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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
九章『信じる心があなたを救うと信じて』

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捜査状況進展アリ?


 シモンの目の前で突然死した妖精記者サニーマリー。

 そんな彼、あるいは彼女は、



「ああ、ビックリした!」「死ぬかと思った」


「うおぉっ!?」



 夜明け頃に、これまた突然息を吹き返しました。

 現場にいたシモンが急いで近くの医者へと運び、しかし、心臓マッサージや魔法を用いた蘇生措置に一通り失敗したと思われた矢先の唐突な復活です。

 治療に当たっていた老医師など驚きのあまりに白目を剥いて呼吸が止まりかけ、危うく死者が一人増えるところでした。



「うむ、ともあれ命が助かって良かった」



 元々は帰宅途中だったシモンも、患者を運び込んだ流れでそのまま病院の待合室で夜を明かすことになってしまいました。ほぼ徹夜の上に夜食も食べ損ねてしまい、万全からはほど遠い体調ですが、まあ事情が事情なだけに仕方がありません。



「やあ、お医者さんから」「話は聞いたよ」「ぼくはサニーマリー」「キミが助けて」「くれたんだってね」「騎士のお兄さん」「どうも、ありがとう」


「う、うむ? どうも変わった喋り方だな。言葉に妙な間が……」



 ちなみに、この場にいるサニーマリーは一人きり。

 どうやら一人の時でも喋り方は変わらないようです。



ぼくも色々」「やってきたけど」「死んだのは初めて」「だったから」「驚いちゃった」


「まあ、普通死ぬのは誰でも初めてではないか?」


「あはははは」「うん、言われてみれば」「その通りだね」



 生き返ったばかりだというのにサニーマリーの調子は絶好調。

 見るからに気怠そうなシモンとは対照的です。


 死んでいたので本人への聞き取りは出来ませんでしたが、医者の調べでは死因になり得るような怪我や病気がなかったことが分かっています。

 何の原因もなく、前触れもなく、ただ死んだ。

 そうとしか言いようのない不可解な死に方だったのです。



「そういえば」「生き返るのも」「初めてだったよ」「生き返るためには」「まず死なないと」「いけないから」「当たり前だけどね」「あははは」


「自分が死んだことをそう朗らかに語られてもな……む、生き返る?」



 寝不足と栄養不足のせいで頭が鈍っていたシモンですが、この段階でようやくおかしなことに気付きました。

 これまでの復活事例は全て迷宮の中のみ。

 しかし、今回は明らかに他のケースとは違います。

 ここ最近、連続活人事件を調査していたせいか彼も死者が蘇ったことをすんなり受け入れそうになっていましたが、サニーマリーが死んだのも生き返ったのも迷宮の外でのことです。



「まさか……蘇りは迷宮の外でも起こるのか?」



 これまでは迷宮の中でのみ発生していた死者の復活現象ですが、仮に迷宮の外でまで起こり始めたとするならば、いよいよ事態の収拾は不可能になってしまいます。仮に影響が迷宮の中から外にまで及び始めたのだとすれば、その範囲が学都近辺だけに留まるかも分かりません。

 もしも無数の死者が世界中で無差別に生き返りでもすれば、人間社会への影響がどれほどのものになることか。そう想像したシモンは背筋が冷える感覚を覚えました、が。



「やあ、お兄さんも」「迷宮で」「人が生き返る事件の」「ことを知ってるんだね」「でも」「迷宮の外で」「生き返ったのは」「ぼくが特別だから」「だと思うよ」


「特別、とな?」


「うん」「ぼくは」「双子妖精エインセルって」「種族なんだけどね」



 サニーマリーは自分の種族が持つ特性について話しました。

 男女セットの双子妖精。

 一つの魂に二つの肉体。

 命や感覚を共有しており、片方が死ねばもう片方も死ぬ。



「そもそも、こっちの」「ぼくが死んだ」「原因が」「取材で迷宮に行ってた」「わたしが死んだ」「からでね」


「ああ、だから怪我や病が無かったのに命を落としたのか。迷宮でということは、そなたの片割れが魔物にでも襲われたのか?」


「ううん、違うよ」「迷宮のわたしが」「うっかり大きい」「パンのかたまりを」「ノドに詰まらせて」「死んじゃって」



 割と雑な死因でした。

 昨夜、迷宮の取材をしていたサニーマリーがノドに食べ物を詰まらせて窒息し、街に残っていたもう片方も続いて死亡。ちょうど、その死ぬ寸前のタイミングでシモンが通りかかったのでしょう。



「生き返れたのは」「迷宮にいたわたしが」「生き返ったから」「だと思うよ」



 片方が死ねばもう片方も死ぬ。そんな性質があるならば、片方が生き返った際にもう片方がつられて生き返ることもあり得そうに思えます。

 復活現象の影響が迷宮の外に及び始めたのではなく、あくまでも特殊な体質を持ったサニーマリー達だからこそ起きた例外的なケース。もしそうならばシモンも少しは安心できそうです。あくまで、少しは。


 それに生き返ったとはいえ問題がないわけではありません。



「でもね」「多分、生き返ったと」「思うんだけど」


「そなたの片割れに何か問題でもあるのか?」


「うん、実は」「わたしが今どこに」「いるのか、よく」「分からなくて」


「分からない? 迷宮の中ではないのか?」


「あっちのわたしが」「死ぬ前には一番目の」「迷宮の森の中に」「いたはずなんだけど」「今は違うみたい」「暗い部屋の中?」「見覚えがないね」「結構広そう」「ここどこだろう?」



 現在もサニーマリー達の感覚は繋がっています。

 しかし、今いる場所がどこなのか本人にも分からないようです。



「出口を探さないと」「明かりが少なくて」「見えにくいなぁ」


「広くて暗い空間というと地下空洞などだろうか? 俺も覚えはないが、なにしろ第一迷宮は広いからな」



 第一迷宮の面積は、このG国が存在する大陸と同程度。

 捜索するにも、とても範囲を絞り切れるものではありません。



「困ったなぁ」「このままじゃ、せっかく」「生き返ったのに」「また飢え死に」「しちゃうかも」「岩と砂埃ばっかりで」「食べられる物も」「なさそうだし……って」「あれ?」


「何か場所の手掛かりになりそうな物でもあったのか?」


「ううん、場所は」「分からないけど」「今、そこの物陰に」「ちらっと」「人影が」「見えたような?」「あ、でも」「逃げちゃった」


「なにっ!」



 その言葉にシモンは飛びつきました。

 迷宮内の森で死んだサニーマリーが生き返った時に見覚えのない場所にいた。

 だとするならば、彼(彼女)を元の場所から移動させたのは生き返らせた犯人だという可能性が高い。犯人でなくとも一連の復活現象について何らかの事情を知っている人物である可能性は少なくないでしょう。


 この事件で初めて見えた手掛かりらしい手掛かりです。

 ここから何としても真相を掴まねばなりません。まあ手掛かり云々を抜きにしても、迷宮のどこかにいるサニーマリーが餓死する前に探し出す必要はあります。



「生き返ったばかりですまぬが、捜査への協力を頼みたい。ついては、そなたに会って欲しい者がいるのだが」



 シモンも、ここらで一つ思い切った手を打つことを決めました。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] いかんこのままでは…… 葬儀屋さんが軒並み失業して、展開が過疎かしてシモンの世界の人口が際限なく増えて 最悪異世界移住で人工減らすしかない。 [一言] 更新お疲れ様です これはひとつ…
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