エルフ達の村
翌日、昼過ぎ。
エルフの村にて。
「本日はお日柄も良く……いや、これでは少し硬すぎるか?」
「気にしすぎ」
昼食を済ませて迷宮都市からやってきたシモンとライム。本来であれば旅慣れた人の足で二週間くらいの距離があるのですが、転移の魔法装置を用いれば一瞬です。
さほど広い村でもありません。
ライムの実家までは目と鼻の先なのですが。
「俺の服装、よく見たらちょっと色が派手じゃないか? やはり、今から一度戻って着替えてきたほうが……」
「平気」
「そ、そうか?」
先程からシモンがあれこれと気にして一向に歩みが進みません。
今からライムの両親に挨拶するということで緊張が隠せないようです。
服装のセンスが派手で遊んでいるように見られないか、とか。
手土産に持ってきたお菓子が好みに合わなかったらどうしよう、とか。
ライムから見ればまるで問題なさそうな些細な点を気にしてばかりです。
「シモン。早く来て」
「いや、しかしだな……」
「来て」
「う、うむ」
いい加減、村道を行き交うエルフ達からの視線も痛くなってきました。
ライムと顔見知りの村人達だからこそ不審者扱いは免れていますが、このままシモンの歩調に合わせていたら悪目立ちして余計な恥を掻きかねません。なので。
「シモン。そこに立って」
「はて? どうかし……ぬわっ!?」
「これでよし」
なので、ライムはおもむろにシモンを持ち上げると、いわゆるお姫様だっこの体勢で彼を運搬することにしました。余計に面白い見た目になっていますが、とりあえず進みの遅さはこれで解決です。
「ちょっ、ま、待て!? 分かった、ちゃんと歩くから! 俺が悪かった、頼むから下ろしてくれ!」
「駄目」
あまりの恥ずかしさにシモンが身悶えしていますが、無理矢理抜け出そうとして服が汚れたり破れたりしては最悪です。抵抗らしい抵抗もできず、されるがままに運ばれることしかできません。
そうして歩くこと数分。
二人はとうとうライムの実家前へと辿り着きました。
ようやく下ろしてもらえたシモンは恥ずかしさのあまり両手で顔を覆っていますが、まあ、その点にさえ目を瞑れば何の問題もありません。
ちなみに、道中ライムが顔見知りの村人数人に尋ねたところ、今日はまだ彼女の両親を見ていないとのことでした。畑での農作業や森での狩りに出ていないなら、十中八九、家にいるはずです。この期に及んで空振りということはないでしょう。
「ただいま」
「お、お邪魔する……!」
思った通り、戸口から声をかけるとすぐ二人分の足音が聞こえてきました。
「はーい、今出まーす! って、あら、ライムお帰りなさい。それに、あらあら、ええと確かライムのお友達で王子様の、シモンくんだったかしら? まあまあ、しばらく見ないうちに格好良くなっちゃって!」
「む。入れ……」
お喋りな母と、ライム以上に寡黙な父。
この二人が出てくることは予想の範疇ではあったのです、が。
ライムもシモンも、まさか二日連続でこんな驚きを味わうことになるとは夢にも思っていませんでした。それというのも。
「……お腹?」
「ああ、これね? ライムの弟か妹」
ライムの母のお腹は、一目でそれと分かるくらい大きくなっていたのです。
次女であるライムとは二十歳差の弟妹ということになりますが、姉のタイムと二百歳以上離れていることを考えれば二十年くらい誤差みたいなものでしょう。エルフは若い時期が長い種族でありますし、そういうことがあっても不思議ではありません。
不思議ではありません。
が、それはそれとして。
「それは実にめでたい。俺からもお祝い申し上げる……が、失敬。訪ねてきて早々に申し訳ないのだが、一言だけ、一言だけ先に言わせて頂きたい」
先程までの緊張もどこへやら。
相手方への印象云々もひとまずは脇に置いておき。
シモンは、すぅ、と息を大きく吸うとその場で天を仰ぎ、
「……天丼か!?」
己が運命に対して思わずツッコまずにはいられませんでした。




