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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
九章『信じる心があなたを救うと信じて』

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聖剣使いの能力差に関する疑義の提示および考察


「いやいや、弱いってことはないだろうさ」


 ユーシャの発言に対してレンリがこのように返しました。

 別に気を遣ってお世辞を言っているわけではありません。

 今日の模擬戦の結果だけ見れば百戦百敗ではありますが、あれは流石に相手が悪い。リサ相手に百に一つでも勝ち星を挙げられる者など、この世界中を探しても片手の指に満たないでしょう。


 その結果を指して弱いと言うならば、この世の中に弱くない人間などほとんどいなくなってしまいます。比較対象を人間に限らず魔物やウルたちを含めても同じこと。それは単に強さ弱さを測るための基準点を誤っているだけと見るべきです。



「うん? もしかして、レンリはわたしを励まそうとしてくれてるのか? ああいや、誤解させてしまったかもしれないが別に負けて落ち込んでるとかじゃないんだ」


「なんだい、よく分からないことを言うね?」



 ですが、この場合はそもそも会話のスタート地点からズレていただけ。ユーシャの意図を他の皆が読み違えていただけだったりします。



「わたしとリサの姐御は両方とも聖剣を使うだろう?」


「ユーシャ君。その呼び方は多分喜ばれないだろうから変えたほうがいいよ」


「そうかな? そうかも? それで、同じ武器を使っているのにあっちとこっちの強さに大きな差があるのは皆も見た通りなんだけど」


「それこそ言っても仕方ないというか当たり前じゃないかい? 向こうは十何年も聖剣を扱ってるベテランなんだし得物が同じでも習熟度に差が出てくるのは……いや、違うのか?」


「うん、レンリも分かってくれたか。他の武器ならともかく、聖剣使い同士で武器を扱う技術に大きな違いが出てくるのはおかしい。だって聖剣には、どんな形に変形しても常に完璧に使いこなせるって力があるはずなんだ」



 聖剣の持つ能力は多岐に渡りますが、その中でも代表的なのがどんな形状にも変化する変形能力。そして、どんな形になっても使い手が完璧に使いこなせるという能力です。



「うーん、よくよく考えると反則にも程があるよね」


「うん、わたしも自分でそう思う」


「まあ、いつかは私の人造聖剣でもその機能を再現して見せるとも」



 本来、一つの武器を扱えるようになるまでには長い時間を要します。

 「扱える」ではなく「極める」まで行くならば、それこそ才能や環境に恵まれた人物が生涯を費やしても足りるかどうか。

 しかし勇者が聖剣を使う場合に限っては、剣でも槍でも弓でも何であれ、初めて握ったその瞬間には既に極みに達しているというのだから、これは反則と言われるのも仕方がないでしょう。



 ですが、その性質こそが今回の件をややこしくしていました。

 同じ武器を完璧に使える勇者同士。

 その条件ならば、本来あれほど顕著な差が生じることはないはずなのです。


 例えば一方が長剣型の聖剣を出して、もう一方が槍型の聖剣を出す。

 そのように異なる武器をそれぞれが選択した場面であれば、武器の相性などによって有利不利が生じることはあり得るでしょう。また、状況に応じてどの武器種を選択するかという部分にセンスや経験から差が出てくることもあるかもしれません。


 しかし、今日の戦いでは双方が同じ武器を使っていたケースも少なからずありました。特に最後の百戦目。どちらもオーソドックスな長剣形態の聖剣を用いていたにも関わらず、結果はユーシャの完敗。同じ武器を同じように使いこなしているはずなのに、です。



「なるほど、言われてみれば不思議だね」


「うん、不思議だろう」



 何故、あの条件下でユーシャが一方的に負けたのか。

 他の皆も同じように首を傾げるばかりです。



「その聖剣本人の意見は……っと。ゴゴ君は席を外してたんだっけ」


「そういえば、まだ戻ってこないな。ああ、そういえば、わたしとリサの姉貴の違いについて、もう一つゴゴに聞いてみたいことが――――」



 ユーシャが言葉を最後まで口にする寸前のことです。

 店の奥からゴゴが慌てた様子で駆けてきました。


 しかし、その雰囲気は只事ではありません。

 迷宮達の中では(ユーシャ関連での前科を差し引いても)理知的で優等生的なイメージのゴゴですが、今は見るからに狼狽し、何かに怯えているようです。



『み、皆さん!? すみませんが匿って下さ……ひえっ!?』



 既に迷宮としての覚醒を果たしたウルやヒナと違い、ゴゴは使い手から離れると見た目通りの子供程度の身体能力しかありません。まさか、よりにもよってこの店に強盗でも来たのかと一同は席から腰を上げて臨戦態勢に入りかけましたが……ゴゴに続いて姿を現したのは意外な存在でした。



【こら、どこに逃げた。まだ話は終わっておらぬぞ、このナマクラめが】


「小鳥?」



 店の奥から飛んできたのは、子供の掌にすっぽり収まりそうな可愛らしい小鳥。ですが、その身体は羽毛の一本一本までが金属的な光沢を発しており、普通の鳥類とは明らかに異なる存在であることが分かります。


 先程の言葉はどうやらこの銀色鳥が発したようです。

 そして、シモンやライムにとっては面識のある相手でもありました。

 いえ厳密には、この場の全員が既に何度も目にしているのですが。



「何かと思えば聖剣殿か。その姿を見るのは久しぶりだが、一体何が……」


【おお、そこにいるのは我が主の弟子殿か。ちょうど良かった。この辺りで人の子供の姿をした剣を一振り見なかっ……いや、見つけたぞ。そこに直れ。その根性、炉に放り込んで叩き直してくれるわ】


『ひぃっ!?』



 小鳥の正体はリサの聖剣。迷宮でありながら聖剣でもあるゴゴにとっては、それこそ兄や姉のような存在のはずなのです……が。




◆◆◆◆◆◆


《おまけ》


挿絵(By みてみん)




ちょっぴり絵が上手くなりました

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― 新着の感想 ―
[良い点] ゴゴはまだナマクラ…… 聖剣お兄さんが鉄は熱いうちに打てと言ってますね ただ、熱が入り過ぎて【聖剣ハートマン軍曹】にならないか心配ですね。 [気になる点] 色々調べるために、半年くらいゴ…
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