勇者シスターズと複雑な人間関係など
「妹が出来たみたいか。だったら、勇者の先輩ではなく姉さんとかお姉ちゃんとか呼ぼうか? と、気を利かせてみるなどしてみる。姉上とか姐さんでもいいぞ」
「最後の呼び方はちょっとニュアンスが違う気がしますけど、ユーシャちゃんが本当のお姉ちゃんみたいに思ってくれるなら嬉しいです。わたし一人っ子だから小さい頃は兄弟が欲しかったんですよ」
「うん、では今後は勇者の先輩後輩、兼姉妹っぽい関係ということで一つよろしく」
本日の模擬戦百連続の目的は親睦を深めることでした。
この様子を見るにその目的は十分に達せられたようです。
「むむ? リサ……姉さん? お姉ちゃん? が、わたしの姉貴分になったということは、それはつまり勇者二人がまとめてお父さんとお母さんの子供になったようなものなのでは? なのでは?」
「あれ、そうなるのかな? だったら、ルグ君とルカちゃんがわたしの義理の両親ということに? えーと、パパとかママとか呼びます?」
「それは勘弁して下さい……っ!」
ただでさえ突然生えてきた娘の存在を持て余しているルグ達には、尊敬する恩人が追加で娘ポジションになるのは受け入れがたい様子。リサと親しくなること自体は光栄かつ歓迎するところではあれど、十歳以上も年上の既婚女性にいきなりパパママ呼びされるのは十代の少年少女には荷が重いというものです。
まあ、そりゃあそうでしょう。
ルグは今にも土下座で許しを乞いかねない勢いで、リサが安易にその設定を受け入れないよう頼み込み、その後ろでルカもコクコクと頷いて彼への同意を示しています。
「やれやれ、お父さんはワガママだな。まあどうしてもと言うなら仕方ない。二人まとめてとは言わないから、わたし一人を認知するだけで勘弁してあげよう」
「そ、そうか? それくらいなら……いや、その理屈はおかしい」
結局、そのあたりの人間関係のポジショニング議論に関しては曖昧なまま終了。うっかり妥協しそうになったルグも土壇場で我に返り、どうにか結論を出させないまま逃げ切りに成功しました。
◆◆◆
この日の夕食は迷宮都市で魔王が経営するレストランで摂ることになりました。本来であれば列車で半日の距離もリサの転移術があれば一瞬です。
「帰りは皆のお家まで送っていきますから、ゆっくりして行って下さい。さあ、美味しい物をいっぱい作ってきますからね!」
その転移術も本来は非常に高度な魔法であり、日帰り旅行感覚で気軽に使用できるものではないのですが(現に、同系統の術を覚えたライムでも今はまだ最大数十メートルの移動が精一杯)、今更そのあたりを気にしても仕方がありません。ここの一家と付き合う時のコツは物事を深く考えないようにすることなのです。
『はい、レンリさん。お水をどうぞ』
「おや、ヒナ君いつの間に? ああいや、こっちのヒナ君とは違うヒナ君か」
『ええ、そうよ。時々、姉さん達とお店のお手伝いをしているの』
皆が客席で寛いでいると、ウェイトレス風の格好をしたヒナがお冷のグラスを運んできました。学都と迷宮都市間の連絡役として、ウルとゴゴとヒナは自分達のうちの一体をこの家に置いているのですが、どうやらこちらはこちらで楽しく過ごしているようです。
『流石、我はウェイトレスさんの格好も似合うの』
『ふっふっふ、それほどでもあるのよ。流石、我は見る目があるの』
『うんうん、美少女は何を着ても似合っちゃうものなのよ』
同じく店のお手伝い中だったらしいウルも、皆と一緒に来たほうのウルに衣装を褒められてお調子に乗っています。同一人物同士のやり取りと考えると、なかなかシュールな光景かもしれません。
「ところで、ウル君達。こっちのゴゴ君はいないのかい?」
『あれ、さっきまでいたのにどこに行ったのかしら?』
『厨房じゃないかしら? ゴゴ姉さんは刃物の扱いが上手だから、っていうか刃物だから。たまに野菜の皮むきとかのお手伝いをしてるのよ』
「そういえば、わたしと一緒にいたほうのゴゴもいつの間にかいないな? まあ、食事が始まる頃には戻ってくるだろう」
何故かゴゴの姿だけは見えませんが、この店より安全な場所など世界中探してもそうはありません。まさか人攫いに遭ったはずもないでしょう。皆、ゴゴの不在に関しては深く気にすることなく、料理を待ちながら楽しくお喋りを続けています。
さて、その最中にユーシャがこんなことを言い出しました。
「もしかして、わたしって弱い?」




