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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十章『恋愛武闘伝』

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超音速鬼ごっこ、ここに決着!


 およそ時速1225km。

 この速さがいわゆる音速。音の波が大気中を伝わる速度とされています。先程ライムが繰り出した破裂音を伴う貫手タッチは、伸ばした手の先端速度がこの速さを超えていたというわけです。


 なかなかどうして大したもの。

 が、此度は残念ながらそれでは足りませんでした。


 シモンもウルも一筋縄では捕まってくれません。

 二対一という人数の不利。そしてルールによる戦法の制限。

 これが戦いであれば攻撃魔法などを放って逃げ道を塞ぐ駆け引きも使えますが、鬼ごっこでそうするわけにもいきません。



「私が勝つから」


「おお、そちらも何か新技でもあったのか?」


「ん。期待して。本気の本気」



 そこでライムが繰り出した次なる手がコレ。

 身を極端に低くし、両手を地に着けた構え。まるで陸上競技のクラウチングスタートのような姿勢で前方の二人に向き合いました。

 前方に並んで立つシモンとウルまでの距離は約10m。ただ走るフォームを変えただけでは、これまでと同じく回避されてしまう可能性が高いと思われました……が、



「む? これは!?」


『え、えっ?』



 空気が変わった。

 具体的に何がどう変化したのか頭で理解する間はありません。

 ライムが動き出すよりも早く、シモンとウルは立っていた場所から飛び退きました。

 そして、その一秒後。


 ぎ、ぎ、ぎ、ぎ、ぎ。

 地面が深く抉れる制動ブレーキ音。

 摩擦熱で靴底が灼け焦げる匂い。

 それらと共にライムがシモン達が立っていた場所の遥か後方に姿を現しました。

 地面の抉れ跡はそこまで何十mも続いています。

 見たままの状況から解釈すれば、これまで以上の凄まじいスピードで駆け抜けたライムが公園から飛び出さないように足を踏ん張った跡ということなのでしょう。



「惜しい。外れ」



 ライムの反応は淡泊なものですが、シモン達が避けられたのは勘が上手く働いて相手が動き出すより早く動き始めていたからこそ。ライムが動き出すのを待ってから反応したのでは決して避けられなかったでしょう。


 

「次は本気の本気の本気で行く」


『面白くなってきたの……! 鬼ごっこはこうでなくちゃ』


「ううむ、これをまだ鬼ごっこと言い張るのには流石に無理がある気もするが……さて、どうしたものか?」



 そしてライムは再びクラウチングスタートの構え。

 先程の彼女は伸ばした手のみならず明らかに全身が音速を超過していました。

 音速の二倍か、三倍か、あるいはそれ以上。

 口ぶりからするに更に速度は上がるのかもしれません。ここまで温存していたことから察するに、ライムはまだこの技を使い慣れていないのでしょう。何度も使わせて経験を積めば更にスピードアップする可能性は低くありません。


 そして、それほどの速さにも関わらず音の壁を破った際の破裂音は鳴りませんでした。その点にこの技の秘密があるのではとシモンは推測を進めてもいたのですが、じっくり答えを考えている暇はなさそうです。


 始動を見てから避けることは望み薄。

 ならば先程と同じくライムが動き出すより前に動いて残り時間を凌ぎ続けるしかない。しかしライムもそれは承知。これは互いの読みの深さの勝負になる……という風に考えたシモンは相手の一挙手一投足を見逃さぬようライムを注視していたのですけれども。







『……あれ? ねえねえ、エルフのお姉さん』


「ん。なに?」



 不意にウルがライムの傍に近寄りました。

 特に跳んだり走ったりするわけでもなく全くの無防備。このままだと何かの技を使うまでもなく普通に手を伸ばすだけでウルの負けということになってしまいます、が。



『ほら、そこ。スカートが破れちゃってるのよ』


「え? え、どこ?」


『ほら後ろの、このお尻の辺り。自分では見にくい位置だと思うの』



 こんな風に指摘されてしまってはライムもそちらを優先せざるを得ません。



『あーあ……これは結構深く破れちゃってるの。あ、動いちゃダメよ! 下着パンツが見えちゃいそうなの』


「どこかの枝にでも引っかけたか? まあ、あれだけの速さで動き回ったのでは無理もないが。ライム、大丈夫か?」


「シ、シモンは、見ないで」


「あ、ああ、気が回らなくてすまぬ」



 勝負に熱くなっていた頭も一気に冷えました。

 それと同時にライムは恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じます。

 心配したシモンも近寄ってきたので今なら二人まとめて捕まえられますが、正直もうそれどころではありません。クラウチングスタートの構えを崩すことも出来ずに一歩も動けなくなってしまいました。 



「ううむ……破れた物は後で直しに出すとして、とりあえず近くの店で間に合わせの服を買うしかないか。ウルよ、すまぬが店まで付き添って破れた部分を隠すのを手伝ってくれぬか。男の俺では色々とアレだしな」



 シモンは律儀に後ろを向いたままウルに頼みました。

 紳士としては適切な対応でしょう。しかし。



『ううん、それには及ばないのよ』


「はて、及ばないとは?」


『だって、本当はスカート破れてないもの。あ、お姉さんも動いて大丈夫よ』


「……え?」



 シモンもライムも、一瞬、ウルの言っている意味が分からずにキョトンと目を丸くしました。しかし、時間が経つにつれてだんだんと理解が追い付いてきます。


 スカートが破れたと言っていたのはウル一人だけ。

 ライム本人も、シモンも実際に破れた部分を見てはいません。

 そして、いつの間にか制限時間はとっくに過ぎています。

 そう、つまりは。



「嘘?」


「ええと、ウルよ。つまりブラフだったということか?」


『その通りなの! わーい、勝ったの!』



 鬼ごっこは単なる追いかけっこにあらず。真正直に逃げても勝てそうにないのなら、正直でない駆け引きを駆使すれば良いのです。

 敵を騙すには味方から。見事に心理の虚を突く作戦で二人を諸共に操ったウル(と、一応まだ捕まっていないシモンも)がこの勝負の最終勝者となりました。



◆ウルらしからぬハッタリ作戦は主にレンリの影響によるものです。同じ部屋に住んでいる関係でよくカードゲームやボードゲームなどで一緒に遊んでいるのですが、レンリがこういう盤外戦術ばかり好んで使うので悪い影響を受けてしまったようです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 神様と超人ふたりの鬼ごっこは命をかけないバトルだった [気になる点] ああ、ここでも黒レンリの悪い手が…… 才能と野心があれば悪の組織の幹部やれますね! ヒロインとは一体……うごごごご…
[一言] まぁレンリなら子供相手に卑怯、汚いは敗者の戯言ぐらい言いそうですしね、クラウチングスタートからの突進技は数多くありますが、自分はスクライドのフォトンブリッツを思い出します。
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