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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十章『恋愛武闘伝』

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否定する二人


「いやいやいや、普通に考えてそんなことあるわけないだろう!?」


「うむ、何故このような話になっているのだ?」


 レンリもシモンも、それはそれは驚きました。なにしろ自分達が恋愛的な意味での交際をしているという記事が新聞に載っていたのですから。


 これがもし仮に、本当に付き合っていてその真実が暴かれたというのであれば、驚きはしても一応の納得は得られたかもしれません。ですが、この二人の場合はその真実自体がそもそも存在しないのです。驚きの度合いはなおさら大きかったことでしょう。



「まったく、ひどいデタラメ記事だよ!」


「うむ、何ひとつ身に覚えがない!」



 ですが本気でこう思っているあたり、この二人にまったく非がないと言えるかは微妙なところかもしれません。元はと言えば、レンリ達が不用意に誤解を招きそうな振る舞いをしたのが騒動の原因でもあるのですから。



「あ……やっぱり……違うんだ」


「当たり前じゃないか! ルカ君達は分かってくれるよね?」



 不幸中の幸いと言うべきか、普段からレンリやシモンと近しい関係にあるルカやルグは、すぐ記事の内容に疑いを持ったようです。この状況で信じてくれる味方がいるというのはレンリ達にしてみればさぞや頼もしいことでしょう、が。



「う、うん……わたしは、信じる……よ。でも」


「でも、なんだい?」


「あっ、ううん……えっと」



 ルカは自身の背後に隠れているライムに短く意識を向けてから、何かを誤魔化すかのように慌てて言葉を続けました。



「ほ、ほら……街の人達は、二人のこと……よく知らないと、思う、から」


「ああ、それは問題だね。まさか一人一人説得して回るわけにもいかないし」



 ルカが提起した問題にはレンリとシモンも困った顔を浮かべています。

 元から親しい人間に限ればともかく、問題の記事を読んだ人間の大半は面識すらない赤の他人。それを一人ずつ誤解を解いて回るというのは、どう考えても現実的ではないでしょう。



「なるほど、周りの人達はそれでこっちを見てるのか。こらこら、見世物じゃあないよ。がるるるる!」


「おい、レン。そうやって周りの人を威嚇するんじゃない」


「ふう、なんだかもう面倒臭くなってきたな。ねえねえ、全部放っておいて美味しい物でも食べにいかない?」


「おい、レン。一瞬で投げやりになるんじゃない!」


「やれやれ、ルー君は注文が多いなあ。そうだ、それならこういうのはどうだろう?」



 身に覚えのないトラブルに思考を割く行為自体が面倒なのか、レンリの対応も全体的に投げやり気味です。そのせいか解決策としてこんな手段を持ち出してきました。



「やあやあ、シモン君。ちょっといいかい?」


「うむ。レンリよ、何か良い手を思いついたのか?」


「うん、せーのっ……悪いけどキミとは付き合えないんだ! あれだ、こう、音楽性の違いとかそういうので! だからゴメンね、別れよう!」



 改めてシモンと向き合ったレンリは、広場中に聞こえそうな大声で言いました。ごく近い距離にいる野次馬はこの発言以前のやり取りまで聞いていますが、ある程度以上離れた距離にいる人間だけなら騙せるかもしれません。



「……はて? よく分からぬが、俺、もしかして今フラれたのか?」


「うん。噂そのものを消せないなら上書きする形でどうにかできないかなぁ、と」


「なるほど、やや釈然としないものを感じるが一理ある……いや、あるか?」



 果たして、レンリの珍妙な破局宣言に効果があったのかどうか。

 周囲から聞こえるヒソヒソ話のざわめきが一段と大きくなったのだけは間違いなさそうですが、これでは逆に火に油を注いだだけかもしれません。



「ううん、これでもダメとなるといよいよ手詰まりの感があるね。シモン君の不思議な権力ちからでここの新聞社を潰しても根本的な解決にはならないし」


「こらこら、さも当たり前のように報復を企むでない。一応言っておくが俺にそんな権力などないぞ。まあ、出来ても誤報の訂正記事を出させるくらいだろうな」



 ですが新聞社に抗議して訂正記事を出させたとして、それで綺麗に噂を一掃できるかというと、まあ、まず間違いなく無理でしょう。話題性のあるニュースというのは恐ろしいほどの勢いで広まる反面、後で誤りが判明した際に訂正するのは非常に難しいのです。



「あとはもう、迷宮からネム君を連れて来て街の住民全員の頭をパッパラパーにしちゃうくらいしか思いつかないなぁ」



 レンリの発想もだんだんとテロリストめいたものになってきました。

 ちょっと前に必死で止めた事態を自ら引き起こすことを考えるなど余程のことです。これは流石に本気ではないにしても、これ以上良い案が出てこないというのは本当なのでしょう。



 いくら頭を捻ろうと事態を打開できるようなアイデアは出てこない。

 だから、そう、このどうしようもない事態を変えたのは目の覚めるような名案ではありませんでした。奇策やハッタリの類とも根本的に別物です。これは断じて作戦などではありません。



「シモン」


「ライム、どうした? 何か良い案でも――――」


「シモン、私は」



 らしくもなく。自信はなく。弱々しく。

 それでもライムは彼に告げたのです。



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― 新着の感想 ―
[良い点] レンリは街の住民を威嚇した! 街の住民は逃げたした! まではいかなかった [気になる点] 記者の姉弟は何処に行った! この場にいたら 〉シモン隊長、レンリ嬢と破局!? 彼の思い人は幼馴染み…
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