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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十一章『迷宮大紀行』

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モモの能力


 目指すは大陸西端のS国。

 未だに肝心の移動方法については説明がなかったのですが、ひとまず発掘隊一行はモモに連れられるままに学都郊外の草原にまで移動しました。


 本来は片道二か月近くもの道程です。

 マトモに徒歩や馬車で旅をしようと思えば相応の準備が必要になってくるはずですが、レンリ達の荷物は普段と変わらず。食料に関しても全員合わせてパンがいくつかと飴玉やキャラメルなどのお菓子程度。これでは長旅どころか遠足の風情です。



「で、モモ君。そろそろどうやって行くのか教えてくれないかい?」


『うふふ、そうですね。あんまり引っ張ってもなんですし。では、ヒナひーちゃん、ちょっとモモ達全員を水鉄砲の要領で飛ばして欲しいのです』



 モモの種明かしは単純明快。ヒナの液体操作能力を応用して、発掘隊の六人全員を大陸の西端近くまで一気に飛ばしてしまおうというのです。


 以前にヒナがレンリの居候先を訪ねてきた際に本人が同様の移動法を使っていましたし、水鉄砲とはいえ覚醒済みの彼女が本気を出せば音速の何倍ものスピードを出すことができます。障害物のない上空を真っ直ぐ飛べば、目的地まで一時間もかかりません。


 肉体をドロドロの液状に変化させることに関して一抹の不安がないこともありませんが、液体化した生物を任意で元通りの姿に戻せることは分かっています。実際に迷宮の中で幾度か魔物を相手に同じような真似はしていましたし、不安はあれど痛みや息苦しさはないはずです。モモのアイデアは少々の不安要素はありつつも、なかなかの名案かと思われました。



『あ、ごめん。それ無理だわ』


『え、できないのです?』



 が、アイデアを実行に移す前に当のヒナから待ったがかかりました。



『正確にはルカさんだけ無理ね。他の皆だけなら大丈夫なんだけど』


「え、わ……わたしのせい……?」



 ヒナ曰く、どうやらルカに原因があるようです。

 特に心当たりのないルカは不安そうに続く言葉を待っていたのですけれど。



『うん、ルカさんは何ていうか、その……ちょっと重くて』


「お、重……!?」



 まさかの理由にルカは大きなショックを受けました。

 あまりに体重がありすぎてヒナの能力では飛ばせないとでもいうのか。

 最近は特に太った自覚はなかったけれど、自分でも気付かないうちに実はジワジワと増えていたのか。最近は第四迷宮産の巨大食材を色々食べていたけれど、もしかするとアレが悪さをしていたのだろうか……などと、ルカはショックを受けつつも色々考えていたのですが、ヒナが言った『重い』というのはそういう意味ではありません。



『ルカさん、魔力が強すぎて我の能力を弾いちゃうのよね』


「え、あ……そ、そういう……ほっ」



 ヒナが言いたかったのは、ルカを液体化させて飛ばすためのコストの重さ。

 ほぼ身体強化にしか使えないとはいえ、ルカの魔力量は常人を遥か上回ります。そして魔力が強い人間というのは様々な魔法や呪い、そして迷宮達の能力に対しても強い抵抗力を持つのです。

 本来はメリットとして働く部分ですが、今回に限ってはデメリット。

 ヒナが今よりもっと成長して完全な神に近付けば、抵抗力を貫いて能力を効かせることもできるでしょうが、少なくとも現時点では能力を通すためのコストが重すぎて難しいというのです。



『聞いた感じだと意識的に抵抗を緩めるとかも難しそうなのよね』



 単に強い魔力を持つというだけならウルなども同じですが、そこは抵抗力を自在に上げ下げすることで対応可能。普通の人間の魔法使いなども同じようなことは可能でしょうが、そのあたりの器用さはルカにはあまり期待できません。


 さて、ならばどうするべきか。

 今回はルカだけ留守番ということにして残る五人で出発すれば解決ですが、それは皆としても気が進みません。残る解決方法は……。


『うふふ、どうやらモモの出番のようですね?』



 どうやらモモの迷宮としての能力を明らかにする時が来たようです。

 いやまあ迷宮達はもちろんレンリ達もとっくに知ってはいたのですけれど。






 ◆◆◆





 モモの力はモノの『強弱』を操る能力。

 先日の髪の毛を操る能力は迷宮としての固有能力ではなく、『強弱』で器用さや髪の強度を底上げした応用法の一パターンに過ぎません。



『とうっ、なのです!』


「え、えっと……モモちゃん、どうしたの?」



 いきなりモモが人差し指でルカのおでこを突きました。

 未覚醒の迷宮であるモモは自身の迷宮外では見た目通りの子供並みの身体能力しかありませんし、肝心の『強弱』の出力も本来より大幅に低下しているのですが……。



『うふふ、今、モモの能力を乗せてルカお姉さんの経絡ツボを突いたのです。そこから一歩でも動けば……ぽよん、なのですよ』


「え、ええ……ぽよん!? わ、わたし、どうなっちゃうの……ぽよん……?」


『まあ、それはウソなのですけど。ひーちゃん、これで効きませんかね?』


『どれどれ……んー、まだギリギリかしら?』



 経絡云々は冗談ですが、モモが触っただけでルカの抵抗力は幾らかダウンしたようです。当のルカ自身にはさっぱり実感がありませんが、ヒナが見る限り多少は能力を通しやすくなったのだとか。



『じゃあ、更にひーちゃんの頬っぺたを突っついて……これならどうです?』


『あ、うん。なんか調子良い気がするわ。これならいけそう』



 更にダメ押しの『強弱』操作でヒナの能力を底上げ。相変わらず傍目からはじゃれ合って遊んでいるようにしか見えませんが、これでようやく準備が整ったようです。



『じゃあ全員固まって、なるべく力を抜いてリラックスしててね。方角は……地図の通りなら西南西の、この角度ね。じゃあ、行くわよ!』



 ヒナが能力を発動させると六人はほんの数秒で全身とろけて一つの水の塊に。その次の瞬間には超高速で上空へカッ飛んで、そのまま西へ西へと向かって行くのでありました。



◆モモの『強弱』能力は使うために対象に触れる必要はないです。実は近くにいるだけで発動可能。

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― 新着の感想 ―
[良い点] モモちゃんにも出来ないことはあった [気になる点] なんとか人間砲弾は出来なかった レンリだけならモモとやりそう [一言] 更新お疲れさまです さあ、S国に侵入だただし国境パトロールに…
[一言] 水鉄砲の要領と聞いて、英霊式カタパルト飛翔法が頭を過りました
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