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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十・五章『シモンとライム』

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違和感とシモンの覚悟


 学都からG国首都までの道中に感じていた、ちぐはぐ感。

 奇妙な違和感は王城の敷地内に入ると一際強くなりました。


 現在シモン達がいるのは謁見の間の手前にある小部屋(と言ってもちょっとした屋敷の広間くらいのスペースはあるのですが)。まあ、謁見のための待合室のようなものです。

 馬車を降りてからここまで案内した近衛騎士からは、王の支度が整うまでこの部屋で待つように言われています。室内にはシモンとライムだけで他には誰も見当たりません。



「今日はやけに城の者が少なかったな」


「そう?」



 ライムには普段の王城の様子など分からないので実感を得にくいところではありますが、この城が実家であるシモンからしたら一目瞭然の静けさでした。


 大陸でも有数の大国であるG国首都。

 その王城ともなれば単に王族の住処という一言では表せません。

 朝から晩まで常に誰かしら忙しく働いているのが当たり前。貴族から平民まで、人の出入りも膨大な数になります。


 大量の食材が日々運び込まれては片っ端から調理されていく調理場などは大勢の民で賑わう市場さながらの活気に満ち、近衛兵団が訓練を行う練兵場からは武具を打ち合う金属音が絶え間なく響き渡る。

 無論、どこもかしこも常に五月蠅いわけではなく、王族の居室が集中する区画など静かで落ち着ける環境もそれなりにあるのですが……今日はまるで城全体がそのように静まり返っていました。


 もちろん、誰一人見かけないというわけではありません。

 城全体が完全にもぬけの殻になっているような異常事態が発生していたら、シモン達とてこうも落ち着いて話してはいられなかったでしょう。

 城の各所を守る警備兵は(数がやや少ないようには感じたものの)、普段と同じように職務に励んでいましたし、何かしらの書類を抱えて廊下を歩く文官の姿も遠目に見受けられました。


 しかし、それでもやはり人の数が少なすぎる。

 そして城があまりに静かすぎるのです、が。



「でも、いた」


「ああ、いたな」



 このやりとりはライム達以外には意味が通りにくいかもしれません。

 たしかに人の姿はあまり見かけなかったけれど、城内を歩くシモン達からは直接見えない部屋や廊下など、視覚的な死角となる場所には少なくない数の人々がいたようなのです。二人の鋭敏な感覚はそうした気配を捉えていました。しかし、それはつまり……。



「シモン。避けられてる?」


「ううむ。あまり考えたくはなかったが」



 偶然、彼らの進路上から人が離れただけということはないでしょう。

 つまり、何らかの明確な意図があってシモンを避けている。それも恐らくは個々の意思ではなく何者かの命令によってそうしている。少なくない数の貴族を含む城の人々にそうした命令を下せる人間などそうはいません。



「陛下が俺を避けるように仕向けているのか? そんなに怒りを買うような真似をした覚えは……うむ、あるな。すごく心当たりがある。ううむ、ちょっと軽く考え過ぎていたかもしれん」


「お兄さん。怒ってる?」


「かもしれん。最悪、勘当くらいは覚悟しておくか……」



 少々悲観的な想像をして暗い気分になってしまいました。

 王族の身でありながら勝手に婚約者を決めて事後報告の形で手紙を寄越すなど、まあ控えめに見ても大問題です。実際に勘当までいくかはさておき、何かしらの処罰を受けても不思議ではありません。



「シモン」


「どうした?」


「……私のせい?」


「いや、それは違うぞ!」



 もし婚約のせいでシモンと家族の仲が取返しのつかぬほど悪くなるようなら、ライムとしてはどうしても責任を感じざるを得ません。ですが。



「お前のせいであるものか! 俺が、俺の意思でお前を愛すると誓ったのだ! その結果、たとえ何が起ころうと後悔など微塵もない」


「う、うん。ありがと……シモン」


 

 彼女の言葉をシモンは迷わず否定しました。

 あまりにストレートな愛の言葉にライムは思わず頬を赤らめ、そして間近で見つめ合った二人は徐々に顔を近付け……ようとする前に。







「よくぞ言った、シモン! 流石は余の弟よ!」


「え、あ、兄上!? それに」 



 突然、部屋の扉が勢いよく開かれて、この国の王様が入ってきました。

 しかも、その後ろから次々となだれ込むような勢いで入ってきたのは、



「うふふ、お聞きになりましたかお母様方?」


「もちろん聞いたわ。シモンがあんな情熱的なことを言うなんて」


「あらあら、あの子がお相手ね。なんて可愛らしいお嬢さんかしら!」


「ちょっと前までこーんな小さかったシモンがなぁ! いや、大したものだ」



 扉からどんどんと入ってきたのはシモンの母親達や兄姉達。

 更にそれで終わらず叔父や叔母、甥、姪などの親戚達。

 オマケにその後ろには、国の要職に就く大臣達。

 流石に一緒に部屋になだれ込みこそしていませんが、文官や武官、侍従、料理人、学者など、城中の人々が更にその後ろを囲むように押し寄せているようです。



「シ、シモン?」


「いや、俺にも分からん! 何も分からん!」



 シモンもライムも、この状況には驚きを隠せません。

 少なくとも悪意の類は感じませんが、さっぱり状況が掴めません。



「あ、兄上! 陛下、これは一体?」


「うむ。余の考えた段取りとは少し違ったが、ま、あれだ。いわゆる、ドッキリというやつだな。ふははは、どうだ驚いたか?」



◆シモンの父である前王には四人の妻がいて、シモンは二十人兄弟の末っ子です。彼が生まれる前には後継者争いなどで家族仲がギスギスした時期もありましたが、シモンが生まれた時点でその手の話にはほぼ決着がついていたのと末っ子の彼が王位争いに関係する可能性はほとんどなかったため、余計なしがらみを抜きにして全ての母親達や兄姉達から可愛がられていました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] つまりG国は一夫多妻国家だった シモンも何時か第2婦人とか貰えるかも? [気になる点] 一番の問題はシモンの寿命(--;) 人間を辞めればネロ先生くらいになれる筈 [一言] 更新おつかれ…
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