シモンとライムと懐かしい遊び
散歩中。大きめの公園を通りかかったシモンとライムはウルの姿に気付きました。周りには一緒に遊んでいたらしい子供達もいます。
『あっ、シモンさんとエルフのお姉さん。こんにちは、なの!』
「ん。こんにちは」
「うむ、こんにちは。元気が良くて大変結構だ」
シモン達とほとんど同時に気付いたウルは元気よく挨拶をしてきました。
二人も彼女に挨拶を返します。色々あって神様になりかけの状態とはいえ、基本的には元気なお子様。ライム達も彼女の素直な気質は好ましく思っています。
「ところで、そちらの皆はウルの友達だろうか? もしかして遊びの邪魔をしてしまったかな?」
『ううん、大丈夫なのよ。ちょうど今さっき、おままごと“浮気男VS十人のゾンビ妻VSサメ ~仁義なき痴話喧嘩:第三章~”が終わったとこなの。クライマックスは皆ノリノリで演技力がすごかったのよ。うーん、まさかアドリブで入れたフカヒレの回想がクライマックスの伏線になるとは我も思ってなかったの』
「お、おう……よく分からぬが楽しそうで何よりだ」
「気になる」
ウル曰く、先程まで『怒りで憤死したゾンビ妻軍団が墓場から這い出してきて旦那とサメと三つ巴の頭脳戦を繰り広げる』という内容のおままごとを楽しんでいたようです。
決まった脚本など存在しないので完全に行き当たりばったりでストーリーを組み立てるのですが、ウルによるとそれがかえって味のある展開を生むのだとか。
もちろん説明を聞いてもシモンやライムにはさっぱり内容が理解できません。
が、この子供の遊びに特有の「分からなさ」には覚えがあります。
「俺達も小さい頃は、今考えるとよく分からん遊びを色々やっていたな」
「うん。懐かしい」
「そうそう覚えているか、ライム? あれは、いつだったか。ボール遊びをしたい者と、かくれんぼをしたい者がちょうど半々で別れて、物陰に隠れながら敵チームにボールをぶつける範囲無制限ドッジボールみたいなルールで遊び始めたような」
「覚えてる。大変だった」
「うむ。ボールは無くすわ遠くまで行き過ぎて迷子になる者は出るわで散々だったが、それはそれですごく楽しかった覚えがあるぞ」
子供の頃の共通の思い出話なら、いくらでもネタが出てきます。
ライムとしては予想外の話題で、あまり甘い雰囲気とは言えませんが、親密さの再確認と思えば悪くない展開のようにも思えます。このまま共通の思い出という方針で話題を発展させていくのもアリかもしれない。ライムとしては、そのように思いかけていたのです……が。
『それでね、一休みしたら今度は皆で鬼ごっこをするの』
「ほう、それも懐かしいな。俺達も昔はよくやったものだ。こう見えてなかなかの腕前だったのだぞ。流石に最近はご無沙汰だがな。ライムも鬼ごっこは好きだったろう?」
「うん」
『へー、二人も鬼ごっこが好きなのね』
ライムが少々考え事をしている間に、話は予想外の方向に転がり始めました。
というか、気を利かせたつもりのウルが勝手にコロコロ転がしていきました。
シモンもライムも鬼ごっこが好き。
しかし、大人になるとなかなか遊ぶ機会がない。
ならば、どうすればいいか?
『あ、我ってば良いことを思いついたのよ! それならシモンさんとエルフのお姉さんも一緒に鬼ごっこすればいいの。皆もそれで良いかしら?』
「うん、いいよ~」
「ウルちゃんの知り合いの人?」
「あのお兄さん、カッコいいね」
「大人だからってナメて手加減すんなよな」
ライムが対応を決めかねている間に、ウルの提案は他の子供達にもサクッと承認されてしまいました。今更「やっぱりなし」とは言いにくい雰囲気です。ここで退いたら、すっかり乗り気になっているチビッ子達をガッカリさせてしまうかもしれません。
「俺はそれでも構わぬが……ライム?」
「……うん。それでいい」
はてさて、どうしたものか。こうしてライムにも何故かよく分からぬうちに、デート中の全力鬼ごっこ対決が幕を開けることになったのです。




