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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十一章『迷宮大紀行』

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モモのお願い


『ぶっちゃけ、試練とかどうでもよくないです?』


 モモは言いました。

 言いやがりました。



『そもそも人様を上から目線で試すとか何様って感じじゃないです? それくらいなら、モモ的にはもう全員無条件に合格でもいいんじゃないかって思うのですよ。ほら、皆で手を繋いで全員仲良く一等賞みたいな? いいじゃないですか、イマドキっぽく生温くて。あと、いちいち興味ない人達の様子を見て評価するのも面倒ですし』



 迷宮にあるまじき発言がぽんぽんと出てきます。

 この言葉の切れ味、間違いなく彼女の本音ではあるのでしょうが。



「なんというか、モモ君は正直者だね」


『はいはい、それはもう。特に自分に対しての正直さにかけては、モモの右に出る者はあんまりいないと思うのですよ』



 この突然の本音トークにはレンリ達も反応に困ってしまいます。

 呆れればいいのか、怒ればいいのか、一周回って感心すればいいのか。

 あるいは楽ができそうでラッキーと喜ぶべきなのか。

 同じ迷宮であるヒナだけは、やや怒り側の反応に傾いていましたが。



『ちょっと、モモ。貴女ね……』


『ふっ、もう何も教えることはないのです。これからはモモの分もひーちゃん達が頑張るのですよ……がくり』


『こら、真面目に聞きなさいよ!』



 不真面目な態度をヒナに叱られても、どこ吹く風。

 がくがくと肩を掴んで揺さぶられても気にする素振りもありません。

 


「どうどう、落ち着きたまえよヒナ君。それでモモ君。いきなりそんな不満を話したってことは、それが『取引』の内容に関係があるって理解で合ってるかな?」


『ええ、まあ。お姉さんなら、もう当たりがついてるんじゃないですか?』


「うーん、どうだろ? 明確な根拠はないし、半分、いや七割までは勘だけど」



 一方、レンリはモモの真意に薄々勘付いているようです。

 まだ確信と言えるほどの自信はないようですが、しかし。



「多分だけどさ……キミ、迷宮を辞めたいんじゃないかな?」


『うふふ、よくできました。花丸をあげるのです』



 見事、正解。


 迷宮であることを辞めたい迷宮。

 どうやら、この問題児も一筋縄ではいかないようです。






 ◆◆◆






『ちょ、ちょっと早まっちゃダメよ、モモ!? ど、どうしよう、この子がそこまで思い詰めてたなんて……我が怒り過ぎたのが原因だったりしたら……』


『まあまあ、落ち着くのですよ、ひーちゃん。別に自殺願望とかそういうのでは全然ないので。そもそも、モモ達ちょっとやそっとじゃ死ねませんし?』


『……あ、それもそうね』



 モモの望みを聞いたヒナが大いに取り乱していましたが、別にモモは死にたいわけではありません。ただ、迷宮であることを辞めたいだけ……とはいえ。



『ていうか、迷宮って辞められるのかしら? 我、知らないんだけど』


『うーん、たぶん辞表は受け付けていないと思うのです。まあ、まだ女神様あるじさまには聞いてませんからワンチャンいけるか試すのはアリかもですけど。考えてみれば生まれてからずっと無給で迷宮やってるわけですし、いっそ未払い賃金と退職金をもぎ取れないか交渉しゴネてみるのもありですかね? こう、児童労働の闇とかの方面から突いてみる感じで』


『そんなカジュアルに神様にプレッシャーかけようとするんじゃないわよ。泣くわよ、女神様あるじさまが』



 まあ流石に普通の仕事のように辞めることはできません。

 彼女達にとって迷宮とは単なる仕事ではなく自分自身に他ならないのです。


 たとえば仮に人間であることを辞めたい(止めたい)人間がいたとしても、そもそも普通は辞める方法などありません。怪しげな禁呪によって理性のないゾンビになるとか、手術や魔法で魔物の体組織を強引に移植するとか、考えられるとしても精々がその程度。当然、モモの言う『辞める』とは、そんな浅い意味ではありません。


 さて、ならばどうすれば辞められるというのでしょうか?

 ここで、何やら閃いた風のレンリがポンと掌を打って勢いよく立ち上がりました。



「なるほど! アレがソレだから、つまり、そういうことなのかい?」


『そうそう、その通り。要するに、そういうコレなのですよ!』


『いや、アレとかコレとか全然分かんないから! 要するならちゃんと要約しなさいよ!』


「ふふふ、安心したまえ! だって私達も分かってないし。今のはヒナ君をからかって遊ぶためだけの意味のない会話だからね」


『うふふ、ひーちゃんはいつも可愛いのです』


『こ、この二人っ!?』



 と、そんなレンリとモモの茶番はさておくとして。

 ここでようやく『取引』の話にも繋がってくるわけですが。



「そもそもの話、神造迷宮ってキミ達を育てて新しい神様を造るための場所なんだろう? だったら、完成して役目を終えた後は、現在の迷宮としての機能はもう用済み……って言い方は悪いかもだけど」


『少なくとも、いちいち面倒臭い試練だのなんだのやる必要はなくなると思うのです。まあ、それでも迷宮を続けたい子は自由にやればいいですけど』



 全ての迷宮が女神の計画通りに新たな神々へと成長した、その後。

 そこに至れば、最早迷宮としての機能は不要のはず。現状では少なからず憶測で語らざるを得ない部分もあるにせよ、一応の筋道は通っているように思えます。


 全ての迷宮が神様になれば、迷宮関連の役目については大手を振って円満退職できる……かもしれません。つまりモモの頼みとは、彼女をはじめとした迷宮達の成長を助けること。違う言い方をするならば……。



『モモを……大人にして欲しいのです』


『こら、言い方っ!』



 迷宮内にヒナの鋭いツッコミが響き渡りました。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 迷宮の守護者がニートになった とりあえず怠け根性からなんとかしないと(-_-;) [気になる点] 女神さんがレンリにほっぺたうにょーんされる [一言] 更新お疲れ様さまです。 モモちゃん…
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