バトル、その後で
ちょっと短め
長かった戦いもついに決着。
決戦の舞台となった騎士団の訓練場は、それはそれは酷い有様になっていました。
「隕石でも墜落したみたいだね」
具体的にどのような惨状になっていたかというと、まさにレンリの感想通り。天から隕石が降ってきたかの如く、場内中央には大きな陥没穴ができていました。決闘の最後にシモンとライムが激突した際の衝撃によるものです。
果たしてどれほどの深さがあるのやら。
穴の淵より外で待機しているレンリや他の人々からは角度的に底が見えないほどです。恐らく底の深さは二十メートルや三十メートルではきかないでしょう。
クレーターの中心部近くの土や岩は破壊力の余波を受けてか真っ赤に焼けて赤熱しています。万が一、地中の金属成分などが燃えて有毒ガスが発生している危険性など考えると、不用意に近寄るわけにもいきません。
「おーい、皆! 二人はいたかい?」
なので、恐らくクレーターの中心部にいると思われるシモンとライムの捜索には、怪我や窒息の危険を考える必要がない迷宮達が当たっていました。
これほどの破壊力が間近で発生したにも関わらず、観客に一人の怪我人も出なかったのも、彼女達の尽力によるものです。砕けた岩などの飛来物を一つ残らず打ち落とし、絶え間なく襲い来る衝撃波を和らげ、それでも抑えきれない分は大気や地面の状態を『復元』して相殺する。と、まあ戦いの当事者ならぬ彼女達も見えないところでかなりの奮闘を見せていたのです。
それでも完全に影響を抑えきることはできず、特に最後の一撃の際には訓練場と隣接した街中で弱めの地震が発生したりしていたのですが、その程度で済ませられたことは称賛に値するでしょう。
『はいはーい、我が今見つけたの! 我が! 二人で抱き合うみたいな形で土に埋もれて……うげっ!?』
「ウル君、今の『うげっ!?』って何!」
そして今もまた、余力を失って自力で脱出できなくなっていたシモン達を発見する成果を挙げたようです。大声でレンリと会話していたウルは何やら慌てている様子でしたが。
『あっ、でも二人ともまだ生きてるの。人間ってこんなグチャグチャになっても生きられるのね。ねえねえ、ネム。これって二人とも元通りにできる? 脳が無事だから多分いける?』
「ウル君、グチャグチャって何!? 二人はどうなってるのさ!?」
『うーん、しいて言えば、二人分の……合挽き肉? 直接見たら当分ハンバーグが食べられなくなると思うのよ。あ、ネム。治す時に二人のお肉が混ざらないように気を付けてね。そっちに落ちてる白い石っぽく見えるのは、もしかして骨の…………あれ?』
「わー、聞きたくない、聞きたくない! 細かく実況しないでいいから!」
『そう? まあ、それなら黙って作業に集中するの。うーん、きっと人体の神秘ってやつね』
直接現場を見ていないレンリには詳細までは分かりませんが、どうやらシモン達のダメージはかなり大きかったようです。救出作業に従事するウル達からは何かと不穏なワードが飛び出してきましたが、それでも辛うじて命が無事だったのは流石の生命力。
普通なら即死は免れても致命傷は間違いないような重傷も、覚醒した迷宮達の手にかかれば治療も不可能ではありません。
主にネムの『復元』と、ヒナの液体操作による輸血。この際、ウルが変身能力の応用で二人それぞれに合わせた成分の血液を生成していたようです。まだ未覚醒の迷宮であるモモだけは、特にこれといった手助けができずに他の皆を応援するだけでしたが。
『ふう、リサさまのお部屋にあったお医者さんの漫画を読んでて良かったのよ。これで我も天才無免許美少女医ね。その言葉が聞きたかったの』
ともあれ、どうにか命の危機は脱したようです。
そして。
「はっはっは、今回ばかりは死ぬかと思ったな! ありがとう!」
「ん。感謝」
戦闘終了からおよそ三十分後。
シモンとライムは戦いが始める前と何ら変わらぬ元気な姿を取り戻していました。
◆久しぶりなので迷宮に関する補足説明(既出分)
ウル:第一迷宮。能力は生物への変身。他の迷宮より分身が得意
ゴゴ:第二迷宮。能力は無機物への変身。今回は最初から不在
ヒナ:第三迷宮。能力は液体操作。固体や気体を液化することも可能
モモ:第四迷宮。能力は不明。次章あたりで披露できるかと
ネム:第五迷宮。能力は復元。覚醒後の性能は時間の巻き戻しや現実の改変にも等しい
◆次章では迷宮達の出番が結構増える予定です
あと今回ウルが気付いた何かに関しては今章のうちに回収します




