一方その頃、学都では
お待たせしました、十一章スタートです。
時系列的には十・五章と同時期の話になります。
じりじりと肌が焼けるような夏の午後。
より具体的には、シモンとライムが国王の悪戯心で首都へと連れて行かれた日の午後。レンリとルカとルグ、いつもの三人組は街の中心近くにある馴染みの喫茶店に集まっていました。
「だから大丈夫だって。ルカ君が心配してるようなことにはならないさ」
「そ、そうかな……?」
今の話題は、つい二時間ほど前に連れて行かれたシモン達について。
当の本人達もちょうど迎えの馬車の中で心配していましたが、それはルカ達にしても同じです。流石に立場も考えず勢いで婚約を決めたのは不味かったのではないか……と、彼らが連れて行かれたと知った者は心配していました。
まあ、しかし。
「二人が発ってから、こっちに残った近衛の人達がすぐにネタバラシしてただろう? 街の人が心配しないようにって、わざわざ騎士団の建物前に人を集めて何度も繰り返し言ってたくらいだし。たぶん本当に王様の茶目っ気だと思うよ」
レンリの言う通り、件の事態はシモン達を驚かせるためのドッキリだったと、当事者の二人が知るよりも一足早くすでにネタバラシがされているのです。仕掛け人側の首謀者である国王にしても、無関係の人間に無用の心配をさせるのは本意ではないのでしょう。それでも根が心配性のルカはまだ不安がっていましたが。
「俺もレンに賛成かな。それに」
「そ、それに……?」
「この国の首都なんだからそりゃ強い人も沢山いるんだろうけど、今のあの二人をどうこう出来る奴がそこらにいると思うか?」
「うーん……まあ、いない……かな?」
「そうそう、ルー君の言う通り。最悪、あの二人なら腕っぷしでどうにかするさ」
腕力は全てを解決してくれる。
と、それは流石に言い過ぎだとしても大体の問題は解決してくれる。
その蛮族めいた価値観に共感できるかというと、正直なところレンリ達にはさっぱり理解できないのですが、まあ、それはそれとして。
つい先日の、やたらと破壊規模の大きい愛情コミュニケーションを見せつけられた後だと、あの二人なら何があっても大丈夫だろうと思えてきます。
今のシモンとライムを害するには最低でも大隊規模の軍事力を大量展開する必要があるでしょう。もし先程の発表がシモンの支持者を油断させるための嘘っぱちで、本当はシモン達に罰を与えるために首都まで呼び寄せたのだとしても、ルカが心配すべきは二頭の怪物の相手をさせられる首都近辺の軍隊のほうでしょう。
「なんだか……全然、大丈夫な気が、してきた……かも」
レンリに続けてルグからも同じように言われたことで、ようやくルカの不安も解消されたようです。もっとも読者諸氏におかれましては既にご存知の通り、そんな心配自体がそもそもまったくの杞憂でしかなかったのですが。ともあれ、これで話題も一段落。
「さて、それじゃあ二人にちょっと仕事をお願いしようかな?」
そうして元の話題が終わったタイミングで。
グラスに残っていたレモネードを一息に飲み干したレンリが勢いよく立ち上がりました。
「仕事か。久々に迷宮でも行くのか? それなら一度帰って準備してくるけど」
「いやいや、それには及ばないさ。ちょっと実家に郵便を送りたいんだけど、それが結構重くてね。か弱い私に代わって荷運びをお願いしようかな、と」
仮にも冒険者に頼む仕事ではないような気がしますが、それに関しては今更です。もうルグとルカが冒険者になって一年以上が経ちますが、雇用主であるレンリが彼らに振る仕事はというとヒマな時のお喋り相手や買い物代行、今回のような荷物運びも珍しいことではありません。
「えへへ……荷物運び、得意……」
「最近は全然迷宮に行ってないから勘が鈍りそうだな……まあ、ルカが嬉しそうだから良いけど」
そうして喫茶店の勘定を済ませた三人はレンリの居候先へ向かいました。勝手知ったる他人の家とばかりに、ルグとルカはレンリの私室として使われている二階の客間へと向かったのですけれど。
「……なあ。これ、ルカがいなかったらどうしてたんだ?」
「だから言ったろう? 結構重いって」
そこで彼らが見たのは厳重に梱包された荷物の山、山、山!
床が抜けていないのが不思議なほどの大量の荷物……は、まだ良いとしてもそれ以外が大問題。床一面に散らばった紙屑やお菓子の空箱、脱ぎ散らかした服や下着で足の踏み場もないほどに散らかった、どこに出しても恥ずかしい完全なるゴミ屋敷と化したレンリの部屋でした。




