわけじゃないし、覚えた知識を実際に試すのは初めてなんだけどね。なぁに、ダメで元々さ。上手くいったら儲け物と思って肩の力を抜きながら気楽にやってみるよ!」
「変なお姉ちゃん、それ自分で言うことじゃなくないかな!?」
下手に気負い過ぎて緊張するよりは良いのかもしれませんが、あまりに肩の力が抜け過ぎた態度には子供達も不安そうな顔を隠せません。
まあレンリとしては失敗したら失敗したで、その時は最終兵器として学都の迷宮からネムを連れて来て石化した人々を『復元』してもらう気でいるが故の余裕なのですが。ちょっぴり勢い余って周辺一帯の砂漠が丸ごと森林に変わったり、老人が赤ん坊になったり、村の付近に化石として埋まっている古代生物が片っ端から生き返る可能性も否定できませんが、その時はその時です。
ともあれ、石化の治療に関しては問題ないでしょう。
そして、二つめの問題。
崖崩れで塞がった道を開けるのはもっと簡単です。
「なあなあ、ちっこい兄ちゃん。本当にあんな弱っちそうな姉ちゃん一人で大丈夫なのかよ? メシ作るのは上手かったけどさぁ」
「ちっこい言うな。まあ見てろ」
ルカとルグは別動隊として村から歩いて数分の現場を訪れていました。
子供達に案内されて辿り着いた場所は切り立った崖に左右を挟まれた谷底の道。今でこそ一滴の水も見当たりませんが、大昔は川でも流れていたのかもしれません。
そして現在、その道は巨大な岩石によって塞がれていました。
子供達がよじ登って乗り越えるのを断念したのも無理はありません。家屋ほどもある巨岩が何個も積み重なっていて、それがいつ崩れるとも知れない絶妙なバランスで辛うじて均衡を保っているのが見て取れます。
普通なら大勢の人間を集めての大掛かりな工事が必要になるでしょう。大金を払って強力な攻撃魔法の使い手でも雇い入れれば、岩を魔法で爆破して人力で取り除けるサイズにするようなこともできるかもしれません。
まあ、ルカの手にかかればそんな手間や人手は要らないのですが。
「よいしょ……っと」
ルカはとりあえず手近にあった岩の一つを無造作に抱え上げました。
重さは、まあ大体十トンかそこらといったところでしょうか。
「な、なん……え、うっそ……!?」
「え、ええ、すっげーー!」
「あ、なんかすごい懐かしい感じの反応だ」
さほど大柄にも見えないルカが自身の何百倍も重そうな大岩を軽々持ち上げたのだから、子供達はそれはもう驚きました。レンリ達が自信満々に「できる」と言うからルカに任せてはみたものの、本人のいかにも気弱そうな雰囲気もあって、こうして実際に力を見るまで信じ切れていなかったのでしょう。
そんな子供達の微笑ましい反応を見たルグは、かつてルカと知り合ったばかりの頃の自分やレンリの反応を懐かしんで和んでいました。
「あ、あの……この岩、どこに置けば……いい、かな?」
「ああ、この大きさだとその辺に置いといたら通行の邪魔になりそうだな。どっか丁度良さそうな場所ないか?」
「え、あ、うん。村の北にある砂漠なら誰も入らないから大丈夫だ、ですよ?」
信じられないモノを見たせいか子供達の反応がおかしくなっていますが、とりあえず必要な情報を聞き出すことはできました。やはり現地のことは土地勘のある人間に聞くに限ります。
「北っていうと、ええと、影の向きが今こうだから……あっち側か。ちょうど崖の上のとこが崩れて無くなってる方向だな。いけるか、ルカ?」
「うん、大丈夫……じゃ、じゃあ……ぽいっ、と」
「わー、デカい岩がびゅーんって飛んでっちゃったー」
「あはは、都会の人ってすげーなー」
その後、距離にして数百メートルはあるであろう北の砂漠まで、道を塞いでいた大岩を次から次へとぽいぽい放り投げるルカを見て子供達の正気度が更に削れていましたが、まあ些細な問題でしょう。
◆◆◆
そして三つめの問題。
バジリスク対策についてですが。
『はいはいはーい、我がやるの! 我、今日はまだ何もしてないから活躍の機会をよこすの! もっと目立って感謝されたいの!』
自身の活躍の少なさに危機感を覚えたらしいウルが手を挙げていました。




