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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
九章『信じる心があなたを救うと信じて』

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ウルはやればできる子なのでいざという時にはすごく頼りになるぞ


 連続活人事件の真相を探るため。

 そして、行方不明の半身を探すため。

 それぞれの事情から協力関係を結んだシモンとサニーマリー。


 シモンからの提案で、二人は街の南東部に建つとある屋敷を訪ねました。

 より正確には、その屋敷に暮らす一人の『迷宮』を。



「――――と、そういう事情で協力を頼みたい。そなただけが頼りなのだ、ウル」


『分かったの! 我にドーンと任せておくの!』



 まだ日が昇って間もないような早朝ですが、起きたばかりのウルは元気いっぱい。

 元々必要があって睡眠を取っているわけではなく、ベッドで眠る心地良さを求めて趣味で眠っているだけなので当然といえば当然ですが。近頃ではその寝起きの良さを買われて、配達されてきた新聞やパンの受け取り係を任されていたりもします。



「ああ、眠い……ふあぁ」


「すまぬな、レンリ嬢。もっと常識的な時間に訪ねたかったのだが、なにしろ事は人命に関わるのでな。この詫びはいずれ」



 一方、普通の人間であるレンリは普通に眠そうにしています。

 今回シモン達が用事があるのはウルだけですし、部屋に戻って二度寝したって構わないのですが、それでも瞼をこすって同席しているのは何だかんだ件の事件が気になっていたのでしょう。



「ところで、さっきから気になってたんだけど」


「やあ、こないだぶり」「レンリちゃん元気してた?」「ぼくは元気だよ」「ついさっきまで」「死んでたけど」


「やっぱり人違いじゃなかったか、サニーマリー君」



 まったく妙な偶然もあるものです。

 まあ、すでに面識があったおかげで話が早く済みそうですが。



「それでシモン君」「この女の子と」「ぼくを」「会わせて」「どうするの?」


「うむ、それについてだが、迷宮の『守護者』という存在については知っているだろうか?」



 迷宮の『守護者』。

 そういう存在がいることは別に隠されているわけではありません。

 今でこそ少々システムが変わりましたが、試練を受けて次の迷宮へ進むという仕組みは全ての攻略者に共通のものですし、レンリだって迷宮の深い事情を知る前からウルと一緒に暮らしています。


 とはいえ、ウルが試練を課すために人前に出る際に今のような人間型でいることは、実は滅多になかったりします。なにしろ幼女姿で冒険者の前に出たら問答無用で保護なり補導なりされかねません。良識ある大人が魔物の出る迷宮の中で子供を見かけたら、まあそうするのが当然でしょう。

 レンリ達の時も最初は大型の狼の姿で現れていました。

 途中から今のような幼女姿を見せたのは、率直に言うと当時のウルが「まあ、いざとなればどうとでもなるだろう」とレンリ達をナメていたからだったりします。



 ともあれ肝心なのは、この頭に花を咲かせた幼女が迷宮の守護者であることは、あまり知られてはいないけれど別に隠す必要があるわけではないということです。

 部外者である記者に知られても問題はありません。

 だからこそ、シモンもサニーマリーをここまで案内してきたのです。

 この幼女が将来的に神様になるかもしれないという話まで現段階で公になるのは困りますが、今回の目的はあくまで迷宮内での人探し。そこまで踏み込んだ話をすることはないでしょう。



「つまり」「ウルちゃんは」「迷宮のことなら」「なんでも」「分かるんだね?」「すごいすごい」「これならわたしも」「すぐ見つかるね」


『えへへへへ。いやぁ、それほどでもあるのよ』



 話を聞いたサニーマリーは素直に感心している様子。

 褒められたウルも満更ではないようです。


 もう一人のサニーマリーがいる場所は未だ不明ですが、たとえ地下深くや上空であろうとも、第一迷宮にいる限りはウルに見つけられないはずがありません。大陸サイズの大迷宮だろうとも、あっという間に隅から隅まで探せます。探せるはずなのです……が。



『砂っぽくて暗いところにいるのね。どれどれ、ええと……あれ?』


「おや、ウル君、どうかしたかい?」


『な、なんでもないのよ? もう一度、よく……あれれ?』



 この場にいながらにして一瞬で迷宮全域に探査をかけたウルは、大きく首を傾げることになりました。数秒前までの得意気な表情が見る見る困惑の色に染まっていきます。



「あれ」「なんだか時間が」「かかってるけど」「まさか」「分からない」「とか?」


「ははは、いやまさか、そんなことはないだろう。あの迷宮はウルにとっては庭、いや自分の掌も同然なのだ。分からないことなどあるものか」


「ふふふ、そうだとも。この私もウル君の能力に関しては一目置かざるを得ないからね。いや、まったく大したものさ」



 サニーマリーからの疑問に対して、シモンとレンリはそんな風に返しました。

 普段は下らない理由でケンカをしているレンリでさえも、ウルの能力に対しては絶対の信頼を置いています。そんな信頼の声を受けたウルは何故だか冷や汗をダラダラ流していましたが。


 餅は餅屋。

 迷宮は迷宮。

 たかが行方不明の妖精一人、ウルに見つけられないはずが……。



『……ごめんなさい。我はダメな子なの』



 見つけられないはずが、あったようです。



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― 新着の感想 ―
[良い点] オチが可愛い! 可愛いは正義なのです! [気になる点] 炎の妖精さんみたいに >諦めんなよ! 諦めんなよ! 諦めたらそこで試合終了だ! ドアが開かないならドアを破ればいいんだ! と応援…
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