シモンは言いました。
シモンは言いました。
「好きだ」
はっきりと力強く言いました。
聞き間違いなどする余地もありません。
「ライム、好きだぞ。これでいいか?」
「ん……ううん。まだ」
更に、重ねてもう一度。
ですが、ライムはまだ物足りなそうにしています。
それに加えて近くで聞いていた人々のうちの一部、レンリのような疑い深い人間は「どうせまた本心とは別のことを思わせぶりに言っているだけなのでは」と、言葉の意図を断定しかねている様子。
とはいえ、それが理不尽とも言い難い。
なにしろ、思わせぶりな言葉を口にしては徒にライムや周囲の気持ちを振り回す天然ムーブに関して、シモンには前科が多々あります。発言に対し、誤解や別の解釈をする余地がないかなど、見る目が厳しくなるのもやむ無しといったところでしょう。
「ううむ、あまり口下手という自覚はなかったが……反省だ」
そうした心の動きを肌感覚で察知してしまったのでしょう。
正確に心の細かい部分まで読めるわけではありませんが、奥義の修得に伴ってシモンの感性は極めて鋭くなっています。シモンは申し訳なさそうに苦笑するばかりです。
「これも俺の至らなさ故か。だが、それならば皆が納得するまで繰り返すまでだ。というわけで、ライム、好きだぞ」
「その好きは、どういう意味で?」
今度はライムからの問いが返ってきました。
友達としての「好き」だとか、ライバルとしての「好き」だとか、好意にも色々と種類や段階があるものです。彼女としても今更心配はないと分かっているのですが、まあ一応、念の為。
「一人の男として、異性としてお前が好きだ。愛している。これでどうだ?」
「そ、そう……? もう一回。ふふ、念の為」
いよいよ誤解の余地など完全になくなりました。
しかしライムからは、おかわりの要求が。シモンも迷わず応えます。
「うむ、念の為か。何事も慎重なのは良いことだな。では改めて……ライム、お前に惚れている。見た目も可愛いと思う。その金髪も肌も、どこもかしこも綺麗だし、はっきり言って全身頭から爪先まで好みの塊だ。おっと、だが見た目だけで惚れたのではないぞ。表情にはあまり出ないが誰に対しても優しいし面倒見も良い。俺は人として心底尊敬している」
「ふ、ふふ。そ、それは流石に言い過ぎ……恥ずかしい」
「おいおい、言い過ぎなものか。この程度ではまるで言い足りぬ」
「う、嬉しいけど……続きは、後で。二人の時に……ね?」
このあたりは性格によるものでしょう。
シモンは自分の素直な気持ちを口に出すことに、一切の恥ずかしさを感じていないようです。周りに何十人いようと臆さず堂々としています。
逆に元々恥ずかしがり屋の気質があるライムは、自分が要求したにも関わらず照れ臭くなって両手で顔を覆ってしまいました。恥ずかしさのせいか手の端から見える頬が真っ赤になっています。
まあ、しかし流石にこれだけ言われたら疑いも晴れました。
周囲で二人を見守る皆も、祝福半分、呆れ半分、といった顔をしています。
身分や種族など、色々と通すべき筋も多々あるので流石に今すぐ結婚などとはいかないにせよ、今この場での一件に関してはひとまず一件落着と――――。
「シモン。私に、ドキドキする?」
「ん? いや、それは別に」




