ライム、かつてない好機を得る
さて、それからライムは毎日のようにシモンに弁当を届けにくるようになりました。その全てが完璧に好みの味付けなのだから当然シモンとしても悪い気はしません。今日もシモンが出勤する時間にぴったり合わせて、屋敷の門前にライムが来ていました。
「おお、今日も届けてくれたのか。ありがたい!」
「ん。お安い御用」
「はっはっは、最近はお前の料理が一番の楽しみでな。内心、今日も期待していたのだ。とはいえ、こう毎日だと流石に大変ではないのか?」
シモンとしては当然ここ数日の差し入れをありがたく感じてはいるのですが、それがライムの負担になるのは彼としても望むところではありません。なので、このように尋ねてみたのですが、
「そうでもない。修業のついで」
「うむ、ルカから聞いたが料理の修業をしているのだったな。ならば今後もそちらの負担にならない範囲で甘えさせてもらうとしよう」
実際、ライムの負担はそれほど大きいわけでもありません。
少なくともレンリ達が熱心に協力してくれた先日までの修業期間に比べれば、ほとんど日常の家事の延長みたいなもの。元々ライムは早起きの習慣があったので早朝から料理をするのも苦ではありませんし、多少時間のかかる調理に関しては前夜のうちに仕込みをしておけば問題ありません。
どうせライム自身が食べる料理も何かしら作らねばならないのですから、その手間が多少増えた程度のものです。上達を意識しながら本気で料理すること自体は楽しいですし、そもそもシモンに喜んでもらえれば少々の苦労など全部吹き飛んでしまいます。
「とはいえ、やはり、こうも馳走になってばかりというのも気が引ける」
「別に」
別に気にしなくていいのに、という口から出かけたライムの返事は、しかし次のシモンの言葉を聞いて引っ込むことになりました。
「なので、俺にも少しは恩を返させてくれぬか? 次の俺の休みに一緒にどこかに出かけて、飯でも買い物でもライムの好きなように一日付き合おう」
「一緒に? 二人で?」
「うむ。考えてみれば最近はお前と二人でどこかに行くこともなかったしな。たまにはこういうのも良いだろう。賑やかなほうが良いというなら他の皆にも声を掛けるが」
「う、ううん。二人で!」
つまり、デートのお誘いです。
シモンにその意図はないのでしょうが、ライムにとっては限りなくデートに近い何かです。思わぬところで大きなチャンスが巡ってきました。
◆◆◆
「わぁ……や、やりました……ね」
「うん。貴女のおかげ」
ライムは早速デートのことをルカに報告しました。
オシャレに続いて料理でもルカの言う通りにしたら成果が出たのです。
最早、ライムの中ではルカは恋愛道の権威。いえラブ権威のラブ師匠。そこに寄せる信頼は限りなく高まっていました。ルカがそうしろと言うのなら、ライムは火の中にでも躊躇いなく飛び込むでしょう。
「今度はどんな特訓?」
ライムとしては、今度のお出かけで更なる成果を挙げたいところです。
とはいえ具体的に何を目標とするのか、そのためにどんな努力をすれば良いのかとなると、ライム一人で考えてみても判然としません。ルカに報告したのは、その行動方針を明確化させる狙いもあったのですが……。
「え、えと……そろそろ、告白、とか?」
「……こくはく?」
「う、うん……告白……正直、オシャレと料理で……ネタ切れ、なので……あとはもう、それくらい、しか思いつかない……です」
そこに踏み切るのは早すぎるのではないか。
あと、ちょっとネタ切れが早すぎるのではないか。
ライムは二重の意味をこめて言いました。
「早い」
しばらく忙しい時期が続きそうですが、なんとか週一ペースは死守できるように頑張りますので。




