迷宮三銃士を連れてきたよ!
モモに頼まれて『神の残骸』探しをすることになったレンリ達。
一つ扱いを間違えれば大きな街が壊滅しかねない危険物ですが、食べさせるだけで迷宮達の覚醒が済むというメリットはまさに破格。数年から数十年もの時間短縮に繋がると思えば、多少のリスクを飲み込んででも手を出す価値はあるでしょう。
ですが、問題は肝心の『神の残骸』を探す方法です。
いくら凄いシロモノでも見つけるアテが全くないのでは絵に描いた餅。
『うふふ、もちろん考えてあるのです』
お利口なモモは、そのあたりもきちんと考えてあったようです。服の中に両手を突っ込んでゴソゴソとまさぐると、びっしりと文字が書かれた紙束を取り出してテーブルに広げました。
「モモ君、これは?」
『街の博物館に運び込まれた展示物の伝票とか取引記録とか、まあ大体そういうやつなのです』
モモが取り出した紙には、様々な物品の名前や日付や金額と思しき数字が細かく書き込まれていました。そう、以前に暴走した『神の残骸』が収蔵されていた博物館の記録です。
「へえ、こんなのどうやって手に入れたんだい。普通に正面から頼んでも見せてもらえないだろう?」
『そこはほら、夜中に忍び込んでチョイチョイと。あっ、モノをそのまま持ってきたんじゃなくて、その場で見て覚えてきたのをモモが別の紙に書き写しただけなので決して泥棒とかではないのですよ?』
『そ、そうかしら……?』
ヒナが妹の素行不良を心配していましたが、レンリとモモは意にも介さず話を進めています。まあ書類の現物ではなく写しだというのなら、少なくともモモが騎士団に補導される心配はないでしょうが。
『で、このページの……ああ、このあたりなのです』
「ふむふむ、書類上の名前は『何かの化石』……ずいぶんザックリしてるなぁ。横の数字は買取金額と取引の日時かい? あと隣の記号は、多分しまわれていた倉庫の棚番とかかな」
『こっちの紙には化石を売ったヒトの名前と発見場所も書いてあるのですよ。発見者と同一人物かまでは分からないですけど。お姉さん達には、そのあたりの聞き込みとかを中心にお願いしたいのです』
「なるほどね。その化石が本当にアレなら探す手がかりにはなるかもだけど……」
以前の事件の元となった化石はすでに消滅していますが、発見場所が細かく特定できれば近隣地域で二個目以降が見つけられるかもしれません。とはいえレンリも考古学は専門外ですし、どの程度有効なヒントなのかは計りかねています。実際に『神の残骸』の発見場所に赴いて現地で情報収集をしてみないことには、まだ何とも言えません。
それに問題は他にもあります。
「発見場所の村の名前までは私も知らないけど、このS国って結構遠いよ? あの辺りは鉄道も通ってないはずだし、馬車や船を乗り継いでも下手すれば二か月近くはかかるんじゃないかな。ちなみに片道でね」
レンリが言ったS国とは大陸南西部にある小国です。
国土の半分が砂漠で覆われている点以外には、これといった特徴もありません。
また周囲を峻険な山岳地帯に囲まれている上に土地の魔力も乏しく、霊脈から魔力を吸い上げて動力とする仕組みの鉄道は線路を引くこともできません。
今から数年前に大陸中央の有力国が共同で鉄道事業を立ち上げた時点で、件のS国以外にもどこの土地になら線路を引けるかという調査はあらかた済んでいるのです。土地の魔力が少ない国々に鉄道がやって来るためには、根本的な技術革新を待つ必要があるでしょう。
「そんなに時間がかかるとなると、正直ちょっと気乗りしないよね。モモ君には悪いけど」
それだけの移動時間がかかると、レンリならずとも気乗りしないのは当然。
そもそも発見場所に行けば必ず同じモノが見つかるという確証もないのです。もし空振りに終われば、現地での滞在時間も合わせて半年近くもの時間が徒労に終わるかもしれません。ですが。
『うふふ、それについては何とかできる助っ人がいるので心配ご無用なのです。まあ騙されたと思って明日迷宮の入口に集合して欲しいのですよ』
どうやら、モモには移動時間の問題を解決するアイデアがあるようです。
◆◆◆
翌朝。
一行は約束通り第四迷宮の入口前に集まりました。
そしてモモは予告通りに問題を何とかできる助っ人を紹介しました。
レンリ達はてっきり、モモが魔王の一家に頭を下げて転移魔法でも使ってもらうのかと思っていたのですが、どうやら予想は外れたようです。
『迷宮三銃士を連れてきたのです!』
「迷宮三銃士?」
胡散臭い肩書きに対し、レンリ達は怪訝そうな顔で返します。
『変身の専門家、ウルお姉ちゃんなのです』
『ふっふっふ、よろしくなの!』
まず一人目。
ウルが元気良く手を挙げて挨拶をしました。
『液体の専門家、ヒナなのです』
『え、えっ? 我、何も聞いてないんだけど……あと、今の紹介何かおかしくなかった!?』
そして二人目。
何も聞かされていなかったヒナが戸惑っていました。
『金物の専門家、ゴゴお姉ちゃん……は、ちょっと都合が悪いとかでキャンセルなのです』
「ああ、最近なんだかゴゴ君付き合いが悪いんだよね。理由も教えてくれないし……ていうか、それだと二人しかいなくない?」
『そこはお昼寝の専門家のモモが数合わせで入るので問題ないのです』
「問題ない、かなぁ?」
というわけで、参加メンバーは以下の通り。
人間はレンリ、ルグ、ルカの三名。
迷宮はウル、ヒナ、モモの三名。
かくして計六名からなる発掘隊が結成されたのでありました。
ラーメン三銃士を連れてきたよ!




