謎のヒーロー集団の正体に迫る! それゆけ迷宮戦隊メイキュウジャー(仮名)
「まずは俺からいいだろうか?」
確認すべき点はいくつかありますが、まずはシモンが話を切り出しました。
個人的な好奇心もありますが、彼には職務上の責任というものがあるのです。
片手に提げていた薄手のカバンから何枚かの書類を取り出すと、それを皆に見えるように持ちました。
「これは、ここ何日かで報告が上がってきた話なのだが」
書類にはそれぞれ、ここ何日かで騎士団が把握した事件……いえ、厳密には事件性がない奇妙な報告が載っていました。
以前、第五迷宮を訪ねた時のような、死んだ人間が生き返ったという話と似ていますが、それとも少なからず異なります。
そのうち一件の内容を要約すると以下のようになります。
まず冒険者の一団が実力的に手に余る魔物と交戦していた。
誰かが抜ければたちまち全滅するような状況では逃げるために背を向けることもできず、しかし戦いが長引いても苦境を打破できるようには思えない。
次第に疲労や負傷も増え、いよいよ危なくなってきたタイミングで、
「まあなんだ、そこにも書いてあるのだが……仮面のヒーローが現れたとか」
突然どこからともなく爆発音が響いてきたと思ったら……なんと、カラフルな仮面と色違いの衣装に身を包んだ謎のヒーロー集団が現れたのです。意味不明なポーズを取って格好を付けながら。あまりの異常事態に冒険者はもちろん狂暴な魔物までもが呆気に取られて動きが止まってしまったほどです。
冗談みたいな話ですが、本当なのだから仕方ありません。
目撃証言によると集団の人数は三人ほど。
いずれも子供のように小柄な体格。
一部の妖精種や魔族は成人年齢でも人間の子供程度の体格の者も少なくありませんし、なにより仮面と衣装で正体を隠しているので体格や性別は一切不明。
ですがまあ、そこまではいいのです。
冒険者の中には好んで奇抜な格好をする者だっています。
体格が小さくとも魔法の使い手であれば大きな戦力となり得ます。
ピンチに陥っていた冒険者達も、そんなカラフル集団の助勢を期待したのですが……その後のことは手助けどころではありません。
仮面の一人、緑色の衣装を着た人物が目にも留まらぬスピードで冒険者達と魔物との間に割り込んだかと思ったら、どこからともなく取り出した植物の蔦を編んだロープで縛り上げてたちまち無力化。一瞬で戦いを終わらせてしまいました。
助けられた側だって決して弱くはない戦闘のプロ。そんな彼らが苦戦していた相手を子猫でもあやすように片付けるなど、並の実力でできるはずがありません。
更には別の白い仮面が冒険者達に近寄って手をかざしたかと思えば、これまたあっという間に全身の怪我や疲労を残らず治してのけたのです。中には、もう元通りには治らないであろうと思われるほどの重傷者もいましたが、傷跡ひとつ残りませんでした。
それどころか見た目では分からないような持病、古傷の類まで綺麗さっぱりなくなっていたのです。どれほど高度な治癒魔法ならそんな真似ができるのやら。
そして最後のもう一人のピンク色仮面は、特にこれといって何かしたようには見えませんでしたが、声を発さず手信号で仲間に合図を送ると、現れた時と同じように(拘束した魔物を担いだまま)すぐさま撤収。我に返った冒険者達が正体を尋ねる間もなく、奇妙な集団は姿を消したのでありました。
ちなみに、件のカラフル集団が現れたのはその一件だけではありません。
他にも迷宮のあちこちで誰かのピンチに駆け付けては、たちまち問題を解決して風のように去って行く。しかも、うち何件かでは深手を負って一時は死に至った者までをも救ったというのです。
「これは、そなたらのしたことで間違いないか?」
『あらあら、よくお分かりですね』
『しーっ、ヒーローは正体を隠すものなのよ!?』
『ウルお姉ちゃん、それだと白状してるのと一緒なのです』
迷宮の守護者達を詳しく知っていれば簡単に分かることですが、この件はウル達の仕業で間違いないようです。元々、ネムがあちこちでしていた人助けを、より問題になりにくい方向に改案したつもりなのでしょう。
「先に一応言っておくが、それを咎めるつもりはないぞ。むしろ逆だ」
ネムが一人で活動していた時に問題になったのは、誰がそうしたことをしていたのか一切不明だったから。そのせいで神造迷宮そのものに死者蘇生の機能があるのではと(ある意味それも間違っていないにせよ)誤解させてしまう余地が大きかったからです。
ですが、この新しい方法では事情が変わってきます。
正体不明のカラフル仮面という怪人集団であれ、その現象に何者かの意思が絡んでいるとなれば事情を知らない人々の理解も違ってくるでしょう。
人を治したり生き返らせているのは、迷宮そのものに備わった機能ではなく何者かの能力によるものである、という風に。ならば少なくとも迷宮の機能を過信して、わざわざ死にに来るような人間はいなくなるはずです。なにしろ、たまたま運良く出会えなければお終いなのですから。
己の益になるよう利用してやろうと考え、その正体不明の特殊能力者そのものを探そうとする者が出てくる可能性はありますが、なにしろ迷宮の中でその迷宮当人達を捕まえられるわけがありません。それに本当に困って救いを求めている人がいれば、素直に駆け付けて堂々と治せばいいのです。
最終的には、正体は分からないが卓越した戦闘力や魔法力を持っている神出鬼没の変人集団……というあたりに落ち着くのではないでしょうか。
「これならば問題なかろう。今後とも迷宮の平和のために頑張るのだぞ。ああ、そなたらの正体はちゃんと秘密にしておくから安心してくれ」
『はいなの!』
聞く前からほとんど分かっていたことではありますが、万に一つでも人違いの可能性があるなら、シモンとしては確認しないわけにはいきません。ですが、これで僅かな懸念も解決しました。
『ところで、我はやっぱりゴゴやヒナも一緒にやるべきだと思うのよ』
『でも、お姉様がたは衣装が恥ずかしいからと断られてしまいましたから』
『うーん、それなら今のとデザインの方向性を変えてみるのはどうです? ひーちゃん、実はフリフリの可愛い系とか大好きですし。可愛さと正体隠しの両立はなかなかの難題ですけど』
「う、うむ? よく分からぬが、ほどほどにな」
もしかすると今後はまたバージョン違いの変人集団が噂になるかもしれませんが、まあモモに任せておけば上手く調整してくれることでしょう。
「そっちの話は終わりだね? じゃあ、次は私だよ」
さて、確認はまだ残っています。
今度はレンリが迷宮達に問いかけをしました。
「さっき遠くから見た時も感じたけど、何もない所にモノを出したり、情報のやり取りをしたり。そういう迷宮の基本的な能力について、迷宮そのものであるキミ達自身にもまだ分かってない部分があるんじゃないかな?」
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《おまけ》
◆ひとまずはこんな感じに落ち着きました。迷宮内でヤバめの状況に陥るとなんか変な奴らが助けにくる的な。でも本当に生き死にがかかったギリギリまで追い詰められないと来ないです。あと何もしてないように見えるモモも実は自分の能力で仕事をしていたりします。




