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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十章『恋愛武闘伝』

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シモンの奥義:解答編


 先程の戦いでシモンが使った妙な技。

 彼が奥義で斬ったものを挙げていくと、世界、根性、空気抵抗、自分の限界、など。とても剣でどうこうできるとは思えないものばかりです。



「簡単に言うと、“ない”ものを斬る技、だな。より正確には、確かに“ある”が目に見える物質としては存在しないものか。この説明で分かってもらえ……いや、まあ、自分で言ってても無理があると思ったが」



 大仰に『奥義』とは言ったものの、シモンに秘匿する気はない様子。あっさりと技の概要を明かしました。まあ説明されたところで納得できるかは別問題ですが。話を聞いていた皆も揃って首を横に振りました。



「ま、実際にやってみたほうが理解が早いか。そうだな誰か試しに……ああ、ルカよ。ちょっとこっちに来てくれぬか。なに、危険はないから安心せよ」


「は、はい……? ええと、何を……すれば?」


「いや、そのまま俺を見ているだけでよい。では」



 ルカは緊張しつつも言われた通りにシモンを見ています。

 シモンはそんな彼女に向けて、ゆるり、と手刀で空を斬りました。


 周囲で見ている人々には彼が何をしたのかまるで分かりません。

 常人のみならず、ライムや迷宮達も同様の反応。

 その変化に気付けたのは実験台となったルカのみでした。



「あ、あれ……シモン、さん?」



 突如、ルカが不思議そうな顔で周囲をキョロキョロと見渡し始めました。

 そんな彼女に近くにいたレンリが声をかけます。



「どうかしたのかい、ルカ君?」


「う、うん……シモンさん、どこ、行っちゃったんだろ?」


「え? いや、どこ、って?」


 が、レンリにはルカの質問の意図が分かりません。会話を聞いていた他の人々も同じ。なにしろ、シモンは実験を始めてから今まで一歩も動いてすらいないのです。



「うーん……また、すごいスピードで……どこか、走って、行っちゃった? わたし、いつまで……こうしてれば、いいの、かな?」



 が、ルカ一人だけは本当にシモンの姿が見えていないようです。彼女の性格上、こういう場面でふざけたり無意味な嘘を吐くこともないでしょう。




「あれ……いた」



 そして、ルカが目の前にいるシモンを見失ってからおよそ三十秒後。

 ようやく彼女にもシモンの姿が正常に見えるようになったようです。

 


「あの……どこに、行ってたんです、か?」


「はっはっは、それについては他の皆に聞いてみたほうがいいかもしれんな」


「え、えと……それって?」



 そして自分が目の前のシモンを見失っていたことを知ったルカは、それはそれは驚くのでありました。





 ◆◆◆





「つまり、さっきのは俺に対して向いた認識を斬ったわけだな」


 やはり実際にやって見せたほうが理解が早かったようです。ルカに続いて、興味を抱いた希望者の『認識』を同じように手刀で次々斬って見せたのですが、



「おや、本当に見えないね。彼、さっきと同じ位置にいるよね? ふむ、触っているはずなのに感触が感じられない。どうやら視覚以外の五感にも効果が及んでいるようだ」


「普通に気配を消すのとは全然違うみたいだな」


『わー、よく分かんないけどすごいの!』


「さっすが、団長! すごすぎて何がすごいのかも分からねえ!」


「これって王家の秘伝とかだったりするのかな?」


「ヒューッ! ブラボー、おお、ブラボー!」


「アンコール、アンコール!」



 なんだか手品か催眠術のショーみたいな反応でしたが、概ね好意的な感想ばかり。これで奥義の凄まじさの一端くらいは理解してもらえたようです。



「……今度から店屋に入る時は無意識に使わんようにせんとなぁ」



 ちなみにこれはシモンも今実演してみて気付いたのですが、手刀や剣などを振る動作があったほうが『斬る』イメージを強く持ちやすいためか技を出しやすいのですが、その気になれば別に身動きを伴わずとも使えるようです。

 決闘を始める前、料理店に入って何度も店員に注文を忘れられたのも、今にして思えば無意識に奥義の効果を発動させていたのでしょう。今後は技のオンオフを意識して制御しないと、かえって日常生活が不便になりかねません。



「ああ、そうそう。詳しくは教えられぬが、この技を俺に授けた師はダイエット中に自分の食欲を抑えるのに使っていたな。結局、しばらくすると油断して元通りになるのだが」



 他の応用としては敵意や悪意、害意、戦意などの排除。

 なにしろ猛獣の多くいる山中で丸一日以上寝ていても、一切危害を加えられなかったほどです。シモン一人が街中を毎日散歩するだけで、学都中から犯罪事件が激減してしまうかもしれません。 


 また先程の戦闘中、急激に魔法の威力や精度が向上したのは、魔力など「見えないが“ある”もの」に対しての感受性カンが奥義の修得を自覚して一段と鋭くなったおかげでしょう。同じ量の魔力でも操作精度が上がればより大きな効果を得られますし、身体能力の強化率も向上します。これに関しては奥義と直接関係のない副産物のようなものですが。



「とは言ったものの、俺もまだどうにか技を使えるようになっただけで、とても胸を張って使いこなせると言える段階ではないのでな。まだまだ修行せねば。修業をしたい。また休暇取って山籠もりとか……いや当分はちゃんと仕事を優先するぞ。うむ」



 まだまだシモン自身の理解が及んでいない部分もありますし、一度の説明で皆も全て納得できたわけでもないでしょう。ですがまあ、ひとまずは、彼の奥義に関しては大凡このようなものでした。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 無意識で動くつまりシモンは東方キャラのこいしだった。 それはともかく悪用すれば 百パーセントオフの買い物にレンリのシャワーシーン見れますがバレた後が((( ;゜Д゜))) [気になる点] …
[良い点] シモンの【奥義】、ますます「蜻蛉切り」に似て来ましたな。(笑) まあ「人の技」と『武器の機能』で違いは有りますが、「斬れると信じて」行う行動には、それほど"差"は無いのかな、と。 もう…
2021/03/18 22:18 退会済み
管理
[一言] これ下手したら運命や因果すら切れる恐ろしい技なのでは
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