続・モモのお願い
楽をするための苦労は厭わない。
世の中にはそういう条件付きの働き者がいますが、モモもその類の迷宮なのでしょう。
「で、モモ君や。協力するのはいいけど、その方法に心当たりはあるのかい?」
けれど、言うは易く行うは難し。
モモ達の覚醒を助けるとは言っても、具体的に何をどう助けるのかが分からないのではお話になりません。レンリの疑問も尤もです。
現時点までで覚醒済みの迷宮は三体。
第一迷宮ウル。
第三迷宮ヒナ。
第五迷宮ネム。
奇しくも奇数の迷宮ばかりという点は、まあ単なる偶然でしょうが。
覚醒して神の“なりかけ”と化した結果、彼女達は迷宮の外でも自身の迷宮内と同じくらいの力を発揮できるようになり、また各種能力も桁違いに向上しました。これでも未だ成長の途上であり、まだまだ計り知れない伸びしろを残しているというのだから末恐ろしいものがあります。
モモがその仲間に加われば全七体の迷宮のうち四体が覚醒したことになり、全体の折り返しを過ぎることになるわけで。まあ六番目と七番目に関してはそもそもレンリ達との面識すらありませんし楽観は禁物ですが、それでも計画全体のゴールに少なからず近付くことにはなるはずです。
さて、その肝心の方法ですが。
『うふふ、もちろん考えてあるのです』
迷宮を覚醒させる方法はいくつか存在します。
現時点までに判明しているだけで三種、いえ四種類。
一つは、命の危機に陥るなどした大勢の人々から救いを求められるなどして、強力な祈りの力を一気に集める方法。どうやら信仰のエネルギーというのは人々の真剣さなどメンタル面に大きな影響を受ける性質があるらしく、分かりやすく言い換えれば命に関わるような危機的状況ほど上質なエネルギーを大量に得ることができるのです。
ちなみにヒナが覚醒したのがこの方法でした。
決して狙ってやったわけではありませんし、狙ってやるわけにもいきませんが。
二つめは、前述の方法を偶発的な事件や事故ではなく強引に引き起こす方法です。
ネムの『復元』能力によって街の人々が、それまでの人生の中で最も強く感じた幸福感や敬虔な気持ちを強烈に引き出され、一種の集団トランス状態を引き起こすことで信仰のエネルギーを得る形になります。この方法のメリットは人々を危機に晒すリスクなしに、覚醒に至れる点ですが……。
『一番手っ取り早いのはネムに頼んで街の人達から強引に信仰パワーをかき集める方法なのですけど……まあ、これは却下で』
「……ああ、うん。だよね」
この方法は要するに洗脳です。
ネムに協力してもらうこと自体は容易くとも、その制御ができるかは全くの未知数。そのネムは現在この場にいるモモとは別のモモが常時見守っているはずですが、ちょっとでも目を離したら何をするか分かりません。少し前にシモンやライムの怪我の治療をした際にも、すぐ近くにいるモモが細心の注意を払っていました。
なにしろ覚醒後のネムの能力が、どれほどの範囲と強力さで作用するかも分かっていないのです。常に可逆性があるのかすら不明です。悪意や害意の類は一切ないのですが、善意百パーセントのまま悪気なく世界中の人々の精神を弄って世界平和を実現させかねません。
『いくらモモでも、自分の望みと引き換えに世界中の人達が頭ぱっぱらぱーになるのは気が引けるのです』
というわけで、この方法も却下。
あと残りの方法はというと、神造迷宮本来の機能で何十年もの長い時間をかけて必要なエネルギーを地道に集める手段もありますが、モモはそんな悠長なことをしたくないからこそ、こうしてレンリ達に協力を頼んでいるのです。
そこで今回採用する方法は残りの一つ。
これもまた一筋縄ではいかない難題ではありますが。
『たしか、皆さんは“神の残骸”とか呼んでたのです?』
ヒナが覚醒した際に学都の街を襲った存在。
その正体は遥かな古代に失われた女神の肉体の破片が地中に埋もれて化石と化し、しかし完全に死に切ることもないまま動き出した超存在。それが『神の残骸』でした。
『パワーアップ以外に純粋な好奇心もありますし。ウルお姉ちゃんによると、それがもう滅茶苦茶美味しかったらしいのです』
そんな超存在にまさかの方法で抵抗し、捕食されるどころか逆に神の力を取り込んでしまった迷宮が一人いました。そんな覚醒方法は彼女達の創造主である女神も想定していなかったはずですが、実際できてしまったのだから仕方ありません。
『流石はウルお姉ちゃん。心底半端ねーのです』
その後しばらく経ちますがウルが食あたりを起こす様子もありませんし、想定外の方法とはいえ覚醒自体は問題なく完了したと見ていいでしょう。
その時の『神の残骸』はすでに消滅していますが、別のモノさえ用意できればお手軽な覚醒手段として応用できる可能性はたしかにあります。既に覚醒済みの迷宮に対してのパワーアップにも利用できるかもしれません。
前回は街のすぐ近くで動き出したせいで大事件になってしまいましたが、実際食べる時は人里から離れた場所に行くとか、暴れ出しても抑え込める力のある覚醒迷宮に守ってもらうなどすれば、部外者に迷惑がかかるリスクも軽減できるはずです。というわけで。
『というわけで、皆さんには迷宮の外でそれを探して欲しいのです』
以上、モモからのお願いでありました。




