五つの魔剣の残り四つ
「はぁ……死ぬかと思った」
刀身がほんのり温かくなるだけという、ある意味恐るべき効果を持つ『炎熱の魔剣』で戦う羽目になったルグですが、どうにかこうにか魔物の撃退に成功しました。
「そう言う割にはちゃんと無傷で凌ぎ切ったじゃないか。えらい、えらい」
「うんうん」「思ったよりは」「強いんだね」
「怪我、なくて……良かった、ね」
「ルカ、心配してくれてありがとな……」
とはいえ、倒したわけではありません。
魔物のツノ攻撃をどうにかこうにか捌き続けていたら、ルグを手強いと見たのか、あるいは単に相手をするのが面倒になっただけかは不明ですが、しばらく剣とツノとを打ち合った後で相手の剣角鹿が突然逃げ出してしまったのです。
この勝負は実質引き分けみたいなものですが、しかし、ルグにとっては残念ながらこれで終わりではありません。
「さて、それじゃあ次は別の剣を――――」
「いや待て! 今度は戦い始める前に剣の説明をしてくれ!」
取材の為、ルグはまだ四本もの魔剣を振るわねばならないのです。
それも本日レンリが用意したのは、見ようによってはギリギリ成功といった程度の失敗作。先程の『炎熱の魔剣』は本来あるべき攻撃力がないだけで、どうにかこうにか普通の剣として使うことはできました。
しかし、よりデメリットの大きい欠陥品が残り四振りの中に含まれていないとも限りません。そんな代物を予備知識なしのぶっつけ本番で使うなど無謀もいいところです。
「やれやれ、まったくルー君は仕方ないなぁ」
「え、なんで俺のほうがワガママ言ったみたいになってるんだ?」
「じゃあ、その青い鞘の短剣から順番に説明していこうか」
一同は魔物の出ない安全地帯まで移動。
そして、レンリによる魔剣の説明が始まりました。
「青い鞘の短剣……これか」
「そう、それが『氷雪の魔剣』さ」
「わあ」「綺麗なナイフだね」「きれいきれい」
ルグが鞘から抜いたのは刃渡り三十cmほどの短剣。
まるで水晶を削り出したかのような透明感のある刀身。武器としてのみならず、芸術品としても通用しそうな美しい見た目だったのです……が。
「魔力を通すと……おい、レン。これって」
ルグが試しに魔力を流してみると外見は一変。
『氷雪』の名前から氷や低温に関係する効果だろうとは彼も想像できたのですが、美麗な刀身が一瞬で真っ白な氷に覆われてしまうというのは想定外でした。
その形状を例えるならば巨大なアイスキャンディー。刃の部分が完全に隠れてしまっているので、氷が溶けるまで刃物としての使用は不可能です。
「いやいや、これも使いようによっては便利なんだよ? この状態で荷物の中に突っ込んでおけば、チョコとかアイスみたいな溶けやすい物でも長時間持ち運べるし」
「え? いや、お前、これで俺に戦わせる気だったの?」
刃物としての機能は皆無。
氷の塊を鈍器として振り回すことはできるかもしれませんが、殺傷力としてはそこらの石を持って殴りかかるのと大して変わらないでしょう。
◆
「じゃあ、次行こうか! 次は『暗黒の魔剣』だよ。その真っ黒い鞘のやつね」
「ああうん、これな……」
疲れた声で返事をしながらルグは黒い鞘から剣を抜きました。
刃渡りは先程の『氷雪』より少し長いくらい。『暗黒の魔剣』などという物騒な名前にしては、普通の鉄剣と同じような銀色の刀身をしています。
「この『暗黒の魔剣』は使い方を間違えると自分の身に恐ろしい災いが降りかかることになるんだ。くれぐれも注意してくれたまえ」
「はいはい、分かったよ。それで何をどう注意すればいいんだ?」
「そうだね、何かちょうどいい的が……ああ、あそこの岩に切っ先を向けて、それから魔力を流してみてよ」
ルグは言われた通りに五mほど先の岩に切っ先を向けて魔力を流してみました。
すると、ああ、なんということでしょう!
『暗黒の魔剣』から噴き出した漆黒の闇が的となった岩へと一直線に降りかかり――、
「……これ、もしかしてインクか?」
「うん、そうとも。その短剣の中が空洞になっててね。柄の部分に充填したインクが、魔力を通すと風魔法の空気圧で一気に噴き出すって寸法さ」
『暗黒』などと大仰な名前が付いていますが要するにインクが飛び出す水鉄砲です。
まあ、敵の意表を突く目潰しとしては有効かもしれませんが。
「そのギミックを仕込むのがすごく大変でさ。試作中にうっかり発動させちゃって自分でインクを被る羽目になっちゃったんだ。念の為、お風呂場で作業をしてて良かったよ」
「さっきの」「恐ろしい」「災いって」「体験談だったんだね」
「あと、中空構造にしたせいでだいぶ強度が落ちちゃったから、それで魔物を攻撃しようとすると多分一発で刃が砕けるよ」
実戦でいきなり使う前に説明を聞くことにして良かった、と。
ルグは心の底からそう思いました。
◆
「さあ、お次は『光の魔剣』さ! その白い鞘の長いのだよ」
「はいはい、今度は白いペンキでも噴き出すのか?」
物凄く疲れた声で返事をしながら、ルグは指定された白鞘の長剣を抜きました。
金色の紋様が刻まれた白銀色の刀身。
相変わらず、見た目だけなら文句なしに名剣です。
「レン、また何か使う時の注意とかあるか?」
「うん。魔力を流す時は忘れずに目を瞑ってね。手の平で顔を覆うくらいしたほうがいいかも。ルー君だけじゃなくて皆もね」
「は?」
しかし、この『光の魔剣』にもロクでもない仕掛けがあるのでしょう。
今度の魔剣を使う際には使い手だけでなく周りの人間まで目を閉じるように。
そのような奇妙な注意がある剣がまともなはずがありません。
「じゃあ、皆ちゃんと目を目を閉じてろよ。三、二、一……ゼロ」
すぐ近くに魔物がいたら自殺行為ですが、幸いこの場は安全地帯。
周囲に他の人間の姿も見当たりません。
ルグは片手で顔を隠したまま『光の魔剣』の効果を発動させました。
「うおっ!?」
「わあ」「びっくり」「ぴかぴか」
「すごく、眩しい……ね」
瞬間、まぶたどころか顔を覆った手の平ごしでも分かるほどの強烈な閃光が放たれました。あらかじめ注意を受けていたから良かったものの、そうでなかったら間違いなく目が眩んでしまい、少なくとも数分間は何も見えなくなっていたでしょう。
「これが『光の魔剣』の効果だよ。いやね、最初は敵だけに向けて光を放つようにしたかったんだけど、どういうわけか刀身全体から全方位に向けて光が出るようになっちゃって」
「この危険物は永久に封印しとけ!」
目潰しの効果を狙ったという意味では先程の『暗黒の魔剣』と一緒ですが、こちらの対象は周囲全方位を無差別に。気配や音だけで戦える達人でもなければ、敵も味方もまとめてパニック状態になること確実です。
◆
「さあ、次が大トリだよ。これこそが『狂気の魔剣』さ!」
「名前からして嫌な予感しかしないんだけど……」
そして最後の五本目。
レンリのやけに自信あり気な様子に逆に嫌な予感を覚えざるを得ないルグでしたが、これさえ終われば解放されると信じて残る一本の短剣を抜きました。
「……見た目は普通だな」
『狂気』などという物騒な名前の割に外見におかしな部分はありません。
ですが、まだまだ油断は禁物。
これまでの剣も見た目だけは良かったのです。
「それじゃあ、早速魔力を通してみたまえ。大丈夫、この剣の効果は即座に身の危険があるようなものじゃないから」
「じゃあ、気は進まないけど…………何も起きないぞ?」
嫌々ながらに魔力を流してみたものの、これまでの剣と違って特に何か変化があるようには見えません。刀身の温度が上がったり下がったりもしていないようです。
「それでいいのさ。ルカ君。サニーマリー君達。ちょっとこの状態で短剣の腹の部分に触ってみたまえ。指先で軽く触れるだけでいいから」
「なになに」「気になるね」「触れば」「いいんだね?」
「う、うん……それじゃあ」
相変わらず観察する限りでは危険そうには見えません。
好奇心旺盛なサニーマリーは迷わずに、ルカも続いて恐る恐る、『狂気の魔剣』の腹の部分を指先で軽く突いてみました……まさか、あんなことになるとは思わずに。
「なにも」「起きな……」「あれ?」「あれれ?」
「ど、どうし……え、身体が……か、痒い?」
刀身に触れた直後、彼女達の身に魔剣の効果が現れました。指先で軽く触っただけだというのに、頭から足の先まで、全身が蚊に刺されたように痒くなってしまったのです。
「効果は一分くらいで自然に切れるから、なるべく掻かずに我慢したほうがいいよ」
「そ、そう……言われて……も」
決して我慢できないほどの痒みではありません。
ですが、虫刺されや病気でもない健康な皮膚があちこち痒くなってしまい、ついつい掻こうと手が伸びてしまいます。これが戦いの場であれば、これほど集中力を欠く状態は致命的でしょう。
「ほら、私が覚えた例の魔法あったろう? こないだ夜中に虫刺されが痒くて寝付きが悪い日があったんだけど、ダメ元で『痒み』の概念を私から引っ剥がして部屋にあった適当なナイフに貼り付けたのがソレね。いやまさか、あの魔法が虫刺されに効くとは思わなかったよ」
「そんな……て、適当な……ふぅ、やっと引いてきた……」
製作過程の適当さはさておき、触れた相手に強烈な痒みの感覚を押し付けて集中力を奪う効果は、実戦性という観点から見ればなかなかのモノかもしれません。相手の正常な思考を阻害するという意味では『狂気』の名も相応しいものでしょう。ただし……。
「んん? おい、レン。これって」
「ふふふ、皆まで言わずとも分かっているさ。刀身に触れるより効き目が出るのが遅いけど、そのナイフ、普通に持ってるだけで痒くなっちゃうんだよね」
「やっぱり欠陥品か……っ!」
ただし、魔剣を持っている本人まで強烈な痒みに苛まれるという欠点はとても無視できるものではありませんが。効果が出るまでの時間差を利用して速攻を仕掛けるというのもリスクが高すぎます。
「さあ、これで説明は終わりだよ。また適当な魔物でも探しに行こうか。これら五つの魔剣を操るルー君の活躍に乞うご期待!」
「期待すんな! 俺は絶対使わないからな!」
結局、こんなネタ武器で戦いたくないというルグと彼の身を案じるルカの反対。そして剣の効果についてだけでも十分に記事が書けそうだというサニーマリーの意見により、この日はお開きということになりました。
◆◆◆
そして数日後。
「やあ、こんにちは」「こないだは」「ありがとうね」「おかげさまで」「キミ達の記事」「大評判だったよ」「特集バカ受け」「新聞バカ売れ」「編集長にも」「褒められちゃった」
「ふふふ、いや大したことはしてないさ、ふふふ」
「えぇ、マジか……」
「ちょっと……恥ずかしい……かも」
あの日の取材内容をまとめた記事は学都の人々の間で密かな評判となり、レンリ達は前よりもちょっとだけ有名になりました。色物として。
面白かったら評価や感想などお願いします
なるべく褒め言葉マシマシで




