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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
九章『信じる心があなたを救うと信じて』

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レンリの推理


 ウルが確認した迷宮の記録には、倒れたサニーマリーが忽然と姿を消す映像だけが残っていました。これでは行方不明中の彼(彼女)の居場所も、犯人の正体も分からない……かと思いきや。



「なるほど、パッと消えた、か。うん、ウル君のおかげでだいぶ犯人が絞れてきたよ。サニーマリー君がどこへ消えたのかもね」



 レンリの反応には皆が驚きを隠せません。

 再びしょんぼりしていたウルも、一旦しょんぼりするのを止めて問いました。



『お姉さん、我のおかげってどういうことなの?』


「ふふふ、落ち着きたまえ。ウル君が確認した通りにサニーマリー君がいきなり姿を消したとすれば、その手段はかなり限定されるだろう。そこがカギになるのさ」



 人が突然姿を消す。

 それ自体は魔法を用いれば決して不可能ではありません。

 少なくとも、死人が生き返るよりは容易く起こせそうです。



「可能性としては少ないけど、光の魔法で自他の姿を透明に見せたり、体表に周囲の景色を映し出してカモフラージュしたりね」



 姿の見えない何者かが倒れているサニーマリーに接近し、彼(彼女)も見えなくした上で運び去った。そんな手段でも一応は状況に説明がつきます。

 まあレンリ自身も可能性が少ないと前置きしたように、単に視覚的な迷彩だけでは紫外線や赤外線まで捉えるウルの目を誤魔化すのは難しいでしょう。それに、いくら完全な透明人間になっても足跡や匂いなどの痕跡は残ります。



「ウル君、この場に我々やもう一人のサニーマリー君以外の匂いはあるかい?」


『匂い? くんくん……うーん、多分ないと思うの』



 人間の数万倍とも言われる犬並みに嗅覚を強化したウルが調べてみても、この現場に未知の何者かの匂いはないようです。倒れた彼(彼女)に誰かが近付いたという線は薄いでしょう。



「その次の可能性としては転移系の魔法だね」


「転移か、その可能性は俺も考えたが……しかし、レンリ嬢。そうなるとサニーマリーがどこへ消えたのか絞るのはかなり難しくはないだろうか」



 次の可能性として挙げられたのは転移魔法。

 たしかに、それならば一瞬で遥か遠くの場所まで運べるかもしれません。シモンが指摘したように、移動先の候補が多すぎて捜索範囲を絞れないという難点はありますが。



「いや、シモンさん。実はそうでもないんですよ。まず考えるべきは『どこに移動したか?』ではなく、その逆で」


「ほう、その心は?」


「つまり、『どこに移動していないか?』。分かりやすく言い換えるなら、絶対にこの場所は違うと言えるのはどこか? もう答えを言っちゃうけど、私は、もう一人のサニーマリー君がいるのは第一迷宮じゃないと考えているんだ」



 昨夜、もう一人のサニーマリーはたしかに第一迷宮にいました。

 それは現場の状況から言っても間違いありません。

 しかし、死んでから生き返るまでの間のことは彼(彼女)本人にも分からないのです。もし転移魔法で迷宮の外や第一以外の迷宮に移動していたとすれば、ウルの探査に引っ掛からなかった説明も付きます。



「さっきも言ったけど、私はこれでもウル君の能力は評価しているのだよ。彼女がこの迷宮にいないと言うならば、それはそのまま、この迷宮にはいないと素直に考えるべきなのさ」


『言われてみると我もそんな気がしてきたの!』


「そして犯人が転移魔法を使って第一迷宮の外までサニーマリー君を運んだと考えると、これはおかしいんだ」



 レンリは推理の続きを披露します。

 転移魔法を使ったと仮定すると、明らかに不自然な点があるのです。



「シモンさんは、ほら、周りの人達がアレだからかえって気付きにくいかもしれないけど、本来、転移っていうのはすごく高度な魔法でさ」


「アレ……うむ、まあ、言わんとするところは分かるが」


「魔法を習得してても条件次第で使えないってことも結構あるし、単純な魔力の消耗も移動距離に比例してどんどん増えるんだ」



 シモンのよく知る一家は日常の足として自家用車みたいな感覚で転移魔法をポンポン使っていますが、その連中はあくまで例外中の例外です。もはや存在自体がギャグみたいな連中を基準に考えてはいけません。



「大きい国なら一人や二人は転移を使える人材を抱えているだろうし、長期間かけて魔力を溜めるとか複数人がかりの儀式魔法で必要な魔力を出し合うとかすれば、一瞬で世界の端から端まで跳ぶことだって不可能じゃないだろうね」



 普通の、常識の範囲内で測れる優秀な魔法使いでも、広い世界の任意の地点まで一瞬で移動することは理論上可能です。無論、相応の才能や下準備は要りますが。



「でも、そこが限界。普通はね」


『限界って、世界のどこでも行けるんじゃないの?』


「うん、たしかに“同じ世界”のどこにでも行けるってだけでも凄いことなんだけど。でも今回の件は迷宮で起こったことだろう? 気軽に出入りできるから忘れがちではあるんだけど、神造迷宮は私達の世界とは違う“異世界”なのだよ」



 通常の転移魔法で移動できるのは同じ世界の中だけ。

 そして、この神造迷宮はそもそもが通常世界から離れた一種の異界。

 第一迷宮の中だけを移動するなら可能でしょうが、転移魔法で直接迷宮の外や他の迷宮に移動することはできないのです。冗談みたいな例外を除いては。



「この迷宮の外へ移動するには、一旦、通常世界にある聖杖内のエントランスを通過しないといけない。でもウル君、もう一人のサニーマリー君がそこを通過した記録はないんだよね?」


『う、うん。え、でも、そうすると……あれ、どうなるの?』



 もう一人のサニーマリーは現在第一迷宮以外の場所にいると思われる。

 迷宮の出入りに関しては常時記録されている。

 だが、彼(彼女)が正規の出入口を通過した記録はない。

 そして、転移魔法で迷宮の外へ直接移動することはできない。


 明らかに矛盾しているように思えます、が。



「つまり、正規の手段以外にも移動する方法がある。ウル君も知らないような裏技がね」


『ええっ!? 何なのなの?』


「ある程度の見当は付いているから、この後で実際に出来るか実験してみようか」



 レンリには『裏技』に心当たりがあるようです。

 しかし、その説明よりも前に。



「その前に最後の疑問だけど、犯人はどうやって死体が出る場所とタイミングを知ることができたと思う? それもウル君のところだけじゃなくて、第二や第三でも同じように」


『どうやってって、それは……あれ?』


「不思議だろう? 昨夜のサニーマリー君だって死ぬ直前まで自分が死ぬなんて思わなかったろうし、他に生き返った人もほとんどは偶発的な状況でいきなり死んだはずだ。本人はもちろん他の誰かにだって、いつどこで死ぬかなんて予想できるわけがない。それこそ神様でもなければね」



 レンリが問うた最後の疑問。

 何故、犯人は迷宮で出た死者を発見することができたのか。

 その答えを考えれば、おのずと犯人も絞り込めてきます。



「予想はできなくても、いつ人死にが出ても対応できるよう備えることはできるだろう。たしか、神造迷宮は常に他の迷宮と情報のやり取りをしているんだったよね? 大小無数の情報には、迷宮の中にいる人間がどんな状態にあるかという情報だってあるんじゃないかい? だったら、その“子”は普段から他の迷宮から送られてくる情報に逐一目を光らせているんだろう。誰かが死んだ時にすぐ蘇らせるために。まあ、なんで生き返らせているのかまでは分からないんだけど」



 もはや答えを全部言っているも同然です。

 他の皆にもレンリが何を言いたいのか理解できました。



「つまり、犯人は迷宮だ」



◆まるで主人公が主人公みたいだぁ……

◆ツイッターをやってる方は後書き欄の下の青い鳥のマークを押していただけると作者がちょっぴり幸せになります

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― 新着の感想 ―
[良い点] ばかめそれは私の本体だみたいな感じになってきた真犯人さん [気になる点] 犯人は迷宮にいた つまりこの事件は迷宮に入らないと解決出来ない。 これが後世に伝わる【迷宮入り事件】 [一言] …
[一言] おぉ、レンリがまともに推理してる、これで勝手に名前をかけられたおじいさんも報われますね
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