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新しい武器


 ズドン、と重い音が響いた直後、太い杉の木がメキメキと音を立てて倒れました。

 更に、一分ほどの間を空けてその隣の木、その次はその隣。一定の間隔を空けて、次々と木が倒されていきます。どうやら、遠距離から何かが撃ち込まれているようです。



「うん、なかなか上手いじゃないかルカ君。そろそろ実戦でも使えるんじゃないかな」


「そ、そうかな……? えへへ……」


 

 その杉林から約400mほど離れた崖の上。

 第一迷宮内でも入口から離れたあまり人が来ない辺り(以前講習をやったルート近く)で、レンリ達はルカの新しい武器の調子を確認していました。

 その武器とは、長い金属棒の先端に投石紐スリングを付けた、いわゆる投石杖スタッフスリング。紐部分を取り外して独立した投石紐や金棒としても使えるようになっています。


 速射性とコントロール優先ならば投石紐。

 威力と飛距離優先の場面なら投石杖として使い分ける予定です。


 




 最初に学都方面軍の訓練に参加してから早半月。

 迷宮探索や休養日の合間を利用して何回か訓練に参加し、同時にルカに合う武器探しもしていました。


 一々買うのは経済的に非効率ですが、軍の武器庫にある武器を試す分にはお金もかかりませんし、最高責任者からも「壊しても構わない」というお墨付きをもらっています。


 それで剣やら槍やらを何本も折ったり曲げたりしながら試していたのですが、どうもルカは刃物との相性が良くないようでした。

 料理に包丁を使うのとは勝手が違うのかどうも不必要に力んでしまい、刃筋を立てるということができないのです。彼女の力であれば鈍器として使っても充分な殺傷力は確保できるでしょうが、そんな使い方をしては武器に負担がかかってすぐに壊れてしまいますし、武器本来のスペックが無駄になってしまいます。


 そこで、途中からは鈍器を中心に色々と試してみました。

 棘の付いた金棒や戦槌、鎖付き鉄球など色々振ってみて、最終的に1mちょっと程度のシンプルな金属杖に落ち着いたのです。



「まあ、そこからがまた大変だったけどね」


「うん……ありがとう……」


「なに、お安い御用さ。私もいいデータが取れたしね」



 使用武器を決めたはいいものの、そこからがまた大変でした。

 何しろルカが力を込めると、普通の鉄や青銅の武器では握り部分に指の痕が付き、更にうっかり力むと簡単に砕けてしまうのです。


 そこでレンリの特殊技能が活かされました。

 一般の武器店で購入してきた鉄杖を刻印魔法で加工し、魔剣ならぬ魔杖にしたのです。学都に引っ越してきてからは本業はご無沙汰でしたが、居候先の庭の一角にあった空きスペースに自分用の工房を建て、その手の加工も出来るようになったのです。

 魔杖のコンセプトは“絶対に壊れない”というもの。

 ただひたすら頑丈になるだけの単純極まる効果ですが、ルカの魔力量があればミスリル武器にも劣らぬ強度になります。実際に木やら岩やらを思い切り殴りつけても、歪みも曲がりもしませんでした。


 そこに投石紐スリングを付けられるようにしたのは、何かと細かな指導をしてもらったシモンのアドバイスによるものです。

 遠距離攻撃の手段は多いに越したことはありませんし、ルカの気性からいっても、あまり近接戦闘に向いているとは言えません。杖による殴打はあくまでも奥の手としておき、普段は投石による遠距離戦をメインにすれば充分戦闘に貢献できるでしょう。



「それにしても、そんなにまとまった量の鷲獅子グリフォンの毛なんてどこに売ってたんだい? 結構な貴重品であんまり出回らないんだけど」


「え……!? え、あの、ええと……た、たまたまお店で見かけて……」


「ふぅん? まあ、絶対見ないほどでもないし、そういうこともあるか」



 なお、投石紐の素材は貴重な鷲獅子の毛を加工して編んだ物。

 牛皮や山羊皮ではルカの力に耐え切れない可能性が高いので、極力丈夫な素材を使用したのです。

 ちょうど冬毛が抜けるシーズンだったこともあり、まとまった量が入手できました。出所に関して大きな声で言えないのが難点ではありますが。







「じゃあ、そろそろ日も暮れてきたし、今日の練習はこのあたりにしようか」


 二人は昼前からずっと投石杖で石を飛ばす練習をしていましたが、ちょうど百発を数えたところでお仕舞いにすることにしました。

 人の少ない場所を狙ってはいますが、見通しの悪い状況で石を飛ばしていたら万が一の事故がないとも限りません。賢明な判断でしょう。



「うん……じゃあ、ルグ君を、呼びに……」


「いや、彼もちょうど戻ってきたようだ」



 ちょうど練習を終えたタイミングで、別行動を取っていたルグが戻ってきました。

 彼は愛用の角剣以外にもう一本長剣を手にしています。



「やあルー君、調子はどうだい?」


「まあまあかな。ちょっとは慣れてきたよ」



 ルグが新しく装備しているのは、レンリが所持しているのと似た試作聖剣の一種。指輪や腕輪などの使い捨て型とは少々コンセプトが違う新型です。



「ただ、扱いが難しくてさ。すぐに直るからいいけど、三十本斬る間に十回は曲げちゃったよ」


「変形速度を重視して金の比率を多くしたからね。ま、次のが出来るまでは腕でカバーしてくれたまえ。次はミスリル粉と青銅をもう少し足してみるかな」



 新型の試作聖剣のコンセプトは“壊れても元通りになる”というもの。形状変化の機能を修復能力だけに限定した形です。


 ただしこの新型、凄まじい切れ味は健在なのですが、非常に折れ曲がりやすく、僅かでも刃筋が狂うと途端に壊れて使い物にならなくなるという欠点があります。

 そこから修復できるのが強みとはいえど、直るまでの数分間は武器が使えなくなるので予備の武器を用意しないと危なっかしくて仕方ありません。

 それに、ルグの魔力量はそれほど多いほうではないので、何度も繰り返し直すと修復速度は目に見えて遅くなっていきます。現在は立ち木を相手に試し斬りをしている段階ですが、まだまだ実戦投入は早そうです。



 ともあれ、新しい装備と工房を手に入れた三人の気分は上々。

 未だに最初の迷宮で足踏みをしているのは変わりませんが、何やら吹っ切れたような、さっぱりとした雰囲気を纏っていました。



スタッフスリングは、ラクロスのクロスみたいな感じの武器で、先端の部分がネットではなく紐や布になっています。

本来は打撃武器ではありませんが、今回出たのは通常のを魔改造して棒部分で殴れるようにしています。

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