ネムのボランティア活動
レンリ達がモモと一緒に迷宮を出た直後。
学都の中央広場にはちょっとした人だかりができていました。
「あれ、何かやってるのかな……って!?」
『おやおや、どうかしたのです? と、よく見たらアレはねーちゃん(※ネム)ではないですか』
てっきり芸人や露店に人が集まっているのかと思いきや、そこにいたのは第五迷宮の守護者であるネム。あの特徴的な真っ白い髪と服を見間違えるはずもありません。レンリにとっては、ほんの何時間か前に別れたばかりの相手です。
「あれがネムって奴か」
「なに……してるの、かな?」
「いや私にもさっぱり。さっきは外に出てくるようなことを言ってはいなかったけど」
ルグとルカにとっては、これが初めての遭遇になります。
僅かなりとも面識のあるレンリにネムがこの場所にいる理由を聞いてはみたものの、そんなこと分かるはずがありません。
ネム本人に質問できれば一番手っ取り早いのですが、この人波をかき分けて横入りをすれば間違いなく顰蹙を買ってしまうでしょう。
『まあまあ、モモにはなんとなく見当が付くのですよ。もしもし、そこの人。ちょっとお尋ねしたいのですが』
一方で、ネムの姉妹であるモモには予想が出来たようです。念の為、答え合わせのために人だかりの近くにいた露天商に声をかけ、その予想は確信へと変わりました。
『やっぱり思った通りです。ねーちゃんてば、街の人の怪我とかを治してるみたいなのですよ。しかも無料で。しかも無料で!』
「え……それは、大丈夫……なの? あと、なんで……二回、言ったの?」
未覚醒の迷宮であるネムの『復元』は、迷宮外では大きく効力が下がります。
死者蘇生などとても不可能。
単純な骨折程度の治療にもかなりの時間を要するでしょう。
しかし、そんな効力の低い復元能力であっても使い道がないわけではありません。ちょっとした火傷や突き指、肩こりや腰痛や関節痛、胃もたれや二日酔いなどであれば、それぞれ数秒から長くても五分程度で治せるでしょう。そして、そんな小さな不調を抱えた人間というのは決して少なくはありません。
どうやらネムは、そういった軽症者の治療をボランティアとして行なっている様子。ほとんどは医者にかかるほどでもない者ばかりのようなので、無料サービスでも近隣の医療者の客を奪うようなこともなさそうです。
「魔法の練習なんて言ってたけど、いやぁ小さいのに見事なもんだ」
「あの子のおかげで久々に肩が軽くなったよ」
しかも治療を終えた人々の声を聞くに、自身が迷宮であることを隠した上で「治癒魔法の練習を兼ねて」という口実を設けているようです。実際には人間が使うのと同じ魔法ではなく迷宮としての固有能力なのですが、そこは方便というものでしょう。
つい数時間前にシモンから注意を受けたばかり。
ネムなりに不審を抱かれないよう考えているようです。
「なるほど、なるほど。じゃあ、放っておいてもたぶん大丈夫かな? さっきの今で、いきなり街に出てくるとは思わなかったから驚いたけどさ」
予想外のフットワークの軽さには面食らったものの、これならば心配するようなこともないだろう、と。レンリもそのように判断しました。
「それなら声をかけて邪魔するのも悪いかな?」
「すごく……良い子、だね」
「だな。挨拶くらいはしておきたかったけど、それはまた今度ってことでいいか」
『うんうん、立派な妹を持ってモモも鼻が高いのです』
ルカやルグも、初めて目にしたネムに好印象を抱いたようです。
実際に話してみたい気持ちもありますが、治療待ちの人々を押しのけるわけにもいきません。彼女が迷宮の化身であるというのなら、いずれまた別の機会もあるでしょう。
ならば、これ以上の長居は無用。
一行は当初の予定通り、モモを連れて菓子店へと向かいました。
ここで強引にでもネムを止めておけば良かった、と。
後で思うことになるなどとは知る由もなく。
◆◆◆◆◆◆
《おまけ・モモ設定画》
◆モモの設定について
眠そうな目とふにゃっと緩んだ口元がポイント。
髪の毛がやたら長い&多い。
人が多い場所などでは身体に巻き付けて適当に縛っています。
髪を解いている時はよく自分で自分の髪を踏んづけて転んでいます。




