てくてく、てくてく
ちょっと短め
「散歩か。まあ俺も嫌いではないが、こんなことで良かったのか?」
「うん」
ライムが提案したのは単なる散歩。
特に決まった目的地があるわけでもなく、普通に二人で歩くだけです。
せっかく希望に合わせてくれるというのだから、もっと他に良い選択があったのではとライムとしても思わなくもありません。けれど、どうにもしっくり来るアイデアがなかったのです。
買い物をするにも特にこれといって欲しい物はありません。
劇場で舞台見物……は、シモンの胃の調子を慮るなら止めておくのが無難でしょう。相談相手のルカは観劇が趣味だからか残念がっていましたが、ライムとしてもシモンに無理をさせてまで押し通すほどの興味はありません。
新市街のほうで建設中の博物館や動物園は開業したら良いデートスポットになるのでしょうが、まだ出来上がっていないのだから仕方なし。
ロマンチックな雰囲気のあるバーなどは、探せば街のどこかにはあるのかもしれませんが、普段それほど飲酒をしないライムはその手の店がどこにあるのかすら知りません。そもそも午前中のうちからバーに直行しても営業していないでしょう。
「ほう、ここも少し来ない間に新しい店が増えたのか。意外と発見があるものだな」
「ん。楽しい」
ほとんど消去法のような形で選ばれた散歩ですが、案外これで正解だったのかもしれません。職業柄、様々な街の様子に詳しいシモンですが、流石に毎日自分の足でパトロールをしているわけではありません。普段の通勤などでは、どうしても同じ道ばかり選びがちになってしまいます。
しかし、自分の足で歩いてみなければ分からない細かな変化は多々あるもの。
久しぶりに通った道から眺める木々が大きな花を咲かせているとか、珍しい柄の猫が商店の木箱で日向ぼっこをしているとか、住宅の屋根の色が塗り替えられているとか。そうした何気ない発見に目をやるだけでも、その気になれば興味深い事柄は無数に見つかるものです。
「よし、今度は通ったことのない道ばかり選んでみるというのはどうだ?」
「ん」
どこに行くかは問題ではありません。
ライムはシモンと一緒にいられれば、どこにいても幸せなのです。
てくてく、てくてく。
二人はその場その場の気分任せに道を選んで歩き続け、時に突き当たりに行き当たっても笑いながら引き返し、そうしてどれだけ歩いた頃でしょうか。
「ん?」
「はて、あれは」
ランダムに歩き回っていたのだから、時にそういう偶然もあるのでしょう。
ライム達はばったりと知った顔に出くわしました。




