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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
九章『信じる心があなたを救うと信じて』

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夜道の事件


・迷宮の中で死ぬと生き返る。

・生き返った際に死因となった要素は取り除かれる。

・『被害者』に年齢、性別、出身地などの共通点はない。

・復活現象が起こり始めたのは、ここ一ヵ月ほどの間。

・蘇りの発生ペースは時間が経つにつれて増えつつある。



「現時点で分かっているのはこれくらいか」



 つまり、ほとんど何も分からないということです。

 そう再確認したシモンは執務室にて深い溜め息を吐きました。


 つい先程、会議室でこれまでの調査結果を元に今後の捜査方針について話し合っていたのですが会議の結論は現状維持。つまりは、生き返った人物を探しては何か分かることがないか聞いて回るだけ。肝心の人が生き返る仕組みについて分からない以上、後手に回るのも仕方ありません。

 


「まあ、いざとなれば神頼みという手もあるが……」



 ですが、シモンにはまだ奥の手もあります。

 騎士団の仲間には明かせない裏技ですが。

 神頼み。つまり神様に直接訪ねる手も彼個人の選択肢にはあるのです。

 もちろん安易には使えませんし、なるべく人間の力だけで解決したいという気持ちもありました。それも単なる自己満足やプライドのためでなく、もっと現実的で切実な理由で。


 蘇りの仕組みを教えてもらえば全部解決……とはいきません。

 迷宮の元締めに尋ねて理屈を知ることができたとしても、それを第三者が納得できるような形で証明し、公表できるのかという問題があります。


 本来踏むべき捜査過程を飛ばして答えだけカンニングしたのでは、その部分に不安が残ります。自分だけが仕組みを知って納得できればいいレンリとはそこが大きな違いでした。どういう過程を経て生き返りの仕組みを解き明かしたのかを説明できなければ、より大きな藪蛇を招きかねないのです。



「……はぁ、今日はもう帰るか」



 気付けば、もう日付が変わろうかという時間です。

 このまま何度も読み返した資料を眺めていても進展は見込めないでしょう。夕食を食べていなかったことを思い出すと途端に腹の虫も騒ぎ出しました。



「もう皆は寝ている時間だな。途中で適当な居酒屋か食堂にでも寄って行くか」



 夜勤の当番兵に帰宅する旨を伝えたシモンは夜の街を歩き出しました。

 こんな時間でも酒類を提供している店なら開いている所もあるはずです。

 明日も朝から仕事ですし今の時間から本格的に飲むつもりはありませんが、軽めの酒に肉か魚の料理。あとはパンかスープでもあれば上等の夜食になるでしょう。


 帰宅経路近くにある店の中から、いくつかの候補が自然と思い浮かびます。

 脂身がカリカリになるまで焼いた豚肉。

 塩とハーブで味付けした魚の揚げ物。

 大ぶりに切った鶏肉と根菜がゴロゴロ入った具沢山シチュー。


 現在の気分や腹具合から判断を下した結果、  



「よし、シチューにするか。パンと軽めの酒を付けて、そうだ、あの店は焼き鳥も美味かったな。軽くつまむついでに土産に包んでもらって……うむ、なかなか良いじゃないか」



 シモンはシチューが評判の食堂へ向かうことにしました。

 難しい仕事を抱えている真っ最中ではありますが、四六時中、遊ばず休まず難しい顔をしていれば解決するなら誰も苦労はしません。むしろオンオフのメリハリをしっかり付けて、休む時は思い切り休み、楽しむ時は全力で楽しむのが本当に仕事の出来る人間というものです。


 普段は年齢不相応とも言える重責を担う彼も、まだまだ食べ盛りの十九歳の若者。

 こんな一人の時くらいは気を緩めて食事を楽しもうと、職場にいた時とは打って変わってウキウキした気分で店へと向かっていたのです、が。


 残念ながら、この晩のシモンは朝まで空きっ腹のまま過ごすことになりました。







 ◆◆◆







 それは突然の出来事でした。

 道を歩いていたシモンのすぐ目の前。



「む? 子供、いや違うか」



 深夜の街中を小柄な人影が一人でフラフラと歩いていました。

 立場上、幼い子供が夜遊びをしているならシモンとしては注意なり補導なりせねばなりませんが、その人物の耳を見て声を掛けるのを留まりました。エルフほど長くはありませんが、先端が尖った耳の先がおかっぱにしたグレーの髪から覗いています。


 シモンには正確な種族までは分かりませんでしたが、恐らくは何らかの妖精種であろうとは察せられました。ならば、ただ小柄であるというだけの理由で本当は成人しているかもしれない相手をいきなり子供扱いするのは非礼に当たります。


 まあ、それはそれとして。



「もし、そこの御仁。お節介ながら今宵はずいぶんと呑まれたようだな。気分が悪いのなら医者を呼ぶが……」



 今にも死にそうなほど青白い顔をしながらフラフラ頼りない千鳥足で歩いていたのでは、補導云々とは別の理由で不安が残ります。単に飲みすぎた酔っ払い……シモンも最初はそう思っていたのですが、すぐ違和感に気付きました。



「酒の匂いがしない?」



 アルコールの過剰摂取による体調不良であれば必ずあるはずの酒の匂いがありません。もし飲みすぎではなく急な病気などによる異常であれば急いで医者に診せる必要も出てきます。


 まあ、医者の必要はすぐ無くなりましたが。

 そう何故ならば……。



「う……」


「おい大丈夫か! 気を確かに持て!」



 その人物、双子妖精サニーマリーの片割れは、



「……わたしは、どこ?」



 その言葉を最期に呆気なく死んでしまったのです。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 久々のシモンしばらく夜食はお預けですね [気になる点] 妖精の場合自然界に近い存在なので復活できるかどうか……? [一言] 更新お疲れ様です 犯人に悪意が無いのか、有るのかで、女神さまの…
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