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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十章『恋愛武闘伝』

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この時間がいつまでも続けばいいのに


 愛の告白をフェイントに使うという暴挙。強烈な左フックを脇腹に喰らったシモンは、身体を「く」の字に折って勢いよく吹き飛びました。



「……ほっ」



 ライムとしても今の作戦は賭けでした。

 それにより攻撃が当たるかどうかは正直問題ではありません。

 肝心なのは、あの言葉に彼がほんの僅かにでも動揺してくれるかどうか。

 もし彼が全く意にも介してくれなかったら、その時点でライムは大きな精神的打撃を受けたことでしょう。失敗していたら決闘が始まって早々に戦意を喪失していたかもしれません。そう考えれば実に幸先の良い滑り出しです。


 しかし、戦いはまだ始まったばかり。

 ライムは安堵で緩みかけた気を引き締めて、吹っ飛んだシモンを追って走り出しました。この切り替えまでに要した時間は拳を入れてから一秒間にも満たないでしょう。魔力で強化・加速された思考力の賜物です。


 先程の左フックは常人が受ければどんなに良くても肝臓破裂。下手をすれば胴体が腰から千切れて両断していてもおかしくない程度の威力がありましたが、シモンの鍛え方もまた並ではありません。多少のダメージはあっても、これだけで戦闘不能とはいかないでしょう。



「うむ、気持ちの入った良いパンチだ!」



 事実、この余裕。

 吹っ飛ばされて未だ宙に浮いた状態だというのに、もう完全に意識を切り替え終えています。次の瞬間には自身の身体にかかる重力を操作して、強引に地に足を着けることに成功。そこから更に側転を一回入れて勢いを完全に殺しきり、ダッシュで向かってくるライムに向き直りました。



「ありがとう! お前の気持ちを嬉しく思うぞ!」


「ん。どういたしまして!」



 シモンが素直な感想と同時に繰り出したのは左のストレートパンチ。

 対するライムは走ってきた勢いをそのまま生かした跳躍前蹴り。

 

 双方の攻撃が双方の顔面へと思い切り突き刺さりました。

 両者同時に鼻血を噴き出したものの、勿論これで終わりではありません。


 シモンは続けて追撃のジャブ、フック、ストレート……のパンチ連打で意識を身体の高い位置に誘導してからの強烈なローキック。かと思えば逆にロー連打からの頭狙い。打撃格闘のお手本のような丁寧な技の組み立てです。


 一方のライムはというと、リーチの不利を補うためか握り拳ではなく貫手による攻撃を試みていました。攻撃速度が音速を超えた際の、ぱん、と空気が弾ける破裂音が彼女の周囲で無数に鳴っています。


 シモンの打撃で同様の破裂音が発生しないのは、恐らく拳と貫手の空気抵抗の差によるものでしょう。拳による面の打撃では、どうしても強く空気の影響を受けてしまいます。普通に生活していれば存在を意識することすらない空気が、音速に迫るほどの高速戦闘においては強力にして強固な障害物と化すのです。


 更に、具体的にどことは言わずとも全体的に薄く平べったい体格も、高速移動時の空気抵抗の観点からすればライムの有利に働きます。ライム的にもその悲しい事実に思うところがないわけではないのですが、それでも利点は利点。


 絶対的とは言えないまでもスピードに関してはライムにやや分があるようです。

 とはいえ、二人の身長差は実に40㎝以上。

 果たしてリーチ差を速度差で埋められるのか否か。



 この段階においては両者共に決定打は発生せず。

 掠めた攻撃により衣服の端やあちこちの皮膚に細かな傷がどんどん増えていきますが、決定的なダメージには程遠いでしょう。二人の顔は血に濡れていますが鼻からの出血も既にほとんど止まりかけています。呼吸や発声への影響は軽微です。



「ふふっ、楽しい。シモンは?」


「うむ、俺も楽しいぞ。手加減をするつもりはないが早々に終わらせるのは勿体ない。この時間がいつまでも続けばいいのにな」


「うん。私もそう思う。ふふふ」


「はっはっは。どれ、少しペースを上げていくぞ……と、その前に」



 



 ◆◆◆







 決闘開始からおよそ三分。

 立会人であるレンリや周囲のギャラリーは、息をするのも忘れて超人的な戦いに見入っていました。いえ正確には、ちゃんと目で追えているのは迷宮達くらいで、他の皆は時折動きが遅くなった一瞬に残る残像をどうにか見ることしかできていないのですが。


 なにしろ広い訓練場の端から端までを瞬きほどの時間で移動するのです。

 先程から響き続けている打撃音や破裂音、ついでに何故か聞こえてくる笑い声を頼りに探せば現在の居場所を見つけることはできますが、それでも見つけた直後にまたすぐ見失ってしまいます。



「あ、あれっ……今度は、どこ……?」


「えっと俺達から見て左奥の、あ、いや今度は右手前か」



 ギャラリーに混ざって観戦していたルカやルグも、周りの例に漏れずシモン達の行方を目で追おうと頑張っていました。

 ルグが持って来ていた神経強化の短剣に二人で触れて動体視力の底上げを図っているのですが、やはり一本を二人で同時に使っていたのでは魔剣の性能を十分に発揮できないようです。それでも無いよりは随分マシですが。



「あれ? どうしたんだ、アレ」


「ルグくん、どうか、した……の?」


「ああ、いや、俺の見間違いかもしれないけど」



 ルグが違和感に気付けたのも、魔剣のおかげで僅かにでも戦いの様子を目で追うことができたおかげでしょう。彼が着目したのはシモンの腰周りです。この決闘が始まった時点でのシモンは間違いなく左腰に見慣れた長剣を差していたはずなのですが、



「あれ、剣……無い、ね?」


「な? どこ行ったんだろ」



 いつの間にやらシモンの腰に差してあった剣が鞘ごと消えているのです。

 考えてみれば、彼がパンチやキックだけで戦っているのも珍しく思えます。

 性格的に手抜きでそうしているのではないとは分かりますが、果たして持ってきた武器はどこに行ってしまったのか。この時点でのルグ達には知る由もありませんでした。



◆男女が仲良くイチャついてるので今回の話はラブコメです。オーケー?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 恋愛バトル〉物理 シモンが親になって子供達からライムとのなれそめを語る日が楽しみですね。 恋愛とは命を掛ける物 [気になる点] これは紅な豚さんよろしく 最後の最後で告白されるのでは?…
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