戦闘開始
「起源」とは、すなわちやる気の源である。
しばらく考えた末、ルグはそのように解釈していました。
やる気を情熱や熱意と言い換えてもいいかもしれませんが、まあ大体そんな感じの何か。
そして、ルグにとってのソレは、改めて考えるまでもなく既に明らかでした。
勇者。
幼い日に命を助けられたその人物への憧れ。
実際に会って話したのはほんの一日足らずの短い間でしたが、その日のことは十年以上が経っても鮮明に記憶しています。その思い出が今現在のルグを形作っているのは間違いありません。
とはいえ、それだけではこれまでと変わりません。
ここ最近になって、改めて自問した結果、自分自身についての新たな気付きが出てきました。
すなわち、具体的に勇者のどのような部分に憧れているのか?
強さ。
容姿。
人格。
自分も同じように強くなりたいのか?
異界からの来訪者に対する好奇心?
あるいは、理想的な異性に対する慕情?
それとも、一人の人間としての尊敬か?
どれも間違いではありませんが、さりとて完全に正確とも言い難い。
ルグ自身にもその感情の正確な正体は分かりませんでしたが、それでも一つだけ、確信を持って言えることがありました。
◆◆◆
「俺はあの人にはなれない」
愛用の角剣と試作聖剣を両手に持ったルグは、半身になって構えました。
「それに自分でもちょっと勘違いしてたんだけど、勇者そのものになりたいかって考えたら……なんか、違う気がするんだよな。本当に、なんとなくなんだけど」
草の狼、ウルとの間合いをジリジリと詰め、攻撃のタイミングを図ります。
「まあ、まだ自分でもはっきりしないんだけど……とりあえず、困ってる奴がいたら迷わず助けられるくらいには強くなっておきたいからさ。だから」
だから。
憧れている勇者そのものではなく、自分の中の漠然とした理想に近付く為に。
強くなる為に。
「ここは勝っておかないと……なっ!」
そして、勝つ為に。
渾身の気迫を込めて、手にした剣による初撃を放ちました。
◆◆◆
両手に剣を構えてはいましたが、ルグに二刀流の心得はありません。
元より剣術自体が独学の自己流。
無理に二本の剣を使おうとすれば、かえって動きを損ねる結果になるでしょう。
だから、
「当たった!」
二本の剣の一本。
試作聖剣のほうを投げ付け、飛び道具として用いることにしたのです。
「ほう、投剣か! 考えたね、ルー君」
何しろ、今投げたタイプの新型聖剣は、斬れ味そのものは名剣と呼ぶに相応しいものの、僅かにでも刃筋が狂えば途端に折れ曲がってしまうというジャジャ馬です。
そこから直るのが売りとはいえ、実戦でまともに使えるとも思えません。なにしろ、今のルグの腕では、動かない立ち木を相手にしてもすぐに曲げてしまうのです。
ですが、ものは考えよう。
例えば、敵の身体の一部に首尾よく剣が刺さったとして、その状態で曲がってしまえば途端に引き抜くのは難しくなります。
『…………』
今回の相手は蔓草や葉っぱなどの集合体なので、通常の生物のようなダメージがあるかは不明ですが、それでも胴部を貫通した剣先がそのまま反対側の地面に刺さり、ウルを縫いとめるような形になりました。
刀身が刺さった勢いで何箇所も曲がったせいで、簡単には抜けそうにありません。
以前の戦いで見せたような身体を一時的に分解しての移動術や凄まじい膂力を発揮すれば話は別ですが、その手の能力を使用する気配はありません。
投剣による攻撃を避けずに喰らった点といい、明らかにライムがいた前回よりも動きが鈍っています。
ルグ達を相手に加減をしているというよりは、現在の実力が自動的に引き下げられているのでしょう。
『…………』
それでも、自身を構成する蔦を無理矢理引き千切りながら脱出を試みるウルでしたが、その数秒の隙を見逃す手はありません。
まず、ルグが角剣による斬撃を狼の頭部(のように見える草の塊)に一発。
更には、それに続いて……、
「ルグ君……離れ、て……っ!」
投石杖を用いたルカの援護攻撃により、ウルの身体が一瞬にして爆散しました。