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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十・五章『シモンとライム』

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秘儀、百煉殺暗黒地獄行ッ!


 ライムの実家前での騒ぎを聞きつけて集まってきた暇人(エルフ)達。やがて集団の中から前に出てきたエルフ村の長老が、困惑するシモンに向けてこんな心温まる言葉を伝えました。



「ヒト族の若者よ! 我が部族の娘を娶りたくば、古来よりの掟に従い『百煉殺(ハンドレッド)暗黒地獄行(ヘルウォーク)』の試練を乗り越え己が覚悟を示すが良い!」


「は、はい……? まあ、やれと言うならやりますが」



 当然シモンには何のことか分かりません。

 というか、周囲の野次馬エルフ達も半分以上は不思議そうに首を傾げていました。



「ぬうっ、『百煉殺暗黒地獄行』ッ!」


「なに、知っているのか!?」


「うむ、まさかこの目で見ることになろうとは……」



 どうやら村の中でも比較的年配のエルフ達は、長老が口にした奇怪な言葉の意味を知っているようです。聞き覚えのない言葉に首を傾げていたエルフの若者が、事情を知っていそうな顔見知りに質問をしました。


 ◆


 曰く、百煉殺暗黒地獄行とはッ!

 村の者でもごく一部しか知らない隠し谷の秘闘技場にて行われる幻の荒行である。

 一説によると、その歴史は五千年とも一万年とも言われている。


 この試練に挑む者は谷底に打ち立てられた円柱状の足場を素早く移動しながら、熟練の術者が召喚した飛竜や不死鳥などの空を飛ぶ魔獣を連続して百体打倒することが求められる。だが谷の上からは間断なく弓や魔法で狙われるため、目の前の敵だけに気を取られてはたちまち真っ逆さまとなるであろうッ!


 一本一本の足場は人の腕ほどの太さしかなく、その上滑りを良くするための油が塗られている。一歩でも足を踏み外せば周囲に敷き詰められた針山地獄に落下するが必定。これを攻略するには一瞬たりとも揺らがぬ強靭な精神力と正確無比なるバランスコントロールが必須である。しかも修行者は魔獣を一体倒すごとに10kgずつ重さを増す呪いの(リング)を両手足に装着しなければならないッ!


 そのあまりの過酷さゆえに挑戦する者も絶えて久しく、現在では一部の古老の間に口伝として密かに伝えられるのみである。だが、もしこの試練を乗り越える者が現れたのなら種族の壁を越えた勇士として認められ、永久にその名を称えられるであろうッ!


 ◆


 故に、異種族の者がこの村の関係者との婚姻を望んだ際にはこの試練に挑む掟があるのだと、事情を知っていた側の野次馬エルフは若い村人達に説明しました。



「えぇ……うちの村、そんな頭おかしめの奇習とかあったの?」


「オレ、初耳なんだけど。てか、やけに『ッ!』が多くてテンションおかしいし」


「うん。何それ引くわー……」



 説明を聞いた側のエルフ達は、まあ当然ながら引いていました。ドン引きです。

 なにしろ今日まで平和だけが取り柄だと思っていた自分の村が、どう考えても頭おかしい系のバイオレンスな因習を密かに受け継いでいたというのです。

 今の気持ちを例えるなら、普段から近所付き合いをしていた善良な隣人が実は猟奇趣味のシリアルキラーだと気付いてしまったかの如し。この時点で遠方への引っ越しを真剣に検討しても無理はありません。



「……ってか、アレ? たしか三百年くらい前にハトコの姉ちゃんがヒト族の旦那を連れてきた時にはそんなことしてなかったぞ?」


「そういや、他にもエルフ以外と結婚した奴いたよな? そん時にそんなヘンテコな儀式みたいのやってたか?」



 が、今の説明を周りで聞いていた知らない側のエルフ達も違和感に気付きました。

 実は先程の説明には裏があったのです。何千年という村の歴史においては、これまでライム以外にもエルフ以外と結婚しようとした者はいました。何百年かに一件程度の稀な割合ではありますが異種婚の前例がないわけではないのです。



「わはは、実は話はまだ半分でな。今言ったのは何というか、表向きの設定だ」


「せ、設定?」


「ああ、こっからはヒト族の兄ちゃんに聞こえないよう小声でな」



 そして、ここからが種明かし。

 シモンやライムに聞こえないよう声を潜めて、掟の真相が明かされました。



「要は、掟ってのは可愛い娘を嫁にやりたくない馬鹿親父が、相手の男に無理難題を吹っ掛けて諦めさせるための方便でな」



 可愛い娘を余所の男に取られたくない父親が、相手の男にイチャモンをつけて諦めさせるために絶対にクリアできない無理難題を吹っ掛けているだけ、というのが試練の真相でした。

 何千年か前の色々な意味で困ったエルフが考案したソレが、何かの間違いで代々受け継がれてしまったのでしょう。実際に行われるかは、その時々の村関係者の気分次第ではありますが。試練とはあくまで表向きの名目。そもそも最初からクリアさせる気などないのです。



「言っとくと、針山地獄の針とかは柔らかい土塊を魔法で見た目だけそれっぽく整えたやつだから落ちても別に死にはしないぞ。召喚獣とか重くなる腕輪とかは一応本物だけどな。今頃、悪ノリした爺さん連中が近くの谷んトコに急いで仕掛けを作ってるんじゃないか?」


「ま、そりゃそうか。村の近くにそんな危ないモンあったら嫌でも気付くわな」


 

 大半の村人が把握してなかった危険な仕掛けのある隠し谷が、実はすぐ近所にあったなどということもありません。長年これといった使いどころもないまま、なんとなく習慣で修業を続けて無駄に魔法の腕前を上げてきた不良老人達が、今頃大急ぎで外見(ガワ)だけ整えた試練場を作っているはずです。



「まあライムちゃんの親父さんじゃなくて長老が言い出したのは、単に若いのをからかって暇潰しがしたいだけだろうが」


「あのジジイ、マジでイイ性格してんな」


「ああ、そこまで大人気のない真似をする奴が本当にいるとはなぁ」



 事情を知って納得したエルフ達は、もうすっかり呆れ果てています。

 ちょうど眼前では厳めしい表情を作った長老が、ライムの家族そっちのけでシモンを連れて行こうとしていますが、きっと内心では大笑いしているのでしょう。


 若いエルフ達は、いざとなればシモンやライムにネタバラシをして助け舟を出してやろうと思いつつ、ぞろぞろと長老達の後を付いていくのでした。






 ◆◆◆





 なお、シモンは試練の真の意味とかには気付かず普通に全部クリアしました。



◆今回ほとんどモブしか喋ってないし、そもそも今回の話を丸ごと読み飛ばしてもストーリーの理解に何も支障がなさそうだけど、書いててすごく楽しかったから私的にはオーケーです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ライムパパが民明書房刊なノリ(笑) [気になる点] これで当分はライムに口を聞いてもらえなくなるか タイムの笑いのタネになるかですね [一言] 更新お疲れさまです ライムぱぱへ シモンは強…
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