リサ対ユーシャ 三~百本目
「じゃあ、動きが無さすぎるのも禁止で」
新旧勇者対決。
二本目の勝負が終わった後で更なる追加ルールが付け足されました。
一歩も動くことすらなく、勝負が始まった時点で既に結果が確定しているような戦法は、確かにすごいと言えばすごいのですが同時に重大な欠点もあります。
「ああいう戦い方は正直見てて面白味に欠けるかなぁ、と」
「なるほど、せっかくなら皆が見てて楽しめるほうがいいですよね。それじゃあ次からは適度な動きがありつつ、それでいて威力がありすぎない方向でいきましょうか」
「うん、分かったぞ。面白い感じに戦えばいいんだな」
幸い、レンリ達の要望をリサとユーシャも受け入れてくれました。
そして早速、新たな意見を反映させての三回戦が……。
「おおっ、また捕まってしまったな。砂漠が海みたいになってる。この水みたいになってるのも聖剣なのか?」
「ええ、そうですよ」
三十秒ほどで決着しました。
三本目はまたもやリサの勝利です。
聖剣はどんな形状にも変形できる。
その性質を利用して、ギャラリーの皆がいる場所以外を液体金属と化した聖剣の海に沈め、咄嗟に高く跳んで逃げようとしたユーシャを四方八方からの大津波で飲み込んでの決着でした。
◆
少し飛んで十本目。
「おお、これはゴゴが言っていた鉄砲という武器だな」
リサは両手に拳銃型の聖剣を持って、パンパンパンと二丁拳銃スタイルで景気よく弾丸を発射しています。火薬の爆発力は魔力で代用。弾自体も聖剣を変形させた物なので弾切れはありません。
「だけど、これくらいなら大丈夫だ。よっ、ほっ、と」
「ふふ、頑張りますね。じゃあ、これならどうです?」
拳銃の連射くらいまではユーシャも頑張って軌道を見切り、避け切れない分に関しては剣で叩き落とすなり軌道を逸らすなりしていたのです、が。ガガガッ。
「あ、これはちょっと無理だ」
二丁拳銃から二丁ガトリング砲に切り替えられると流石に対応は難しいようです。ガガガッと吐き出される弾丸の数は毎分約六千発ペース。リサはそれを両手に構えているので更に倍。本来は決して片手で扱うような武器ではないのですが、そんなことはお構いなしです。
「あ痛っ……いや、痛くないな?」
こんなトンデモ武器の猛連射を喰らったら人間などたちまちミンチ肉になってしまうところですが、それについてはご安心。形状を自在に変えられるということは、必要に応じて構造物の強度硬度を下げられるということです。
放たれた弾丸の強度はふわふわのスポンジケーキと同じくらいでしょうか。その柔らかい弾丸を雨あられと喰らって、ダメージ皆無のままユーシャの十連敗が決まりました。
◆
だいぶ飛んで三十本目。
「あれは知ってるよ。多分、ヒコーキってやつの仲間じゃないかな?」
レンリ達ギャラリーは上空で繰り広げられる戦いを眺めていました。
リサは聖剣を変形させて作り出したプロペラ戦闘機を巧みに操り、空中を自在に右へ左へ。見ている皆へのサービス精神を発揮して華麗なアクロバット飛行を繰り広げています。
一方のユーシャは鎖状に伸ばした聖剣を戦闘機の尾翼部分に巻き付けて、落下しないよう握り締めていました。当然、飛行機が向きを変えるたびに激しく振り回される形になりますが、それで吹っ飛ばされるほど軟弱な握力ではありません。
しかも少しずつではありますが鎖を辿って昇り、戦闘機への距離を縮めつつありました。このまま間合いを詰めて機上で接近戦に持ち込む算段のようです。
こうまで近いと通常の戦闘機の武装による対抗は困難。
まあ、この場合は乗り手が乗り手なので何の問題もありませんが。
「あっ、飛び出したね」
『で、組み付いたの』
突如、操縦席から飛び出したリサが鎖に掴まっていたユーシャに突撃。力を入れにくい向きに手足の関節を固め、そのまま強烈なスクリュー回転を加えつつ二人して地面に墜落し――――。
「ユーシャ君、頭からモロに落ちたけど大丈夫かな?」
『ピンピンしてるし全然大丈夫そうなの。きっと砂がクッションになったのね』
「そうか、砂がクッションになったのなら無事な理由にも完全に説明が付くね」
最早ツッコミを放棄しつつあるレンリ達の目の前で、リサの三十連勝が決まりました。
◆
更に大きく飛んで九十九本目。
途中で食事やトイレ休憩など挟みつつも、一戦あたりの所要時間は一分未満から長引いても五分くらいでテンポ良く進んできています。
「あれは人型のゴーレム……とは何か違う気がするね?」
『きっとロボってやつなの! カッコいいの!』
この戦いでリサが作り出したのは全長二十メートルを超える巨大な人型。
それだけならゴーレム魔術の練度次第では似たような物を作れそうですが、その外観はずんぐりむっくりとした一般的なゴーレムとは大きく異なります。
いつぞやレンリ達が学都の魔法兵達が操るゴーレムと模擬戦を行った際に、相手のゴーレムがでっぷりとした土の身体を圧縮させ、素早い動きが可能なスマート体型に変化したことがありました。
その発想を更に発展させたかのような洗練された雰囲気がそこはかとなく感じられます。具体的にはスマートな身体の各所に格好良さげなデザインの武装や鎧兜らしきパーツを纏っていました。そして、そこから繰り出される必殺の――――。
「あ、ユーシャ君が気を取られてる隙に普通に背後を取ったみたい」
『仕方ないのよ。だって、子供はロボが好きだから……!』
巨大ロボは特に関係なく、普通に背後を取って剣を突き付けて決着。精神が子供同然のユーシャはウルと同じように格好良さげなデザインのロボに心を奪われて隙だらけになってしまったのです。巨大人型兵器はロマン。こればかりは仕方がありません。
これでリサの九十九連勝。
◆
「もうすぐ夜になりますし、これで最後にしましょうか」
そしてラストの百戦目。
最後くらいは普通に、というつもりなのでしょうか。リサとユーシャはどちらが言い出すともなくオーソドックスな長剣の形をした聖剣で普通にチャンバラをして……。
「はっはっは、今日は一緒にいっぱい遊べて楽しかったぞ」
「うふふ、わたしも妹が出来たみたいで楽しかったですよ」
「そうか、今度はわたしも一回くらい勝てるように頑張るぞ」
剣同士の勝負でも普通にリサが勝ちました。
不意打ちや駆け引きを駆使するまでもなく、ごく普通に。
新旧勇者対決。
リサの百連勝にて決着。




