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修行:素振り


「では、各自素振り二百本始め!」


 十分弱の小休憩を終えた兵達は、シモンの号令で各自武器の素振りを開始しました。

 普通の軍であれば、剣なら剣、槍なら槍と、共通の武器で訓練するのかもしれませんが、百人近い騎士や衛兵達は、各々の得意とする物をそれぞれ自由に選んで振っていました。


 訓練場の隅にある武器庫には大量の刃引き(※斬れないようにあえて刃を潰すこと)した武器が用意されていました。剣に槍に斧にハルバード、槌や棍棒まで、メジャーな武器は一通りあるようです。

 レンリとルグはその中からオーソドックスな長剣を借りて、他の兵に倣って素振りを始めましたが、未だ扱う武器を決めかねているルカは、大量の武器を前にオロオロと迷っていました。



「む、ルカ嬢はまだ扱う得物を決めていないのか?」


「は、はい……うっかり壊しちゃいそうだし……それに武器って、ちょっと怖い……です」


「壊す……? ああ、なるほど。なに、焦ることはない。色々と試しながら自分に合う物を探せばいい」



 しかし、シモンは彼女を叱責するでもなく、一緒に合いそうな武器を探し始めました。



「それに武器が怖いと感じるのは良いことだ」


「そう……なん、ですか?」


「剣にしろ槍にしろ武器という物は扱い方を誤れば己や仲間を傷付けてしまう。その怖さを誰に教わることなく理解できているということだからな。どうやら、そなたには才能があるようだ」


「そ、そんな……こと……ない、です」



 唐突に褒められたルカは照れて顔を赤くしてしまいました。 

 家族以外の、それも年上の男性にそういうことを言われるのに慣れていないのです。



「どれ、これなどいいのではないか? 壊しても構わぬから思い切り振ってみるといい」


「は、はいっ……がんばり、ます」



 やがて武器庫の奥からとても頑丈そうな鉄棒を見つけたシモンはそれをルカに手渡し、今度は先に剣を選んで振っているレンリ達のほうへと向かいました。






「ほう、レンリ嬢と少年は剣を選んだか。二人とも普段から剣を使うのか?」


「俺はそうですね。魔物の角剣と弓を使います」


「私は一応……剣がメインなのかな?」


 シモンが問いかけると、二人は一旦素振りを中断して答えました。

 レンリのは正確に言うと、剣術そのものではなく剣を扱う為の魔法なのですが、まあこの場合は似たようなものでしょう。

 


「それに、個人的には武器の中で剣が一番格好いいと思いますし」


「はっはっは、確かに格好よさは大切だな!」



 レンリの冗談めかした台詞を聞いて、シモンは鷹揚に笑いました。

 格好良さを基準に武器を選ぶというのは考えようによっては不真面目に思えるかもしれませんが、彼的にはそれもアリのようです。



「ふむ。そなたらは剣を振る際に何を考えている?」



 唐突にシモンはそんなことを問いかけました。



「素振り中に考えるっていうと……ええと、もっと速く振るにはどうすれば、とか?」


「うむ、それも間違いではない。究極、常に相手の先手を取って必殺の一撃を打ち込めるなら、面倒な駆け引きなど要らぬからな。確か、ジギェン? ……ジゲン流? だかなんとかいう流派が、そういう考えをしていたはずだし、完全に荒唐無稽というわけでもない」


「へえ、聞いたことないけど、そんな流派があるんだ。ルー君知ってるかい?」


「いや、マイナーな流派なのかな?」



 その問いにはシモンは答えず、話を本題に戻します。



「だが、よほどの実力差がないと相手は素直に喰らってくれぬ。どのような体格、どの程度の技量の相手に対してどのような一撃を放つべきか? もし攻撃を外した際にどうやって体勢を立て直すか……などと具体的に考えながら振れば、ただの素振りでも筋力の鍛錬として以外に得るものが見えてこよう」



 素振りを、ただ武器を空振る・・だけの筋力トレーニングと捉えるか?

 それとも、実戦のつもりで一振り一振り考えながら空を斬る・・か?

 一見すると似たような動作であっても、そこを意識するだけで得るものは何倍にもなるでしょう。



「考えながら、か」


「それを二百本って結構大変だな」


「ははは、大変でないと訓練にならぬからな。まあ、無理をせず励むがよい。では、俺は他の者を見ねばならぬのでな」



 具体的な技術というよりは心構えについての指導でしたが、シモンの言葉を受けた二人は何かしら思うものがあったようです。シモンがその場を離れても真剣な表情で、鍛錬を続けました。







 ◆◆◆







「よし、それでは五分の休憩を取るように! その後にアレをやるぞ」


「アレ?」


 素振り二百本を終えたら、再び小休憩の指示が出ました。ですが、訓練初参加のレンリ達は休憩よりも、意味深な「アレ」という言葉が気になるようです。


 その疑問が顔に出ていたのでしょう。

 近くにいたヒゲを生やした兵が三人に教えてくれました。



「ああ、アレってのはうちの軍の名物でな。まあ、言ってみりゃただの試合だよ。ただし、団長一人対それ以外の全員一遍にな」


「ぜ、全員!?」



 武術の荒行には百人組手なるものも実在しますが、それも普通は一対一を百回繰り返す形式です。常識的に考えれば一度に百人を相手にして勝てるはずがありません。

 これまでの短い訓練で、三人にもシモンがかなりの実力者であることは分かっていましたが、話を聞いて軽く引いていました。


 これがライムであれば一対百だろうと何一つ心配はいらない(むしろ百人の側を心配すべき)のですが、なまじシモンが常識が通用する相手であるだけに、つい常識の枠内で考えているのでしょう。



「ははっ、実際に見てみないとそう思うよな。もし時間内に一本取れたら金一封が出るから、嬢ちゃん達も頑張ってみるといいぜ」




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