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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
九章『信じる心があなたを救うと信じて』

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答え合わせの時間


 あれから数日後。



『ねえねえ、こんな感じでいいの?』


『あらあら。そこはもうちょっと、こう、グイっとしてグワーッっていう感じでお願いします、ウルお姉様』



 ウルの第一迷宮にネムとモモの妹コンビが訪れていました。

 どうやら、ネムの指導の下で何かの練習をしているようです。



『うん、グイっとしてグワーッって感じね。分かったの!』


『え、お姉ちゃん今ので分かったんです?』



 前方の何もない空間にウルが手をかざすと、あら不思議。

 なんと、キャンディやビスケットなどのお菓子が、人が寝られそうなほど大きなお皿に山盛りになって出てきたではありませんか。


 そう、お菓子の種類やサイズこそ違いますが、これは先日ネムが第五迷宮でやって見せた能力と同じ。あの現象を起こすには、ネムの固有能力である『復元』は必要ありません。というか実のところ、迷宮であれば皆同じことができるはずなのです。



『ふふーん、我にかかればこんなものなの! それじゃあ、いただきまー……美味しくない! これ、全然甘くないの!? ぺっぺっ』


『あらあら、惜しい。今のはグワーッではなくグオーッって感じでしたね』


『ううん、ねーちゃんの言う表現は独特すぎてモモには意味が分からないですけど、要はイメージの拾い上げに失敗したってことですね。無意識でやってることを意識的にコントロールするっていうのは案外難しいものなのですね』



 ウルがチャレンジしているのは、迷宮であれば誰もが普段からしていることと同じ。魔力を材料として宝箱や魔物を生み出すのと基本的には同じです。


 ただし、通常であればそれらの生成は迷宮本体が自動的にしていること。そこに化身が介在する必要はありません。というか大小様々な好き嫌いを有する人間的な人格が介在すると生成物の内容に無用の偏りが生まれてしまい、特定のアイテムや魔物が多すぎる、あるいは少なすぎるなどの状態に陥りかねず、かえって迷宮運営に支障をきたす恐れもあるのですが……しかし、その気になれば出来ないわけではありません。



 神造迷宮の根っこの部分。

 学都の中央に突き立つ聖杖は世界中の魔力の流れ、霊脈や龍脈などと呼ばれる魔力流の集束点になっています。これにより得られた魔力は、覚醒に必要な信仰とはまた別に迷宮の維持管理や成長のための材料として使われるわけです。

 しかし、霊脈を通して流れ込んでくるのは魔力だけではありません。

 世界中の様々な生物や無生物の記憶や記録、つまりは情報も魔力と共に流れており、情報をエネルギーとして変換する機能を有する迷宮にとって貴重なエネルギー源となっているのです。


 ネムがしていたのは、その活用。

 迷宮に流れ込んできた膨大な情報の中から任意のモノを選択して拾い上げ、あとは普段宝箱などが自動的に生成されているように物質化するだけ。

 たとえば特定の食べ物であれば、遠く離れた異国でそれを食べたり作ったりした人々の記憶を読み込んで、その情報を元にオリジナルと寸分違わぬ出来たての状態で再現するといった具合。この応用によって砂漠の迷宮に花々が咲く庭園を作り上げることもできたというわけです。


 つまりは固有ならぬ迷宮の汎用能力。

 当たり前かつ自動的に働いているがゆえに、かえって着目されにくかった基本機能の精度を高めたが故の応用編……と、言うは易し。


 理論的に可能ではあっても、そう簡単な話ではありません。

 普段は本体の迷宮が自動でやっている作業に、アレンジを加えた上で実行するというのは案外難しいようで。ネムから説明を受けて練習をしているウルは、見た目はともかく味は本物と似ても似つかない粘土細工のような劣化品しか出せていません。

 同じく自分の迷宮内で検証してみたモモも失敗ばかり。また極度の感覚派であるネムの説明が非常に分かりにくいのも難度に拍車をかけています。



『まあまあ、何度も練習すればすぐ出来るようになりますよ』



 ネムも最初からできたわけではありません。

 実に四年以上にも及ぶ封印期間中、ロクに身動きの取れない石棺の中で、様々な一人遊びと同じように練習を繰り返していたのです。

 なにしろ暇だけはいくらでもありました。

 まあ本人にとっては目的を定めた練習のつもりはなく、数少ないできることを色々試して楽しんでいたら、たまたま意外な応用の仕方に気が付いたというだけなのですが。

 生成物の出現場所を石棺内に指定することで、好みの食べ物や飲み物を自力で賄っていたようです。



 さてさて、そんな風にウルの練習がしばらく続いた後のこと。第一迷宮の木々の隙間を縫うようにして、見知った人影が近付いてきました。 



「なるほど、なるほど。概念魔法によく似ている……というか、概念魔法の理論が少なからず神造迷宮のシステム構築に使われてるのかな? シモンさんはどう思います?」


「ううむ、正直俺には判断が付かぬ。そういった技術面の話に関してはそちらのほうが詳しかろう。魔法に関する分野であれば、ライムに尋ねてみれば何かしらの見解はあるかもしれぬが」



 現れたのはレンリとシモンの二人組。

 他には誰もいません。

 意外と言えば意外な組み合わせです。



「やあ、こんにちは。モモ君、この前は随分と『お世話』になったね」


『いえいえ、それほど大したことはしてないのですよ。うふふ』



 レンリがモモに声をかけた際の言葉のニュアンスから、何かしら含むところがあるのが察せられます。時間の経過に伴って能力の影響も薄れ、あの時の自身の思考や様々な違和感に気付いたのでしょう。


 ですが、本日はその件で文句を言いに来たのではありません。

 先日の事件自体は既に終わった話です。

 どんな手段だろうと今から結果を覆すことはできません。


 が、それはそれ。

 結果を左右するためではなく、納得を得るためにすべきことは残っています。



「ちょっとした答え合わせが残っていたのを思い出してね。なに、そう大して時間はかからないさ」



◆更新が遅れてすみません。体調を崩したとかではないんですけど、急激に暑くなって昼間に大汗をかいたせいか家に帰ると疲れてすぐ眠くなってしまい……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お菓子を模した創造物 昔青い狸型ロボットのアニメではさみで切ったケーキが本物そっくりになると言う回があって 確かに本物になりましたが、味は紙のままだったw というストーリーを思いだしました…
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